じじぃの「科学・地球_167_サイトカインとは何か・自己免疫疾患」

自己免疫疾患治療の鍵を握る新たな免疫系タンパク質の発見

動画 YouTube
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自己免疫疾患 関節リウマチ

免疫と「病」の科学 万病のもと

宮坂昌之、定岡恵(著)
第1章 慢性炎症は万病のもと
第2章 炎症を起こす役者たち
第3章 慢性炎症はなぜ起こる?
第4章 慢性炎症が引き起こすさまざまな病気
第5章 最新免疫研究が教える効果的な治療法
第6章 慢性炎症は予防できるのか?

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『免疫と「病」の科学 万病のもと 「慢性炎症」とは何か』

宮坂昌之、定岡恵/著 ブルーバックス 2018年発行

第1章 慢性炎症は万病のもと より

慢性炎症はなぜ悪い?

炎症が続くと、何が困るのしょう? ひとつは、炎症の悪影響が局所にとどまらずに全身に広がっていくことです。これが「慢性炎症が万病のもと」となることにおおいに関係します。もうひとつは、炎症を起こしている組織の性状や形態が次第に変わり、ついにはその組織の機能が低下してくることです。

まず、炎症が局所で起こるのに、その影響が次第に全身に及ぶというのはどういうことでしょう? それは、炎症という刺激により炎症性サイトカインと総称される何種類ものタンパク質が炎症組織で作られ、全身に広がっていき、離れた細胞にもその影響が伝わるからです。

第3章 慢性炎症はなぜ起こる? より

危険信号(デンジャー・シグナル)を知る仕組み

①自然免疫系はどのようにして異物を認識するのか?

第2章で、獲得免疫系の主要構成成分であるリンパ球が「抗原レセプターという分子を細胞表面に持ち、異物(抗原)の存在を正確に感知する」と説明しました。しかし、自然免疫を構成する他の白血球表面にはTリンパ球やBリンパ球を持つ抗原レセプターは存在しません。それではどのようなアンテナ(センサー)が用意されているのでしょうか?
A 病原体センサーとしてのTLR
B その他の自然免疫系の病原体センサー
C 病原体センサーは八血球以外の細胞にも発現している。
D 一部の病原体センサーは自己成分も認識できる――PAMPとDAMP

②炎症の仕掛け人、インフラマソームとは?

先に「炎症性刺激を受けた細胞はIL-1などの炎症性サイトカインやI型インターフェロンを作り、まわりの細胞に対して警報を発令する」と説明しました。つまり、自然免疫系のセンサーが刺激されると、そのシグナルが細胞核にまで到達し、炎症性サイトカイン(IL-1、IL-18、IL-6、TNF-αなど)やI型インターフェロン(IFN-α、IFN-β)の遺伝子が活性化されて、その産物が細胞内で作られ始めるのです。
しかし、炎症性サイトカインのうちIL-1やIL-18は、そのままでは働くことができず、細胞内でカスペース1(caspase-1)という酵素によってその構造の一部が切り取られて活性化しないと機能できません。また、カスペース1もはじめは活性を持たず、今から説明するインフラマソームとよばれる分子複合体により活性化されないと、酸素活性が発揮できません。

つまり、細胞内では炎症性サイトカインが暴走しないように安全弁が存在しており、その安全弁を外すのがインフラマソーム分子複合体です。

炎症性刺激とともに細胞内にインフラマソームの分子複合体が形成され、できた複合体がカスペース1を活性化し、活性化されたカスペース1が炎症性サイトカインを機能できるようにするのです。インフラマソームが形成されると炎症がまわりに広がるので、そういう意味ではインフラマソームは「炎症の仕掛け人」といえるかもしれません。

