じじぃの「歴史・思想_598_プーチンの正体・ロシア軍が苦戦した理由」

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=elpHUpFrAP8

Ukraine Russia cyber warfare


What the Russia-Ukraine war means for the future of cyber warfare

06/20/22 The Hill
Russia’s war on Ukraine has been largely defined by indiscriminate shelling and grinding exchange of artillery, but it has also shown how cyberspace will be a central battleground in the future of global conflicts.
https://thehill.com/policy/cybersecurity/3526539-what-the-russia-ukraine-war-means-for-the-future-of-cyber-warfare/

プーチンの正体』

黒井文太郎/著 宝島社新書 2022年発行

まえがき より

2022年2月24日、プーチンがロシア軍にウクライナ侵攻を命じ、侵略戦争が始まった。しかし、このプーチンの「狂気」は、なにも急に生まれたわけではない。彼自身が書いたり語ったりしているが、もともと彼にはウクライナ征服の願望があった。その機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていたのだ。
ただし、現代の世界では、あからさまな侵略は容易なことではない。国際社会の反発は当然予想されるし、戦争を勝ち抜く力も必要だ。プーチンはその機会をじっと待っていたのである。

第1章 ウクライナ侵攻の全内幕 より

「非軍事化と非ナチ化」への飛躍

実は筆者は当時、「プーチンウクライナ全体を狙っているが、東部2州の独立承認という手順を踏んだので、当初は東部から侵攻する可能性が高い」「その過程でウクライナ政府・軍からの攻撃への正当防衛との口実で全土へ戦線を拡大する」と予測していた。それまでのプーチンの言動を根拠としてそう分析したのだが、筆者の予測は外れ、最初から全面侵攻だった。「東部の人々を守るため」から「ウクライナの非軍事化と非ナチ化」を持ち出すという論理的飛躍までは予測できなかった。プーチンはしばしば筆者の”常識”程度のことは軽々と超えてくるのだ。
ロシア軍は北部、東部、南部の3方向から侵攻したが、そのうち北部ではベラルーシから南下し、翌25日には首都キーウへの攻撃も始めた。
同日、プーチン政権は停戦を呼びかける声明も出しているが、ペスコフ大統領報道官はこう述べている。
「停戦はウクライナの中立化と非軍事化が前提条件だ」
非軍事化というのは、降伏せよということを意味する。また、中立化とは言っているがそれは建前であり、当然、ウクライナの指導部の退陣とロシア派の傀儡政権の擁立、そして、その要請によるロシア軍の正式な治安維持任務化、いわば”官軍”化を狙っていることは明らかだ。
こうしたプーチン政権の言動をみると、彼らの狙いは最初からウクライナ全体を支配することだったことがわかる。しかし、その過程で一貫して「自分は悪くない。相手が悪いのだ」と無理やり強弁し続けているのだ。これはプーチン論法の特徴だ。
いずれにせよ、こうして2022年2月24日にロシア軍によるウクライナ侵攻が開始された。核大国が隣国を正規軍で侵略するという、21世紀とは思えないような侵略戦争である。

ロシア軍が苦戦した理由

しかし、ロシア軍は当初の作戦に失敗した。前述したように開戦当初から北部、東部、南部から侵攻したが、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、進撃はさほど進まなかった。
北部戦線では、ベラルーシから南下した部隊が首都キーウの北西部から近郊まで迫ったが、そこで食い止められた。また、ウクライナ北東部のロシア国境から侵攻し、キーウを北東から狙った部隊も近郊まで進軍したところで動けなくなった。ロシア軍は本来なら、これらの部隊がぐるりとキーウを取り囲むように展開して包囲し、補給を断ち、それから首都制圧戦に出る予定だったと思われるが、その包囲作戦がまったくできなかったのだ。
また、北東部からはロシア国境に近いウクライナ第2の都市ハルキウの攻略を狙い、初戦では一時的に市内にまで入り込んだが、周囲からの狙い撃ちに遭って大きな被害を出し、市内からの撤退を余儀なくされた。その後もハルキウ攻略は成功せず、もっぱら遠距離からの砲撃で町を破壊した。
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このように、ウクライナ軍よりも新型で数も多い装備を持つ有利なはずのロシア軍が、ここまで苦戦した理由はいくつかある。

