じじぃの「科学・地球_170_サイトカインとは何か・関節リウマチ」

2011年(第27回)日本国際賞: 岸本博士 / 平野博士

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8EGKBC_MRj4

関節リウマチ IL-6の過剰な生産による主な影響

クラリベイトがノーベル賞有力候補16名を発表、日本からは3名が受賞

2021/09/22 TECH+
選出された3名の日本人のうち、2名が医学・生理学部門での受賞となり、「インターロイキン-6(IL-6)の発見とその生理的・病理的作用機序の解明により、医薬品の開発に貢献した功績」として大阪大学 免疫学フロンティア研究センターの岸本忠三 教授と量子科学技術研究開発機構の平野俊夫 理事長(大阪大学 名誉教授)が表彰された。
また、化学部門から「金属触媒を用いたリビングラジカル重合の発見と開発」の功績で、中部大学 先端研究センターの澤本光男 教授(京都大学 名誉教授)が受賞者として選出された。
https://news.mynavi.jp/article/20210922-1979486/

IL-6と関連疾患 おしえてリウマチ

2020年12月 中外製薬株式会社
IL-6はサイトカインと呼ばれる物質の一種です
IL-6(インターロイキン-6)は多彩な生理作用を有するサイトカインと呼ばれる物質の一種で、免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たしています。
https://chugai-ra.jp/movie/il-6.html

免疫と「病」の科学 万病のもと

宮坂昌之、定岡恵(著)
第1章 慢性炎症は万病のもと
第2章 炎症を起こす役者たち
第3章 慢性炎症はなぜ起こる?
第4章 慢性炎症が引き起こすさまざまな病気
第5章 最新免疫研究が教える効果的な治療法
第6章 慢性炎症は予防できるのか?

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『免疫と「病」の科学 万病のもと 「慢性炎症」とは何か』

宮坂昌之、定岡恵/著 ブルーバックス 2018年発行

第1章 慢性炎症は万病のもと より

慢性炎症はなぜ悪い?

炎症が続くと、何が困るのしょう? ひとつは、炎症の悪影響が局所にとどまらずに全身に広がっていくことです。これが「慢性炎症が万病のもと」となることにおおいに関係します。もうひとつは、炎症を起こしている組織の性状や形態が次第に変わり、ついにはその組織の機能が低下してくることです。

まず、炎症が局所で起こるのに、その影響が次第に全身に及ぶというのはどういうことでしょう? それは、炎症という刺激により炎症性サイトカインと総称される何種類ものタンパク質が炎症組織で作られ、全身に広がっていき、離れた細胞にもその影響が伝わるからです。

第4章 慢性炎症が引き起こすさまざまな病気 より

関節リウマチ

関節リウマチ(以下、リウマチと略します)は、関節で免疫細胞がからだの成分を攻撃するために炎症が起こり、そのために関節が腫れ、痛む病気です。原因は不明ですが、普段は外的に対抗するはずの免疫細胞の一部がなぜか関節に集まってきて組織を攻撃するために、炎症が続きます。このために関節周囲の滑膜が腫れて傷つき、骨や軟骨までが破壊されてきます。このようなことが続くと、やがて関節の曲げ伸ばしができなくなり、固まってしまうので、日常生活が大きく制限されることになってしまいます。手足の手足の関節で起こりやすく、左右の関節で同時に症状が出るのがひとつの特徴です。男性よりも女性にずっと多く(男女比1:5)、30~50代で発症する人がいちばん多いようです。日本では100万人近くもの患者がいるといわれているといわれています。遺伝性については、一卵性双生児で片方がリウマチを発症したときにもう片方もリウマチを発症する一致率が15~30%とのことから、遺伝要因と環境要因の両方が影響するようです。
この病気の大事なポイントは、決して関節だけで症状が見られるのではないことです。目、肺、血管など、全身的に病変が及ぶことがあるので、整形外科よりは内科、それもできればリウマチの専門医に診てもらうべき病気です。
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それでは、リウマチではどうして関節で炎症が続き、そして関節が破壊されていくのでしょうか? ここでも白血球が作るサイトカインやケモカインが周囲の細胞に働いて、連鎖性の反応が起こり、それが組織破壊につながっているようです。
まず、炎症を起こしている関節滑膜には、マクロファージ、樹状細胞、マスト細胞、自然リンパ球、ヘルパータイプのTリンパ球であるTh1リンパ球であるTh17リンパ球、さらにはBリンパ球、抗体を作っているプラズマ細胞(Bリンパ球が分化してできる細胞)など、多様な白血球が集積してきます。このうち、Th17リンパ球はIL-17というサイトカインを作り、そのIL-17はマクロファージに働いてTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインを作らせるともに、滑膜の線維芽細胞という間質を構成する細胞に働いて、関節を破壊するような種々の分子(タンパク質分解酵素やサイトカインRANKLなど)を作らせます。
こうしたタンパク質分解酵素は、滑膜や軟骨の基質を壊します。RANKLは、骨を壊す細胞である破骨細胞を活性化するので、骨が吸収されて壊れていくことになります。これも前に述べてことですが、最初の反応が何かはわかりませんが、何かが引き金となって次の反応を起こし、それがさらに次の反応を起こし……というタイプの反応で、ドミノ倒し機構ともいえるでしょう。
最近、大阪大学の熊ノ郷淳氏のグループは、リウマチの関節破壊にはさらに新しいドミノ倒し機構が働いていることを示しています。
彼らは、炎症で活性化された滑膜細胞やマクロファージが産生するタンパク質分解酵素が白血球の細胞膜であるセマフォリンという分子に働いて膜から放出させ、この放出されたセマフォリンは別の種類の白血球を刺激してTNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインを作らせ、これがさらに滑膜細胞、リンパ球や単球、マクロファージに働くために、いっそう炎症性サイトカインが作られるようになり、炎症がひどくなる、というドミノ倒し機構があることを明らかにしました。
こうなると、リウマチの治療においては炎症性サイトカインの働きを止めるだけでなく、炎症性サイトカインを作らせる仲介分子のセマフォリンの働きを止めることも大事なことなのかもしれません。この考えに基づいて、セマフォリンの働きを止める薬剤の開発が現在、進んでいます。

第5章 最新免疫研究が教える効果的な治療法 より

①リウマチの新しい治療法

リウマチの治療で現在よく使われているのは、TNF-αという炎症性サイトカインに対する抗体製剤のインフリキシマブ(商品名:レミケード)やアダリムマブ(商品名:ヒュミラ)、TNF-αの働きを止める生物学的製剤エタネルセプト(商品名:エンブレル)、炎症性サイトカインのIL-6の働きを止める抗体製剤トシリズマブ(商品名:アクテムラ)などです。

なかでも、トシリズマブは、大阪大学の岸本忠三名誉教授グループと中外製薬によって開発された薬剤で、IL-6とIL-6レセプターの結合を阻害する作用を持っています。

月に1回点滴するか2週間に1回皮下に注射します。多くの患者で、関節の晴れ、痛み、関節破壊を抑え、これまでにない優れた治療効果を示すことから、発売後、爆発的に使われるようになり、2013年には年間売上高が1000億円を超えるブロックバスター(画期的な薬効と圧倒的な売り上げを持つ超大型新薬のことで、アメリカでは年商10億ドル以上のものについていう)となりました。一方、TNFやIL-6を抑えても効果が少ない場合には、Tリンパ球のチェックポイント分子であるCTLA-4を刺激する生物学的製剤アバタセプト(商品名:オレンシア)が使われることもあります。