じじぃの「歴史・思想_605_プーチンの正体・ネット世論操作・化学兵器」

Hell on Earth: Horrific aftermath of alleged Syria chemical attack

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=OI3-0xIcvgI

Russia says Syrian 'chemical attack' was staged


Russia says Syrian 'chemical attack' was staged

13 April 2018 BBC News
Russian Foreign Minister Sergei Lavrov has said a reported chemical attack in Syria was staged by foreign agents.

Russia, which has military forces deployed in Syria in support of the government, has warned that Western air strikes risk starting a war.
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-43747922

プーチンの正体』

黒井文太郎/著 宝島社新書 2022年発行

まえがき より

2022年2月24日、プーチンがロシア軍にウクライナ侵攻を命じ、侵略戦争が始まった。しかし、このプーチンの「狂気」は、なにも急に生まれたわけではない。彼自身が書いたり語ったりしているが、もともと彼にはウクライナ征服の願望があった。その機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていたのだ。
ただし、現代の世界では、あからさまな侵略は容易なことではない。国際社会の反発は当然予想されるし、戦争を勝ち抜く力も必要だ。プーチンはその機会をじっと待っていたのである。

第3章 黒い独裁者の正体 より

中央政界に進出し3年で首相に

こうしてFSB旧ソ連KGBの流れをくむ諜報機関)長官の椅子を得たことが、さらなるプーチンの政治家としての飛躍に繋がった。また、エリツィン大統領の汚職疑惑を捜査していたユーリー・スクラトフ検事総長がスキャンダルで失脚した事件でも、その失脚に手を貸している。
その功績からエリツィン大統領の信頼を獲得すると、1999年8月に首相代行、そしてすぐに首相に指名された。当時、エリツィン大統領は重度のアルコール依存症で職務がおぼつかなくなっており、事実上、政府はプーチンが采配することになった。
このあまりのスピード出世は、前述したように彼がエリツィン大統領の信頼を得たことが大きい。プーチンがモスクワに移ったのは43歳で、中央政界ではまったく無名の男が、あっという間に46歳で次期最高権力者に上り詰めたのだ。

第5章 フェイクニュースで世界を分断 より

米大統領選でのネット世論操作

プーチン政権は”情報”を武器にしている。とくにフェイク情報を拡散し、それで”西側”の世論を誘導し、分断を扇動する。
そうしたロシア情報機関の工作がクローズアップされたのが、2016年の米大統領選だった。この選挙でロシアはリベラルでロシアに批判的なヒラリー・クリントン候補を落選させるため、大規模なネット世論操作工作を実施したのだ。
クリントン候補を落選させるということは、当然ながらトランプ候補を当選させるということだが、ここでロシアが巧妙なのはトランプ候補に有利な情報ではなく、徹底してクリントン候補に不利な情報を拡散したことである。現在のSNS社会では、マイナスな情報こそが人々に大きな影響を与えるのだ。
ロシアがトランプを当選させるために不正に米大統領選に介入した疑惑、なかでもトランプ候補陣営がロシアと裏で結託していたのではないかという疑惑は、のちに「ロシア・ゲート」疑惑と呼ばれた。

