じじぃの「歴史・思想_613_宮本弘曉・日本の未来・7つの分野・医療・健康」

社会保障給付費 過去最高の121兆円(2020年10月17日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=LY815qvOo-8


101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国債通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

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『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第2章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(前編)――メガトレンドの変化が影響を与える「7つの分野」 より

ここまで、日本・世界経済を取り巻く3つのメガトレンドの変化――「人口構造の変化」「グリーン化」「テクノロジーの進歩」について見てきました。これらのメガトレンドの変化は社会に様々な影響を与え、私たちの生活や働き方すら一変させます。
本章及び次章では、これら3つのメガトレンドが影響を与える「7つの分野」に注目して、それぞれの分野の現状と課題、そしてその未来図について考えます。その7つの分野とは次の通りです。
 1.経済成長
 2.財政
 3.医療・健康
 4.農業・食料
 5.教育
 6.エネルギー
 7.地方・住宅問題
もっとも、これらの分野はそれぞれが独立しているわけではなく、互いに影響しあうものです。例えば、人は年をとると病気になりやすくなったり、怪我をしやすくなったりします。つまり、高齢化が人々の健康に影響を与えた結果、医療や介護にかかる費用が増加します。これは社会保障費の増加を通じて、国の財政悪化につながります。

メガトレンドが影響を及ぼす分野③ 医療・健康

本項では、人々の健康や医療・介護と、3つのメガトレンドの関係について見ていきたいと思います。
これまで見てきたように、人口構造の変化に伴う高齢化によって、身体障害や慢性疾患は増加していくので、健康や医療に大きな影響を与えます。それに伴い医療費や介護費は増加するため、国の財政を圧迫します。
しかし、その一方で、医療現場でのテクノロジーの発展はすさまじく、今後、人々の健康や暮らしに大きな変化を与えると考えられます。さらに、地球温暖化が人びとの健康に与える影響もかなり大きいとされています。
このようにメガトレンドは経済分野だけの問題ではなく、実際に我々の生活に大きな影響を与える問題なのです。

高齢化と医療・介護費

最初に、人口構造の変化――高齢化と医療や介護、健康の関係を考えます。おそらく、読者の方の多くは、高齢化と医療・介護の関係と聞くと、その費用に関する問題が頭に浮かぶのではないでしょうか。
医療や介護は、年金や雇用、労災とならぶ社会保険制度の一種です。保健制度なので、その費用は本来、サービスを受ける人々が払う保険料でまかなうものです。
しかしながら、実際には、国や地方自治体による公費が投入されています。医療保険では財源の約4割、介護保険では財源の5割が公費でカバーされています。
図(画像参照)は社会保障給付費の推移と予測を示したものです。社会保障給付費とは年金・医療・介護・福祉といった社会保障制度を通じて国民に給付される金銭やサービスの合計額のことです。2021年度の社会保障給付費は約129.6兆円で過去最高となっています。特に近年、医療と介護の給付額の伸びが大きいことがわかります。

みなさんの中には「2025年問題」という言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。2025年にはいわゆる「団塊の世代」が全員75歳を超えて、後期高齢者となります。

この時、75歳以上の人口は2180万人となり、総人口の約18%を占めると予測されています。つまり、日本人の5.5人の1人が75歳以上になるものです。2025年問題とは、これほどの高齢国家が訪れることで生じる様々な問題のことを言います。
2025年問題で特に深刻なのが、医療・介護用の増加とそれに伴う現役世代の負担増です。具体的には、75歳以上の後期高齢者の医療費は1人当たり年間約92万円で、65~74歳の前記高齢者の約55.5万円と比べると、約1.6倍となっています。
また、介護費用は、後期高齢者では1人当たり年間約47万円で、前期高齢者の約4.9万円のおよそ10倍まで膨れ上がります。ない、厚生労働者のデータによれば、日本人が生涯で使う医療費は1人当たり2700万円ですが、75歳以上でその4割にあたる1000万円を費やすとされています。
さらに今、「2040年問題」と呼ばれる問題も叫ばれています。これは、2040年頃には団塊ジェニア世代が高齢者となり、65歳以上の人口が約4000万人でピークに達するとされ、さらなる医療・介護者の増加が見込まれる問題です。
財務省は、団塊の世代全員が75歳以上となる2025年には、医療と介護にかかる費用が2018年と比べてそれぞれ1.2倍と1.4倍に、2040年には医療・介護費は2025年と比較してそれぞれ1.4倍、1.7倍に膨れ上がると予想しています。
これらの結果、社会保障給付費は今後も持続的に増加し、2025年には約140兆円、2040年には約190兆円まで増加すると予測されています。