③インフラマソームと病気

インフラマソームが炎症性サイトカインIL-1とIL-18の活性化に必要であることを説明しましたが、インフラマソームが細胞内にたくさんできすぎるとその細胞は死んでしまいます。パイロトーシス(pyroptosis)とよばれる特別な死に方で、強い炎症が続いたときに組織が痛む原因のひとつとなっているようです。Pyro-は熱のこと、-ptosisは細胞死のことです。
慢性炎症では次第に臓器の機能不全が起こりますが、これにパイロトーシスが関係しているようです。また、たとえ細胞が死ななくてもインフラマソームの活性化が続きすぎると、炎症性サイトカインが全身に広がり、全身的に炎症が見られるようになります。すると、炎症が持続的に起こっている個所では線維化という状態が始まり、組織が次第に硬くなり、機能が低下するようになります。
A 自己炎症性疾患
最近、インフラマソームの異常な活性化が原因となるいくつかの遺伝性の炎症性疾患がみつかり、大きな注目を浴びています。これが自己炎症性疾患(autoinflammatory disorders)と総称される病気です。この病気の存在によって、炎症におけるインフラマソームと炎症性サイトカインの関係が非常にはっきりとしてきました。
自己炎症性疾患という名前は既によく知られている自己免疫疾患(autoimmune disease)と似ていて紛らわしいので、少し捕捉します。自己炎症性疾患とはインフラマソームの異常活性化をきっかけとして起こる一群の病気で、すべての細胞でインフラマソームの活性化が見られ、身体中で炎症反応が起こります。

一方、自己免疫疾患というのは、自分の構成成分に対して働くリンパ球の数が増えて自己の体成分を攻撃する病気です。関節リウマチ、SLE、シェーグレン症候群などが代表的なものです。

自己免疫疾患の場合、自己を攻撃するリンパ球ではインフラマソーム活性化が見られますが、これは自己抗原の認識による二次的なものです。つまりインフラマソーム活性化が一次的に重要なのが自己炎症性疾患、二次的なのが自己免疫疾患です。
B 痛風
さて、コルヒチンというと中年男性の方々は何か別の病気との関連で思い出されのではないでしょうか? それは加齢やメタボとの関連で知られる痛風という病気です。痛風のときに現われる強い痛みを止めるのがコルヒチンです。でも上に述べたように、昔から使われていたにもかかわらず、その機序は最近まであまりよくわかっていなかっていなかったのです。
ところが、最近のインフラマソーム研究から、コルヒチンがじつはインフラマソーム機能阻害剤であることがわかり、このことから、痛風はNLRP3インフラマソームが異常に活性化されている病気であり、自己炎症性疾患のひとつといえることがはっきりしてきたのです。
C 動脈硬化
メタボリックシンドロームは、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症が重なって起こっている状態です。このような状態では動脈硬化が速く進行し、心筋梗塞脳卒中が起こりやすくなります。この動脈硬化を起こしている人の血管にはコレステロール結晶がしばしばみられます。このような結晶を食細胞が食べるとNLRP3インフラマソームが刺激され、活性型IL-1が作られ、動脈壁にさらに炎症細胞が集まってきます。すると動脈壁が傷つくとともに、その修復の過程で線維芽細胞が増え、血管壁の弾力性がなくなり硬くもろくなってしまうのです。
D 悪性中皮腫
悪性中皮腫は、アスベスト石綿)を吸収したことによって起こる悪性腫瘍で、肺や腹腔を覆う構成する細胞である中皮細胞ががん化することによってできます。
E 糖尿病
糖尿病は日本だけで300万人以上もの患者がいます。1型と2型があります。1型はすい臓のインスリンを作るβ細胞が壊れて血糖値が上がる病気で、糖尿病の5%程度を占めます。2型はインスリンの働きが悪くなって血糖値が上がる病気で、糖尿病の9割以上を占めます。過食や肥満との関係が深いのは後者のほうです。
2型患者のすい臓には膵島アミロイドポリペプチドというタンパク質の沈着がしばしば見られます。
F アルツハイマー
アルツハイマー病は、65歳未満で発症する若年性認知症のうちいちばん多い病気です。平成28年版厚生労働白書によると日本には50万人以上の患者が存在し、毎年その数が増えていることから、大きな社会問題となっています。
この病気の特徴は、脳にアミロイドβというタンパク質が凝集して老人斑(プラーク)が形成され、神経細胞が死んでいくというものです。その結果、痴呆症状が進んでいきます。