じじぃの「科学・地球_425_始まりの科学・宇宙文明圏の始まり」

アポロ計画から50年…月面着陸の先へ“探査拠点”の作成も視野『アルテミス計画』(2022年8月29日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=2zeu3OV_B6M

カルダシェフ・スケール

   

カルダシェフ・スケール

ウィキペディアWikipedia) より
カルダシェフ・スケール (The Kardashev scale) とは、1964年に旧ソ連天文学者ニコライ・カルダシェフが考案した、宇宙文明の発展度を示す3段階のスケールである。

・タイプⅠ文明は、惑星文明とも呼ばれ、その惑星で利用可能なすべてのエネルギーを使用および制御できる。
・タイプⅡ文明は、恒星文明とも呼ばれ、恒星系の規模でエネルギーを使用および制御できる。
・タイプⅢ文明は、銀河文明とも呼ばれ、銀河全体の規模でエネルギーを制御できる。

現時点では人類はまだタイプⅠ文明の地位にも達していない。物理学者および未来学者のミチオ・カクは、人類は100~200年でタイプⅠ、数千年でタイプⅡ、10万~100万年でタイプⅢの文明になる可能性があると示唆した。

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『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』

矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行

パート14 宇宙文明圏の始まり――技術文明発展の3段階 より

●次々に発見される地球型惑星
1969年、NASAアポロ計画によって3人のアメリカ人が月の地表に降り立った。歴史上がじめて人類がおのれの”ゆりかご”である地球を脱出し、宇宙の別の天体に足跡を記したのだ。
こうして3人ずつのチームが前後9回にわたって月に到達し、月を周回飛行したり地表に着陸して歩き回ったりした(他に宇宙船内の火災で3人の飛行士が死亡した事例がある)。その光景は毎回地球へ生中継され、世界中の人々が、人類はついに「宇宙時代に突入した」と感じたのであった。
だがその後、人間の宇宙進出は停滞している。火星をはじめとする太陽系にさまざまな観測衛星やロボット探査機を送り出したものの、過去半世紀、生身の人間の太陽系進出は行なわれていない。2019年いま、NASAは火星有人飛行計画を進めているが、その実現は25年後と見られている。
読者が十分若ければその場面にライブで居合わすだろうが、アポロ計画で月面に降り立つ飛行士たちを白黒テレビで見ていた筆者の世代が、火星有人飛行を目撃する可能性は高くない。
人類の本格的な宇宙進出は容易ではない。最大の理由は、地球環境とまったく異なる宇宙の環境に人間を長期間適応させる技術がいま一歩のところにあるためだ。水や食糧の供給、太陽放射線の遮断、ゼロないし地球の数分の1の重力への対策などだ。しかしこれらは、20世紀半ば以降さまざまな実験で蓄積されつつある技術によって、遠からず乗り越えられるはずである。あとは人間の意志とそれを支える経済基盤があれば、人類はついに”地球人から宇宙人へ”の階段を登り、さらに地球文明は”宇宙文明”へと巨大な飛躍を遂げることができる。

●「月面都市」から始まり巨大宇宙文明へ
20世紀の科学者たちは、すぐにも実現できそうなものから目もくらむ巨大スケールのものまで、さまざまな宇宙文明構想を立案して記録に残した。それらのうち、地味ではあるがもっとも堅実な構想は、第二次世界大戦あとに、アメリカに渡ったナチスどいつ出身の科学者クラフト・ユーリケによるものだ。ユーリケはNASAの巨大な打ち上げロケット、アトラス・セントールの2段目を設計したことで宇宙開発史に名を残してもいる。
ユーリケの構想は、月面に最初の基地をつくってから70年ほどの年月をかけ、5段階で「月面都市(セレノポリス)を建設するというものだ。
2019年はじめには中国が月の裏側に無人探査機を着陸させており、つい先ごろはイスラエルも月に探査機を送り出した。中国はアメリカと競争して月を資源審査(核融合燃料ヘリウム3の採掘)や軍事利用の拠点にする計画と見られる。
いずれにせよ、ユーリケの構想を実現できる基礎技術をアメリカ、ロシアそれに中国は手にしており、ヨーロッパ、日本、インドなどもそのための初期的技術がすでに手の届くところにある。月はいまや地球の裏庭である。
これに対して途方もなくダイナミックで壮大な構想もある。それは、ソ連(現ロシア)のニコライ・カルダシェフが早くも1960年代に提出したもので、「カルダシェフ・スケール」、一般的には「宇宙文明発展の3段階説」と呼ばれる。これは、たとえば地球文明がおのれの愚かさ、すなわち全面核戦争や環境破壊によって自滅することなく、将来長きにわたって発展し続けた場合、どのような宇宙文明を築き得るかを予想したものだ。
カルダシェフは、宇宙のどこかで地球上に存在するような技術文明が誕生すると、それは必然的に宇宙文明へと発展し、3段階(タイプⅠ、Ⅱ、Ⅲ)を経てきわめて巨大なスケールになると予言した。彼の3段階の定義は、その文明が利用し得るエネルギー総量を基準にしている。

