じじぃの「カオス・地球_214_免疫超入門・第8章・脳と免疫の深い関係」

【Mayo Clinic 春若航一路】脳の中で動き回る?! 「ミクログリア」のふしぎ「ヅマの部屋」#23

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=QhNILQpTrOk

図8-1 ミクログリアによる神経回路の剪定


じつは、うつ病自閉スペクトラム症では、「脳で炎症が起きている」説が、じつに明快だった

2023.11.30 吉村昭

●深いつながりのあった2つの生体システム
脳神経系と免疫系。一見まったく関係がないと思われがちな2つの生体システムですが、実は深いつながりがあることがわかってきました。

「病は気から」といいます。例えばストレスを受けると、主にアドレナリンや副腎皮質ホルモンによって免疫細胞は抑制を受けます。逆に、免疫が脳神経系の病気に大きな影響を与えることもわかってきました。

脳神経系の病気としては大きく分けると、うつ病自閉スペクトラム症統合失調症などの精神疾患と、アルツハイマー病(アルツハイマー認知症)、パーキンソン病筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患があります。そのどちらにも免疫が関与していることが、次第にわかってきています。
https://gendai.media/articles/-/119374?page=1&imp=0

ミクログリア

脳科学辞典 より
ミクログリアは中枢神経系グリア細胞の一つで、中枢の免疫担当細胞として知られ、中枢神経系に存在する常在性マクロファージとも呼ばれる。
アストロサイトやオリゴデンドロサイトなどとは異なり、胎生期卵黄嚢で発生する前駆細胞を起源とする。正常状態では脳や脊髄に点在し、細胞同士がお互いに重ならず分布している。ミクログリアは細長い突起を有し、それをダイナミックに動かし、シナプスや軸索等に接触させその機能を監視・調節していることが徐々に明らかになっている。病態時には、細胞体の肥大化や細胞増殖を伴い活性化状態となる。
細胞膜受容体を含む様々な分子の発現を変化させ、病巣部への移動、ダメージを受けた細胞やアミロイドβタンパク質(Aβ)などの細胞外タンパク質の貪食、液性因子(炎症性因子、細胞障害性因子、栄養因子など)の産生放出を引き起こす。中枢神経系疾患のメカニズムに大きな役割を有しており、治療薬開発における有望なターゲットとして注目されている。

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免疫「超」入門 「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム

【目次】
第1章 人類の宿命・病原体と免疫の戦い
第2章 ヒトに備わった、5つの感染防御機構
第3章 病原体との攻防
第4章 自己を攻撃する免疫――アレルギーはなぜ起こるのか
第5章 炎症とサイトカイン――さまざまな病気と免疫
第6章 免疫とがん
第7章 老化を免疫で止められるか

第8章 脳と免疫の深い関係

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免疫「超」入門 「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム

吉村昭彦/著 ブルーバックス 2023年発行

パンデミックによって感染症や免疫に関する情報を目にすることが多くなり、私たちの知識も増えたように見える。ただ、そこで出てきた情報は、曖昧なものや誤った情報、感情的なものなどもあり、玉石混淆ともいえる。
本書ではあらためて、ウイルスなどの病原体がどのように感染を起こし、免疫がどのように働くのか、その複雑なしくみを、基本から正しくわかりやすく解説する。

第8章 脳と免疫の深い関係 より

脳内の免疫担当細胞ミクログリア

ミクログリアは今、大変注目されている細胞です。ミクログリアは、脳内の免疫担当細胞として知られています。胎児期に脳内に住みついたマクロファージの前駆細胞に由来し、原則的に脳の外のマクロファージとは入れ替わらないとされています。

つまり脳内で自己複製する、寿命の長い細胞です。ただし、脳梗塞などが起きた場合、脳外のマクロファージも集まって来ることがあります。

ミクログリアは細長い突起を有し、それをダイナミックに動かして、シナプス神経細胞神経細胞の接点)や軸索(神経細胞から伸びる長い突起)などに接触させ、その機能を監視・調節しています。
古くより、ダメージを受けた神経細胞アミロイドβなど細胞外のタンパク質を貪食して、脳内を掃除する役割があると考えられてきました。最近では、インスリン様成長因子1(IGF-1)と呼ばれる物質を放出して神経修復に関わることや、逆に炎症性サイトカインを放出することで痛みや神経傷害に関わることもわかってきました。

また最近、ミクログリアは想像以上に神経活動に重要な役割を果たしていることがわかってきました。神経細胞同士はシナプスを介して複雑なネットワークを形成しており、シナプスの多くは神経細胞樹状突起にあるとげ状の突起「スパイン」に形成されます。ミクログリアはそのスパインを「切る」ことで正しい神経回路の形成にも関与しているのです。

つまりシナプスの多くは、ある程度でたらめに形成されるが、ミクログリア神経細胞の突起をうまく切断して正しい回路の形成に役立っているのです。これを樹木の枝を切る作業に習って「剪定(pruning)」あるいは「シナプス刈り込み」と呼びます。

マウスモデルでは、免疫系に異常があると剪定作業がうまくいかず、脳の発達が遅れることがわかっています。例えば、TREM2というタンパク質は、アルツハイマー病の発症に関わるアミロイドβの受容体として働くことがわかっています。TREM2は剪定作業にも関与し、これが欠損すると、剪定がうまくいかず、社会性が低下するという報告もあります(図8-1)。

また逆に、強迫性障害自閉スペクトラム症のモデルマウスにミクログリアを補充することで症状が改善することも報告されています。統合失調症では剪定が進み過ぎている可能性が指摘されています。

剪定の分子機構はまだよくわかっていませんが、免疫細胞で自閉スペクトラム症を治療するような未来が来るかもしれません。