①確保できなかった航空優勢(制空権)

本来、侵攻にあたっては、相手の防空システムや航空基地を無力化して「航空優勢」を得て、その後に大規模な空爆で相手の地上部隊を叩いておいてから地上部隊が進撃するというのがオーソドックスな作戦なのだが、ロシア軍はそれができなかった。
実は侵攻初日、ロシア軍はたしかに最初はミサイル攻撃を行って「ウクライナ軍の防空システムと航空基地を破壊した」と発表している。しかし、実際にはほとんど破壊できておらず、ウクライナ軍の防空システムは生き残った。そのため、その後もロシア軍の航空機が撃墜される事例が相次いだ。
これはウクライナ軍の防空部隊がロシア軍の攻撃を回避する措置をとっていたからと思われるが、それにしてもロシア軍の攻撃の中途半端さが目立っていた。

②安易に戦線を拡大

地上戦でロシア軍が失敗した最大の要因は、戦線を広げすぎたことだ。ウクライナ周辺に展開したロシア軍の総兵力は約19万人で、おそらくその実戦部隊のほとんどがウクライナ領内に侵攻したとみられる。少なくとも15万人以上にはなるだろう。
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ウクライナ軍を過小評価したための準備不足

そもそもロシアはウクライナ軍を過小評価しすぎた。そのため緻密な作戦もなく、侵攻に踏み切った。おそらく侵攻の意思を秘匿するために、各部隊には「演習」だとしか知らされていなかったものとみられる。
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ウクライナ軍の術中にはまった

ウクライナ軍はおそらく米英の協力を得てロシア軍のこうした弱点を分析し、それなりの対策をしていた。たとえば、歩兵が携帯する小型の対戦車ミサイルや対空ミサイルを大量にNATOから供給され、前もって米英特殊部隊らから訓練も受けていた。
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⑤サイバー戦・電子戦での敗北

上記の待ち伏せ攻撃でもそうだったが、ウクライナ側は民生用ドローンを駆使してロシア軍の位置を正確に把握していた。相手の位置が正確にわかれば、戦闘ははるかに有利になる。
筆者は当初、速度の遅いドローンは防空兵器に弱いうえ、ロシア軍は侵攻にあたってサイバー戦や電子戦でウクライナ側の電子システムを破壊あるいは妨害するものと推測していた。遠隔操作されるドローンは電子戦で使用不能にされる可能性が高く、仮に使った場合、操縦者の位置が割り出されて逆に危険なのではないかとも思っていた。
しかし、実際にはウクライナ軍はドローンを縦横無尽に使っている。ロシア軍は電子戦でドローンの運用を妨害しなければならないが、それがまったくできていないのだ。しかも、ドローンの偵察情報は米国・スペースX社の衛星インターネット回線「スターリンク」を経由してウクライナ軍内で共有され、攻撃作戦に使われた。
さらに、ネットや携帯電話も普通に使えており、それがウクライナ軍の作戦にフルに生かされている。たとえばウクライナ当局はメッセージアプリ「テレグラム」に通報サイトを設置しており、そこに市民からロシア軍の目撃情報が寄せられている。それらの情報を基にドローンを飛ばして偵察し、ロシア軍の正確な位置を探し出したりもしている。そうしたことを、ロシア軍は電子戦で妨害できていないのだ。

それどころか、逆に電子戦でやられている。もとより十分な数の軍用通信機器が前線部隊に配置されていなかったようだが、その通信すら妨害されて使えなかったり、傍受・解読されたりした形跡が多くみられる。そもそもロシア軍の技術力が遅れていたせいもあるが、ウクライナ軍の戦力を過小評価したために事前に十分に電子戦防護の準備をしていなかったこともありそうだ。