じじぃの「科学・地球_171_サイトカインとは何か・認知症」

アルツハイマー病新薬 「アデュカヌマブ」

話題のアルツハイマー治療薬、日本ではいつ使える? エーザイが共同開発、気になる効き目と値段は

2021.6.11 夕刊フジ
日本の製薬大手エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」が米食品医薬局(FDA)に承認され、大きな話題だ。気になる効き目や日本で使える時期、値段はどうなるのか。
新薬への期待からエーザイの株価は8、9日と連日ストップ高だった。
アルツハイマー病は、脳内に蓄積した「アミロイドベータ」というタンパク質が神経細胞を壊すことで認知機能の低下を招くと考えられている。アデュカヌマブは、アミロイドベータを除去する効果を持つ抗体医薬として開発され、一部の治験では、軽度認知症などの患者の記憶や言語、金銭管理や買い物などの動作の評価項目で悪化を約22%抑えたという。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/210611/dom2106110002-n1.html

免疫と「病」の科学 万病のもと

宮坂昌之、定岡恵(著)
第1章 慢性炎症は万病のもと
第2章 炎症を起こす役者たち
第3章 慢性炎症はなぜ起こる?
第4章 慢性炎症が引き起こすさまざまな病気
第5章 最新免疫研究が教える効果的な治療法
第6章 慢性炎症は予防できるのか?

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『免疫と「病」の科学 万病のもと 「慢性炎症」とは何か』

宮坂昌之、定岡恵/著 ブルーバックス 2018年発行

第1章 慢性炎症は万病のもと より

慢性炎症はなぜ悪い?

炎症が続くと、何が困るのしょう? ひとつは、炎症の悪影響が局所にとどまらずに全身に広がっていくことです。これが「慢性炎症が万病のもと」となることにおおいに関係します。もうひとつは、炎症を起こしている組織の性状や形態が次第に変わり、ついにはその組織の機能が低下してくることです。

まず、炎症が局所で起こるのに、その影響が次第に全身に及ぶというのはどういうことでしょう? それは、炎症という刺激により炎症性サイトカインと総称される何種類ものタンパク質が炎症組織で作られ、全身に広がっていき、離れた細胞にもその影響が伝わるからです。

第4章 慢性炎症が引き起こすさまざまな病気 より

老化、認知症アルツハイマー

慢性炎症は老化やアルツハイマー病を含む認知症の発症にも関わっているようです。まず炎症と老化の関係です。海外での研究から、加齢とともにIL-6やTNF-αのような炎症性サイトカインが血液中に増えてくることが明らかになりました。調べてみると、どうもこれは病原体感染とはあまり関係がないようです。でも、そうだとすると、加齢と炎症の間にはどのような関係があるのでしょうか? その答えのひとつが試験管内の仕事から明らかになってきました。
細胞を長期に培養すると、次第に種々の炎症性サイトカインやその他の炎症に関連した分子が作られるようになり、培養期間とともにその産出量が増えてくるのです。また、老齢者から採取した細胞も、若年層からの細胞に比べると、炎症性サイトカインをたくさん作る傾向があり、細胞の老化と炎症性サイトカインの産生が何か関連しているように見えます。以前は年を取った細胞はじーっとしていて何もしていないかと思われていたのですが、どうもそうではないようです。
一般に細胞は分裂できる回数に制限があり、ある程度分裂を繰り返すと分裂がこれ以上できなくなります。すると分裂の老化が始まり、SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)という状態を示すようになります。老化に伴って作られる分子群はSASP因子と総称されます。驚いたことに、SASP因子の多くは、炎症や発がんなど、生体にとって不利益なことを起こす能力を持っているようです。たとえば、SASP因子は、SASP因子産生細胞自身を刺激して細胞老化をいっそう進めるとともに、まわりの細胞に働いて免疫細胞を局所によび寄せ、炎症状態を作り出します。
さらに、周囲に変異を起こした細胞がいると、SASP因子がその細胞に働いてさらにがんを起こりやすくします。どうもSASP因子の働きを止めることが老化やそれに伴うがん化を止めるために大事であるようです。
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第3章で、アミロイドβの結晶ができてくるとミクログリア(脳と脊髄全体に存在するグリア細胞の一種)細胞が結晶を取り込み、その結果、NLRP3インフラマソームが活性化されて炎症性サイトカインが作られるようになり、脳で炎症が起きることについて触れました。実際に、アミロイド斑の周囲ではIL-1を細胞内に持つミクログリアが多数観察され、炎症状態が起こっているようです。しかし、まえに述べたように、明らかな認知症の症状がないまま亡くなった方でもアミロイド班が多く見つかった例もあり、アミロイドβの蓄積がすぐにアルツハイマーの発症につながるのかははっきりしないところがあります。
炎症があるとアルツハイマー型患者の認知機能の低下が進みやすいことが報告されています。たとえば、炎症性サイトカインが血中で増加しているアルツハイマー型患者の認知機能は、炎症のないアルツハイマー型患者に比べてはるかに認知機能の低下の度合いが大きく、逆に炎症性サイトカインが低い患者では観察期間中に認知機能の低下がほとんど見られなかったそうです。このことは、炎症がアルツハイマー型患者におけるひとつの需要な治療標的である可能性も示しています。
実際、アメリカでは既にアルツハイマー型に対して抗炎症剤を用いた臨床治験が始っています。今までのところ、プロスタグランジン産生を抑えるCOX-2(シクロオキシゲナーゼ2)阻害剤はアルツハイマーに対する予防効果や治療効果はないようですが、TNF-α阻害剤にはある程度の機体がかけられています。しかし、現在使われているTNF-α阻害剤はヒト型抗体で分子量が大きいために、投与しても脳血液関門の存在のために脳実質には入りにくく、ここが問題となるかもしれません。