じじぃの「歴史・思想_612_宮本弘曉・日本の未来・7つの分野・財政」

第68回 少子高齢化で成長しないの嘘を暴く!GDPは無意味だ

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Yn6TVGhPqKo

高齢化する国では財政刺激の効果が低い可能性


高齢化する国では財政刺激の効果が低い可能性

IMF BLOG
我々の研究結果のグラフが示す通り、財政刺激策が経済成長に及ぼす効果を見ると、年齢構成がより若い国で大きなプラス効果が生まれている一方で、高齢化が進んでいる国では財政刺激策の効果はそれよりも相当に低い。
こうした分析を行ううえで、我々は1985年から2017年についてOECD諸国の17ヵ国のうち、高齢者が人口に占める割合に基づいて2つのグループに分けて研究した。高齢化が進行する国々では、老年人口比率(15~64歳人口に対する65歳以上人口の比率と定義される)の平均値が26.5%である一方で、高齢化が進行していない国では同比率が18.9%になっている。
https://www.imf.org/ja/Blogs/Articles/2020/08/07/chart-of-the-week-aging-economies-may-benefit-less-from-fiscal-stimulus

101のデータで読む日本の未来

宮本弘曉(著) PHP新書
「日本人は世界経済の大きな潮流を理解していない」。
国債通貨基金IMF)を経て、現在は東京都立大学教授を務める著者は、その結果が日本経済の停滞を招いたと語る。
そこで本書では、世界と日本を激変させる3つのメガトレンド――①人口構造の変化、②地球温暖化対策によるグリーン化、③テクノロジーの進歩について、その影響を各種データとファクトから徹底的に検証。日本人が勘違いしている「世界経済の変化の本質」を理解した上で、日本社会の現在、そして未来に迫る。

                  • -

『101のデータで読む日本の未来』

宮本弘曉/著 PHP新書 2022年発行

第2章 メガトレンドが影響を及ぼす7つの分野(前編)――メガトレンドの変化が影響を与える「7つの分野」 より

ここまで、日本・世界経済を取り巻く3つのメガトレンドの変化――「人口構造の変化」「グリーン化」「テクノロジーの進歩」について見てきました。これらのメガトレンドの変化は社会に様々な影響を与え、私たちの生活や働き方すら一変させます。
本章及び次章では、これら3つのメガトレンドが影響を与える「7つの分野」に注目して、それぞれの分野の現状と課題、そしてその未来図について考えます。その7つの分野とは次の通りです。
 1.経済成長
 2.財政
 3.医療・健康
 4.農業・食料
 5.教育
 6.エネルギー
 7.地方・住宅問題
もっとも、これらの分野はそれぞれが独立しているわけではなく、互いに影響しあうものです。例えば、人は年をとると病気になりやすくなったり、怪我をしやすくなったりします。つまり、高齢化が人々の健康に影響を与えた結果、医療や介護にかかる費用が増加します。これは社会保障費の増加を通じて、国の財政悪化につながります。

メガトレンドが影響を及ぼす分野② 財政

いきなりの質問で恐縮ですが、「27万円」と聞いて、何を思い浮かべますか?

この質問を大学の講義ですると、よくある答えは、「大卒の初任給」と「日本人の平均月給」です。果たして正解なのでしょうか。それぞれの数字を確認してみましょう。
厚生労働省の「賃金構造基本調査」(2020年)によると、大卒初任給の平均額は約22万円です。ただし、これは額面金額で通勤手当も含んだものです。税金や社会保険料などを引くと、実際に手にする「手取り額」は約17万円となります。
一方、同調査によると、一般労働者の男女計の平均賃金は約31万円となっています。賃金は年齢や性別、職種、雇用形態、地域などの違いによって異なりますが、日本人の平均月給は約31万円ということです。手取り額は25万円前後になります。したがって、大卒の初任給も日本人の平均月給も、冒頭の問題の答えではありません。

では、「27万円」とは、何の数字なのでしょうか。その答えは、1秒間にかかる国債の利払いです。

国債とは国が発行する債券で、簡単にいうと国の借金です。借金ですから、国は利子を払います。その金額が1秒間で27万円ということです。

日本の財政が危機的状況に陥ったワケ

まずは日本政府の台所事情を確認しておきましょう。図を見てください。これは2021年度の国の歳出と歳入を表したものです。
まずは歳出を見てみましょう。2021年度の歳出総額は106.6兆円で、過去最大となっています。最も大きな比重を占めているのが、医療、年金、介護などの社会保障費です。その額は35.8兆円と、歳出全体の約3分の1を占めています。
次いで大きいのが国債費の23.8兆円で、歳出全体の約22%を占めています。国債費は、過去に発行した国債に対して支払う利払い費と、償還日を迎えた国債の償還金および事務取扱費を合計したものです。
3番目に大きいのが、中央政府から地方への配分である地方交付税交付金です。その額は約16兆円で、歳出全体の15%を占めています。これら3つの項目の合計は75.5兆円で歳出の7割を超えています。
    ・
日本の財政状況を考える際には、国の会計を勤労者の1年間の家計に例えるとわかりやすいでしょう。2021年度の国の会計を勤労者1年間の家計に例えると、年間の給与等の収入は630万円で、支出は1066万円となります。その差である436万円は借金で補うことになりますが、その額はなんと年収の約7割となっています。さらに、この家計は、今年だけ借金をしているわけではなりません。過去数十年にわたり借金をし続けているので、ローン残高は9900万円にまで膨らんでしまっています。
いかがでしょう。日本財政の危機的状況が、少しでも身近に感じてもらえたでしょうか。

高齢国家では財政政策の有効性が低下

さて、ここまで日本財政の現状と未来について見てきました。そこで、大きな鍵となるのがメガトレンドのひとつ、人口構造の変化です。
日本が借金大国になった理由のひとつは、高齢化により社会保障給付費が増大したことにあります。今後、高齢化はさらに進んでいくので、このままだと社会保障給付費も増大することが見込まれます。
また、高齢化は経済成長にもマイナスの圧力をかけるので、税収を圧迫する可能性があります。つまり、高齢化により歳出、歳入の両面から日本の財政はますます厳しくなることが予想されます。
それだけではありません。高齢化は財政政策の効果にも影響することがわかっています。私がIMFで行った調査研究では、高齢化が進んだ経済では、財政政策の景気浮揚効果が弱くなることがわかりました。つまり、高齢国家では財政政策の有効性が低下するのです。
図(画像参照)を見てください。これはOECD諸国を高齢化の度合いに基づいて2つのグループに分け、それぞれのグループにおける財政政策の景気浮揚効果を推計したものです。図が示すように、財政刺激策が経済成長率に及ぼす影響をみると、年齢構成がより若い国で大きなプラス効果が生まれている一方、高齢化が進んでいる国では財政刺激策の効果が相当に低くなることがわかります。
    ・
また、年齢の若い層と高齢者ではその消費パターンが異なり、財政政策に対して消費を増やす傾向にあるのは若者であることもわかっています。経済全体で高齢者のの割合が高まれば、財政政策に対する個人消費の反応も鈍くなります。このように、高齢化が進んだ経済では財政政策の景気浮揚効果は弱くなるのです。