じじぃの「科学・地球_442_アルツハイマー征服・アデュカヌマブの中間解析」

速報!アルツハイマー病の新薬承認!『今聞きたい5つの質問』

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アルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」


エーザイの新たな認知症治療薬、試験で効果確認 日米欧で23年中のフル承認目指す

2022年9月28日  ロイター
エーザイは28日、米製薬大手バイオジェンと共同開発しているアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」について、早期アルツハイマー病患者を対象とした第3相の臨床試験で、症状の悪化抑制を示し、主要評価項目を達成したと発表した。
エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は午後の説明会で、日米欧でそれぞれ「23年中のフル承認を目指す」と語った。
https://jp.reuters.com/article/merck-co-eisai-idJPKBN2QS21Z

アルツハイマー征服』

下山進/著 角川書店 2021年発行

第23章 中間解析 より

  治験の費用を節約するためにもうけられたのが「中間解析」という考え方だ。中途のデータで治験を続けるか否かを決める。アデュカヌマブの「中間解析」の結果がでるが……。

アルツハイマー治療薬の開発の成功率は、他の薬にくらべてそもそも低かった。
米国研究製薬工業協会が2015年7月にこんな報告書を発表している。
1998年から2014年の間に臨床治験を行ったアルツハイマー治療薬127のうち123が開発を注視した。承認取得にいたったのは、わずか4剤。その成功確率はわずか3.1パーセントだ。
臨床試験に入ったすべての医薬品でみると、米FDAから承認をされる割合は12パーセントだから、その成功率の低さは際立っている。
これを2008年から2018年に尺をとってみると、さらに悲惨になる。86の薬が治験に入ったが、承認された薬はゼロだ(IQVIA Institude調べ)。
あいつぐ抗体薬の治験の失敗で、アルツハイマー病の根本治療薬の開発から撤退する会社も出てきていた。
象徴的なのは、業界2位のファイザーファイザーは、2018年にはフェーズ1の段階にあった4剤の開発をあきらめ、神経科学の新薬開発から撤退することを表明した。

内藤晴夫はあきらめない

しかし、内藤晴夫は、あきらめていなかった。他の製薬会社の経営者から見ると驚天動地の決断をくだす。
逆に、「総合製薬」の看板を下ろし、認知症とがんの2分野に絞っていくことに決めたのだった。この2分野の新薬開発に集中し、他の分野で開発中の品目を全て売却する。
治験中の薬だけではない。この2分野に関係のないものは、どんどん売却し、スリムになろうとした。2015年11月には検査薬子会社のエーディアを積水化学工業へ、食品子会社のエーザイフード・ケミカルを三菱化学フーズにそれぞれ売却すると発表した。
2016年3月期の「アリセプト」の売上はピーク時2010年3月期の5分の1、「パリエット」も09年3月期の3分の1に縮小していた。
2009年には4428人いたエーザイの社員も、2016年3月には350人まで減らした。
それだけに、2014年にバイオジェンと共同開発の契約を結んだアデュカヌマブ、エレンべセスタットの帰趨はエーザイにとって、自らの命運を決めるものと言ってよかった。
それぞれが独自開発をしてきた経緯からアデュカヌマブの治験はバイオジェン社が行い、エレンべセスタットの治験はエーザイが行う。
このころになると、アルツハイマー病の治験があまりにも莫大な費用になるために「中間解析」というものを行うようになっていた。治験がすべて終了する前の段階で、データを集計し、これ以上治験を続けても、治験の最初の設定した目標が達成できないと統計学的に考えられる場合には、これを中止するというものだった。そうすることによって、少しでも治験の費用を軽減する。

大逆転

アデュカヌマブの「中間解析」は、2018年12月26日までに18ヵ月の治験の期間を終えた1748人のデータをもとに行われた。中止が発表されたのが、2019年3月21日だ。
インターネット上では、この中止の発表のあと、アル・サンドロックについて「ドラッグ・ハンターの伝説もついにお終いか」といった書き込みもみられた。
が、この12月26日から治験の中止は発表になる3月21日の間にも治験は行われていたのだ。そのデータ2066年の分は中止発表以降、バイオジェンに入ってくることになる。
失敗した治験についても、学会等で入ってきた全てのデータをもとに発表しなければならないので、バイオジェンのチームはデータの解析を続けていた。
するととんでもないどんでん返しがあったのである。
あとから入ってきたデータを全ていれて合計3285人のデータでもう一度計算をしなおすと、治験の大きなグループふたつのうちEMERGEでは治療上の目標を全て達している、という結果が出たのだった。
ENGAGEについても、あとから入ってきたデータを加え10ミリグラム以上投与のグループで計算してみるとやはり有意に結果が出ている。
これはどういうことだろうか?
6月には、FDAとの会合がバイオジェンとの間にもたされる。アル・サンドロックが主導した。
この結果を見せるとFDAは大変興味を示したという。
サンドロックは、さらに細かくデータを解析するよう指示した。
するとこんなことがわかったのである。
治験のプロトコルでは、治験の初期段階では、投与量をあげないように、とあったのだった。つまり10ミリグラムの投与はなかった。1ミリ、3ミリ、5ミリで大きな問題がでないとわかってから、10ミリグラムの投与のグループが始まった。中間解析で、締め切った2018年12月26日段階のものでは高用量のグループが入っていなかったのである。
そしてこの高用量のグループをいれてみると、記憶、見当識、言語などんお認知機能において顕著な効果が見られた。さらに、金銭管理、家事(掃除、買い物、洗濯など)や単独での外出などの日常生活動作においても効果が見られた。これらはEMERGEのグループにおいては、統計学的に主要評価項目をすべて達成した。
ENGAGEのグループでも高用量のグループだけをみるとやはり主要評価項目を達成していた。

データが初めて意味をなした

2019年10月22日、両社(バイオジェンとエーザイ)は世界中をあっと言わせるプレスリリースを発表する。
<アデュカヌマブ 臨床第Ⅲ試験で得られた大規模データセットの新たな解析結果に基づき、アルツハイマー病を対象した新薬承認申請を予定>
一度は「中間解析」で中止になったはずのアデュカヌマブの復活は、様々なところで議論を巻き起こした。バイオジェン社のCEOのミシェル・ボナッソス自らがニュース番組に出演して、その意味について説明をしたりもした。
プレスリリースでは、2020年の早い時期にFDAに承認申請することをはっきりと書き、プラセボが投与された被験者には、アデュカヌマブを提供する予定があるともうたっていた。
エーザイの内藤晴夫は、この発表ののち、審査に影響を与えるからと、アデュカヌマブに関する質問は、記者会見でも一切うけつけなくなった。
その後、2020年にはコロナ禍が発生するのどして、第一四半期の申請からは遅れたが、2020年7月8日、バイオジェン社はFDAにアデュカヌマブの承認申請をはたしたことを表明した。
FDAは60日間のレビュー・ピリオドを通じて、この申請を優先審査とするか通常審査とするかを決める。優先審査のプロセスにのるとすれば、2021年1月には、承認か否かについての結論がでる。通常のプロセスでも2021年5月には、その結果がでる。
このアデュカヌマブのフェーズ3の結果を発表するAAIC(Alzheimer's Association International Conference アルツハイマー病協会国際会議)のバイオジェンのプレゼンテーションでは、プラセボと10ミリグラム投与のグループの様々な認知機能検査の差異について何度も「奇跡的な違い」という言葉が使われ、その有効性が強調された。