トロール」と「メディア・ミラージュ」

フェイク情報を駆使するロシア情報機関によるSNS世論誘導工作は、シリア紛争あるいはイギリスでの元諜報員毒殺事件などでも、活発に行われた形跡がある。まずシリア紛争での工作の1例を検証しておこう。
たとえば2018年4月7日、シリアのアサド政権が再び化学兵器を使って住民を虐殺した。それに対し、トランプ大統領は同13日にアサド政権の化学兵器関連施設に限定的なミサイル攻撃を加えた。すると、アサド政権を支えるロシア情報機関は、インターネット空間でその攻撃を非難する世論誘導工作を即座に始めている。
米軍のシリア攻撃から一夜明けた2018年4月14日、米国防総省は「過去24時間でロシアの”トロール”が20倍に急増した」と発表した。
トロールとは、ネット上での議論を自らに有利なように誘導する目的で、主にSNSに恣意的に、大量に偏向した情報を書き込む行為のことだ。SNSが発達した現代では、ネット世論が現実社会の世論に与える影響は大きく、トロールはそれなりに影響力がある。
ロシア情報機関はこのトロールを非常に大掛かりに行っており、世界中のSNSユーザーにロシアの情報操作とはわからないように偽装して、特定の論調に誘導に誘導する工作を行っている。一見、人々が自由にモノを言い合っているように見えるSNS上だが、そこにはロシア情報機関が作成した「西側諸国在住に偽装した架空人物のアカウント」が潜み、ロシアに対する情報を書き込んだり、拡散させたりしている。典型的なのは「RT」や「スプートニク」といった、一見ニュースサイトふうなロシア政府系のプロパガンダ宣伝機関が掲載しているフェイクニュースプロパガンダリツイートやシェアで拡散する手法だ。
また、ロシア情報機関は実在しないメディアを創作し、それがあたかも権威あるメディアのように偽装して、そこを発信源とするフェイク情報を拡散する手法も多用している。実在しないメディアを使う手法は「メディア・ミラージュ」と呼ばれ、ロシア情報機関の得意技となっている。
ロシアのトロールは、ロシア側の宣伝メディアだけでなく、ロシアのプロパガンダと親和性がきわめて高い欧米の右翼系メディア、とくに「ブライバート・ニュース」などのオルタナ右翼系メディアのフェイク情報も拡散する。既存メディアだけではなく、ロシアに都合のいい論調の言論人、アルファ・プロガーなどのいわゆるインフルエンサーの投稿記事も拡散する。
ロシア発の複数の架空アカウント同士が、SNS上で議論を演じることも多い。
たとえばこんな感じだ。
  A 「こんな話がある」
  B 「それは信じられない。偽情報ではないか」
  A 「そんなことはない。正しい情報だ」
  B 「お前は騙されているだけだ」
  C 「話に割り込んですまないけど、こんな情報があるよ」
  そう言って、Cはニュース記事をリンクする。「RT」と「ブライバート」のフェイク記事だ。それを見て、Bがこう書き込む。
  B 「なーんだ。証拠があるのか。それなら事実だ」
こうして最初にAが書き込んだフェイク情報が、そのSNS上では事実と認定され、それをもとに議論が進むことになる。このA、B、Cは、実はロシアの工作部門の同一人物である。
しかも、こうした議論で導かれた投稿が、自動拡散プログラム「ボット」によって凄まじい勢いで拡散される。それを外部から見ると、その論調がまるで議論のスタンダードになっているかのように錯覚される。これが典型的なロシア情報機関の手口だ。

西側の右翼・陰謀論者が拡散のエンジン

ロシア軍は2015年からシリアで軍事活動に乗り出し、現在も継続している。当時、劣勢にあったアサド独裁政権を助けるため、空軍部隊を投入し、反体制派を住民ごと殺戮してきた。
そんなシリア情勢をめぐってはネット上でも大きな論争になった。ところが、SNSでアサド政権を擁護するアカウントの多くが、もとはロシア情報機関の工作とみられている。
前述したように2018年4月7日、シリアの首都ダマスカス郊外の東グータ地区で、アサド政権が化学兵器を投下し、住民約50人が死亡、約500人が被害を受けると言う事件が発生した。アサド政権の後ろ盾はロシアであり、この東グータでの攻防戦にはロシア軍が直接参加していた。というより、アサド政権の作戦系統の上位に駐留ロシア軍がいるという関係だった。つまりロシアは当事者、しかも加害者であり、この情報がそのまま報じられることは不利益になる。
この化学兵器攻撃は現地の人々がスマホで撮影し、地獄のような被害の様子が世界中に発信された。アサド政権とロシア軍の非道な行為への批判が、国際社会で急速に高まった。

そんな時、早くも世論をアサド政権とロシアに有利に誘導しようというSNS工作が開始された。「化学兵器攻撃は反体制派の自作自演だ」とのフェイク情報が急速に拡散されたのだ。

米国のシンクタンク・大西洋評議会の「デジタル鑑識調査研究所」の調査によると、早い段階でたくさんのフォロワーにこのフェイク情報を拡散したツイッターのアカウントのなかには、ロシアのほとんどの宣伝工作を牽引するいくつかの特定のアカウントがある。そのなかには、ロシア政府系のトロール専用組織「インターネット・リサーチ・エージェンシー」(IRA)が運用している架空アカウントもあった。
これらのアカウントは、2014年7月のウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件でも自作自演説の陰謀論を拡散した中心的なアカウントだったことがわかっている。イギリス政府もそうしたアカウントのいくつかを、実在しない「ロシア工作機関のボット」と指摘している。
それだけではない。もともと実在する人物のアカウント、あるいは団体の公式アカウントも、フェイク情報の発信源になっている。中心的な役割を果たしている公式アカウントの1つには、駐米ロシア大使館フェイスブックのアカウントもある。そのアカウントはいち早くシリアでの化学兵器使用の自作自演説を投稿していたが、それも急速に拡散された。