じじぃの「科学・地球_423_始まりの科学・知性の始まり」

Debunking Out-of-Africa Theory in Under 15 Minutes - ROBERT SEPEHR

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=7MKbT9YxLF4

二足歩行と脳のサイズ


第1回 馬場悠男(人類学):骨から探る人類史~思いやりの心を未来の子孫に向ける(対談編)

ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
●なぜ直立二足歩行になったのか
関野 ぼくが子どものころ、人類の歴史は100万年と言われていました。ところが、グレートジャーニーに出発する前年(1992年)に東京大学の諏訪元さんたちが440万年前のラミダス猿人を発見しました。それからアフリカまで行って帰ってきた時には中央アフリカのチャドで700万年前の遺跡が見つかっていました。古生物学者たちの調査で、どちらの骨も発見された場所はその当時森だということが分かりました。東アフリカの大地溝帯で、乾燥化によってサバンナでの二足歩行が始まったという「イーストサイド・ストーリー」はこれで崩れてしまいました。

馬場 そうですね。二足歩行になると狩りをするのに便利だとか、他の動物を威嚇できるとか、太陽が上から照らした時に日にあたる面積が少なくて暑さを凌げるとか、いろいろ利点があります。でも、実際に二足歩行を前に進める理由として考えられたのが、ラブジョイ教授の「食物供給仮説(プレゼント仮説)」です。二足歩行がうまくて、やさしくて、エサを持ってきてメスにあげるオスと、そういうオスと仲良くするメスがコンビになって、両方の遺伝子が進化して二足歩行が発達したのだろうという考えです。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/18/071000013/082000003/

『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』

矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行

パート12 知性の始まり――人間の知性とAIの知能 より

●原始的な線虫にも”脳”がある。
ところで、われわれ人間は思考の中枢としての脳をもっている。重さ1300gほどのこの脳が人類文明を生み出す上で中心的役割を果たしたとは誰もが考えることだ。ではその脳はどのようにして生まれたのか?
人間の脳は神経細胞ニューロン)の集合体である。そして、体長1mmの線虫(C・エレガンス)もまたニューロンをもっている。この非常に小さな生物の体はわずか959個の細胞でできているが、そのうちの302個、つまり体をつくる全細胞の3分の1がニューロンだ。これらのニューロンは線虫の頭部に密集し、複雑なネットワークをなしている。線虫のニューロンの集合体はより複雑な生物の脳の原点といえるかもしれない。
このニューロンは外部のにおい物質や温度などを感じとると電気的に興奮し、それを化学信号(神経伝達物質)として他のニューロンに伝える。他のニューロンはその情報をもとに体の各部に運動の指令を出す。こうして線虫は栄養源に向かったり、酸などの危険物質から遠ざかったりする。ニューロンのこのしくみは、人間のそれと基本的に変わらない。
だが人間の脳ははるかに大きく複雑で、その構造は3つに大別される。呼吸や心臓の動きなどの基本的な生命活動を支配する「脳幹」、体の動きを調整する「小脳」、それに知性の場である「大脳」である。
脳のこうした構造はすでに5億年前頃にはその原形ができていたらしい。ヤツメウナギなどの原始的な脊椎動物の脳はすでに哺乳類と同じくいくつかの領域に分かれ、大脳も出現する。ただし圧倒的に大きいのは、いまだ生命維持に不可欠の脳幹である。
ここから進化して爬虫類になると大脳はやや大きくなって「外套」(哺乳類の「新皮質」に相当)が広がる。さらに哺乳類になると、大脳は著しく大型化すると同時に、表面積の増えた新皮質を収納するために”しわ”が生じる。ちなみに、同じ哺乳類のクジラやイルカの脳は人間のそれ以上に大きい。
人間の大脳は数百億個のニューロンからなる。その密度は1立方cmあたり1000万個。そして個々のニューロンは他の数千~1万のニューロンと接続(シナプス)をつくり、全体としてきわめて複雑なネットワークをつくっている。1個のニューロンが発火(電気的興奮)すると、それは他の数千億個のニューロンを発火させる。この過程を3回くり返すと、その興奮は瞬時に大脳皮質の広い領域に広がる。こうしたきわめて複雑な興奮のパターンは、脳の知的活動を表している。
ここで疑問が生じる。興奮の伝わり方が複雑なら、それはすなわち知性のはたらきなのか?