日本が抱える「介護の課題」

医療の次に、介護に関する問題を見ていきましょう。
最初に見ていくのは、「介護保険制度」です。日本の介護保険制度は、介護が必要になった人に社会保険でその費用を給付する仕組みで、2000年4月に始まりました。増加する高齢者の介護を社会全体で支える「介護の社会化」を図ることをその最大の目的としています。
先ほども少し触れましたが、その財源の半分は公費で、残りの半分は40歳以上のすべての人が負担する保険料です。被保険者は65歳以上の第1号被保険者と、45歳以上64歳以下の第2号被保険者です。給付が受けられるのは要支援・要介護の認定を受けた人です。
介護は誰にでも、またどの家庭にも起こりえる課題ですが、加齢とともに急速に介護が必要となる人は増えていきます。図は65歳以上の被保険者について、要支援・要介護の認定を受けた人の割合を表したものです。65~69歳で要介護の認定を受けた人は2.9%ですが、75歳以上になると認定率は32.2%まで上昇します。さらに年を重ね、85歳以上になると、約6割の人が認定者となります。
また、高齢者が要介護となる最も多い原因は「認知症」です。図をみると、65歳以上の認知症患者数は、2012年には約460万人で高齢者人口に占める割合は15%でしたが、各年齢の認知症有病率が一定の場合でも、2030年には20.2%、2069年には24.5%まで上昇すると推定されています。

AIが医療にもたらす革命

また、AIは医療に革命的な変化をもたらそうとしています。
AIがその威力を発揮する分野のひとつが画像診断です。X線、CT、超音波検査、MRIなどの画像診断において、AIの精度は人間のそれを超えるレベルに達していると言われれいます。例えば、東京大学のスタートアップのエルピクセルが開発したアルゴリズムでは、脳MRI画像データから90%以上の確率で脳動脈瘤を自動で検出することが可能です。
日本では、設置されているCTやMRIの数は他の先進国と比べて突出して多いのに関わらず、診断を行う専門スキルを持った画像診断医は少なく、その負担が大きくなっているのが問題視されています。また、過疎地など医師が少ない地域では画像診断ができないとの問題もあります。AIによる画像診断はこうした問題を解決するものと期待されています。
また、AIによりスマートフォンウェアラブル端末が家庭用の診断ツールになりつつあります。最近のスマートフォンは心拍数や呼吸数を計測することが可能です。また、体温や血圧などを測れるウェアラブル端末もあります。こうしたスマートフォンウェアラブル端末で集めた情報をAIを解析することで、在宅でのモニタリングを行い、何か異常があれば、必要なタイミングで医療機関への受診を促すことが可能になります。実際に、海外では医師のように問診ができるAIアプリも開発されています。
AIは創薬でもその活躍が期待されています。新しい薬を作るには長い年月とコストが必要です。研究開始から承認取得までには9~17年、1成分あたり1000億円近くの開発費用がかかるとされています。さらに、成功確率も2万~3万分の1と非常に低く、新しい医薬品を創出することは容易ではありません。
しかしながら、ビッグデータを利用することで、開発期間を短縮し、開発費用も抑えられると期待されています。さらに、これまで効果的な薬が開発されていない疾患に対して画期的な医薬品の開発ができるとも言われています。
また、ゲノム医療も「がん」については実用化が近いとされていますし、3Dプリンティングも、医療器具や義足などの多種多様な器具が3Dプリンターで作成され、医療の世界でその利用は爆発的に増えています。さらに、再生医療からも目が離せません。医療分野における技術進歩は、医療の質を向上させ、患者や国民に大きなメリットをもたらすと考えられます。