●銀河系にただ1つの文明か、100万の文明か?
われわれの太陽系の外の宇宙には、どのくらいの数の技術文明が存在するか? この問題については高名な科学者たちが長年議論してきた。なかでも興味深い事例は、そうした技術文明がいくつ存在するかをはじき出す計算式がつくられたことだ。
ここで言う「技術文明」とは、電磁波(電波や光)を使って通信を行うレベルの文明――人類はそのレベルに達している――を指している。電磁波による通信技術がなかれば、はるか遠くの惑星に文明があるかどうかを互いに知りようもないからだ。
この数式を考えだしたのはコーネル大学のフランク・ドレーク。彼は1960年代、われわれの銀河系に存在する技術文明を数え上げる方程式を案出した。
   

   
すると当時の科学者たちがその解法を試みた。なかでももっとも有名な科学者が、アメリカ人なら誰でも(当時の日本人の多くも)知っているカール・セーガンである。
彼は当初ロシア人科学者とともに、銀河系に存在する技術文明は100万と計算した(後にこの数を減らしたが)。広大な宇宙にはいたるところに生命が存在し、その中から多数の文明が発生していると予測したのだ。
他方、「宇宙には地球以外に生命も文明も存在しない」とする見方も出された。その理由は、宇宙文明が地球にやってきた証拠がないからだというものだ。
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ドレーク方程式がつくられたころには、地球外宇宙に地球に似た惑星が存在するかどうかは推測の域を出なかった。しかし以来、観測技術の途方もない進歩により、太陽系に近い宇宙だけでも1000個以上の地球型惑星が発見されており、そのうち10個以上が、地球型生命が生きられる環境(ハビタブルゾーン:生命居住可能領域)の中にあることもわかってきた。いまでは、宇宙のすべての星(恒星)に惑星系が存在するという見方が有力である。ドレーク方程式の未知の要素のいくつかほどけ始めているのだ。

●宇宙文明圏の誕生までの時間表
この方程式のうち、ほとんど見当もつかない項目がある。L、つまり技術文明の寿命である。すでに地球文明が示唆しているように、技術文明が高度化すると必ず核兵器が出現し、また自然環境が破壊される。これらによって文明は遅かれ早かれ自滅すると誰でも考えがちだが、答えを出すことは容易ではない。たしかに全面戦争が起これば明日にも文明は崩壊し、環境破壊は真綿で首を絞めるように地球生物を絶滅に導くであろう。
ニューヨーク私立大学教授の日系アメリカ人物理学者ミチオ・カクは、現在のアメリカでもっとも有名な科学解説者でもある。彼は前述のニコライ・カルダシェフの宇宙文明3段階説を考察し、その時間スケールを次のように修正した。
まず、初期の技術文明が「タイプⅠ文明」に到達するまでに要する時間は100~200年。ついで太陽の全エネルギーを利用する「タイプⅡ文明」に達するまでに2000~3000年を要する。そして、銀河系の全エネルギーを操作できる「タイプⅢ文明」を実現するまでに10万年だという。
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ともあれこうした問題は、先駆的科学者の理論や構想に対して後の科学者たちがより新しい知見と修正を加えることで、信憑性や具体性が増すことになる。
だが文明の発展と宇宙文明へのこうした道のりを考えるとき、われわれは同時に前述の問題、すなわち文明の崩壊や人類の衰退についても考えないではいられない。いまの人間世界を見ると、先進諸国では日本に限らず急速な人口減少が進み(中国も近々いっきに減少に向かうことが確実である)、地球の自然環境は破壊され続け、核兵器やロボット兵器はいよいよ高度化して地上から地球周辺軌道へ、さらには月へ広がろうとしている。人間がこうした障害を乗り越えて前進できると楽観的に仮定したときはじめて、われわれは”宇宙文明圏”への道筋を考えることができる。