じじぃの「テフロン・魔法のプラスチック・SPring-8!ケミストリー世界史」

見えなかった世界が見える (SPring-8) - 全編 -

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ONW_7eHxpNU

大型放射光施設(SPring-8


(1)SPring-8ってなあに?

文部科学省
大型放射光施設SPring-8は、太陽の100億倍もの明るさに達する「放射光」という光を使って、物質の原子・分子レベルでの形や機能を調べる事ができる研究施設です。
SPring-8は、兵庫県の西部、播磨科学公園都市にあり、直径約500mの大きな円形をしています。この大きな施設の運転は、施設の所有者である国立研究開発法人理化学研究所理研)と利用者への様々な支援を担当する公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)により行われています(平成29年7月現在)。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/ryoushi/detail/1316036.htm

『ケミストリー世界史 その時、化学が時代を変えた!』

大宮理/著 PHP文庫 2022年発行

第15章 2つの世界大戦のあいだ より

第一次世界大戦は1918年に終わりましたが、人類が体験した新しい戦争でした。機械化された兵器が大量投入され、史上例を見ない殺戮が行われました。戦争が終わっても伊豆着いた軍人が街にあふれ、もう戦争はごめんだ、と多くの人が心に刻みました。この教訓から国際連盟が発足しました。

1938年 「テフロン」の発明――原子爆弾の開発を可能にした新素材

●新しいプラスチックの分子を直感
ロイ・J・プランケットは、博士課程を終えたばかりの新人の研究者でしたが、デュポン社に採用されました。1938年4月のある日、プランケットは、テトラフルオロエチレン(C2F4)という分子を反応させて、毒性のない冷媒(エアコンや冷蔵庫を冷やすための液化しやすいガス)をつくろうとしていました。
テトラフルオロエチレンの入った反応容器のボンベから生成物を取り出そうとバルブを開くと、なにかしらの生成物のガスが出てくるはずが、白いフレーク状の粉末以外は何も出てきませんでした。実験は失敗に終わったのです。
おかしいと思ったプランケットは、助手と一緒にノコギリでボンベを輪切りにして調べてみました。すると、なかには白いワックス状の固体がべっとりと張り付いています。
プランケットはこれが、テトラフルオロエチレンが何千個もつながってできた。新しいプラスチックの分子だと直感しました。いままで、多くの化学者が合成しようと挑戦してきましたが、できなかった物質なのです。

●「マンハッタン計画」が姿をあらわす
このプラスチックこそ、ポリテトラフルオロエチレンという名前で、のちに商標名「テフロン」と名づけられる魔法のプラスチックでした。筋肉質でマッチョなフッ素原子が、炭素原子のつながったケーブルをガッツリ取り囲んだ構造の巨大な分子です(-CF2CF2-のユニットが数千もつながってできています)。
炭素とフッ素の原子が密着して、ほかの分子の攻撃をはね返すので、硫酸や塩酸、水酸化ナトリウム、ありとあらゆる薬品に耐性があります。表面はツルツル、スベスベで、スケートができるくらいです(のちに、実際にスケートリンクもつくられました)。耐熱性も大きく、高温でも溶けません。
さっそく合成方法の研究がスタートし、デュポン社では、「ナイロン」と並ぶ20世紀を代表する発明品になりました。「テフロン」を使ったものは、フライパン、アイロン、タコ焼きのプレートから人工心臓、宇宙服まで、多岐にわたります。
このプラスチックでつくったガスケット(つなぎ目の充填材)やライニング(内張り)は、腐食性の高いガスや液体にも耐えられるので、産業界の需要は計り知れないものでしたが、1つだけ欠点がありました。製造にとてつもなくコストがかかる高価な物質でした。
しかし、すぐに金に糸目をつけない、ビッグな顧客が現れました。それはアメリカ政府です。アメリカが立ち上げた巨大な国家プロジェクト「マンハッタン計画」という原子爆弾開発のために、なくてはならない物質だったのです。