●「言葉を失った人間は人間ではない」
AIは意識をもたない。
とはいえ、人間の脳もAIと同様、物質からできたモノである。では何が脳に意識を生み出し知性を育てたのか? 答えは見つかっていない。
意識はその個体(ヒトや動物)の内的経験である。したがって、たとえ意識の状態をデジタル画像や脳波で映し出しても、それが意識の実体かどうかは誰にもわからない。しいて言うなら、意識もまた生物と環境との相互作用の産物であり、人間の意識が鮮明になった(認知機能が高まった)ことが知性の発達を促したであろう、と言える程度だ。
知性を発達させたいまひとつの要因として多くの研究者が重視するのが「言語」、すなわち言葉である。われわれはふだん言葉でものを考える。たとえ無言のときでも、脳内で言葉を使わなければ複雑なことを考えることは困難だ。ぼうっとした形のない思考とか、絵や写真のような映像を頭に浮かべる思考もあり得るが、言葉がなければ明確で筋道のある物事を考えることはできない。これは自分でちょっと試みてみればすぐにわかるはずだ。
言語は、他人の考えを理解したり自分の考えを他人に伝える強力で便利な手段である。その情報伝達力は、他の動物たちが意思疎通のために用いる警戒音や威嚇音、求愛のさえずりなどの域を大きく超えている。
マサチューセッツ工科大学教授で世界的に知られる言語学者ノーム・チョムスキーは、「言語は人間存在の核であり、言語を失った人間はもはや人間ではない」とまで述べている。
チョムスキーは言語を体の”特殊な器官”ととらえる。
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また2001年にはイギリスの研究者たちが、言語と深く関係する遺伝子を発見した。これは「フォックスP2(FOXP2)遺伝子」と呼ばれ、この遺伝子に異常があると、口や舌などの筋肉のはたらきが強調しなくなって言語を支配する脳が発達せず、言語障害が生じると考えられた。
ちなみにこの遺伝子は他の多くの動物にも共通だが、人間のそれは他の動物のものとはわずかに違っているという。この違いが人間の言語能力のカギかもしれない。

●現代人はいつから言葉をしゃべったのか?
人間がいつ言葉を使い始めたかはわかっていない。太古の化石や遺跡に音声会話の痕跡は残らないからだ。しかしひとつのヒントが南アフリカの海岸に面するブロンボス洞窟(ケープタウンの東300km)にあった。つい先年、ノルウエーの考古学者がここで7万7000年前の粘土板に描かれた幾何学模様を発見したが、これは知られるかぎり人間が描いた最古の模様である。
この洞窟や周辺の洞窟では、同時代の遺物として油や粘土、炭などをかき混ぜてつくった顔料、貝に穴を開けたビーズ、柄つきの骨の道具も発見された。石器も多様化し、材料を加熱圧縮して薄片をはがすという高度な技術が用いられていた。どれも抽象思考や芸術的センスの萌芽を示していると見られた。
言語学者の研究では、言葉を話す人間集団の発祥の地はアフリカであり、ここから世界各地に広がった彼らの子孫はすでに言葉を話すようになっていたと見られている。とすると、南アフリカの洞窟人が複雑な言葉を話しはじめた最初の地球生物だったかもしれない。単なる想像の域を出ないものの。
彼らが残した遺物が示す抽象概念や高度な技術はすでに知性の現れであり、彼らの本性は現代人と何ら変わらなかったように思われる。むしろ現代社会でさしたる生物学的困難なく生きる人間より、彼らの方が日々生存のために創造性を求められたであろう。知性の本質は現代的な科学技術の力などとはまったく別のものだからだ。