じじぃの「科学・地球_418_始まりの科学・生命の始まり」

科学者たちは、小惑星リュウグウの起源の謎を解いたと考えています

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=MULoASRMPUI

小惑星リュウグウから持ち帰った石や砂


リュウグウアミノ酸23種、はやぶさ2が持ち帰った石と砂で確認…生命の宇宙到来説を補強

2022/06/10 読売新聞オンライン
岡山大などの研究チームは、日本の探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った石や砂から、アミノ酸が23種類見つかったと発表した。

自然界にアミノ酸は多数あるが、たんぱく質は20種類で出来ている。チームの分析では、そのうち約半数のアミノ酸が含まれていたという。中村特任教授は「アミノ酸などの有機物は地球以外の天体で作られた後に地球にもたらされ、それらを材料に生命が誕生したのだろう」と語る。
https://www.yomiuri.co.jp/science/20220609-OYT1T50282/

『【図解】始まりの科学―原点に迫ると今がわかる!』

矢沢サイエンスオフィス/編著 ワン・パブリッシング 2019年発行

パート7 生命の始まり――地球で生まれたか、宇宙から飛来したか? より

●宇宙は負のエントロピーを食べている
生命、と聞くとわれわれは単純に、動物や植物、それに自分をも含めや人間自身のことだと思いがちである。それで誤りではないが、これだけでは生命の定義にはならない。地球上の生命がいつどのようにして生まれたかは、どんなにすぐれた科学者にもわかっていないのだ。
この疑問に対しては、古代ギリシャ以来じつに多様な回答が試みられてきた。だがどれも結論にたどりついていない。ここでは、そうした古い記憶や、全能の神が一夜にして創造したという類の神話は脇におき、現実科学の見方に焦点を当ててみる。それだけでも非常に複雑でやや頼りないのではあるが。
20世紀に入ってからも生命の定義は容易ではなかった。さまざまな分野の科学者に効けばさまざまな答えが返ってきた。量子論のパイオニア、エルヴィン・シュレーディンガーの定義はこうだ――「生命は負のエントロピーを食べて自分の内部に秩序を生み出す存在である」――素人にはむかない説明である。ここで言うエントロピーとは、不可逆的に進む”複雑さ”や”乱雑さ”の度合いのことだ。この宇宙は全体としてはたえず乱雑さを増しているが、その中で生命だけは逆の方向、すなわち負のエントロピー(=秩序)を生み出す存在だというのである。
彼らの定義の中には一見ふまじめなものもある。たとえば「生命とは非生命(物質)ではないもの」とか「踏みつけると死んでしまうもの」などというものだ。まあ、答えに窮したのだろう。
しかしこの問いへの大方の見方は、「生命とは自己複製する存在」、または「生命は代謝する(エネルギーを取り入れて不要なものを吐き出す)存在」に代表される。ここで言う自己複製とは、自分で自分のコピーをつくる、つまり親が子をつくるという意味である。

●地球起源説
生命を生み出した原始地球の環境は?
ところで、最初の生命が宇宙ではなく(大昔の)地球で生まれたとしたら、まずその頃の地球がどんな状態であったかを明らかにしなくてはならない。現在のような地球環境を前提としたのでは、まったく別の生命誕生理論を考えるはめになるからである。
46億年ほど前に生まれた直後の地球(パート5)の環境は、現在とはまったく異なっていた。つまり、最初の生命はわれわれの知らない原始地球の環境で生まれ、その後の地球の”大変動”を生き延び、現在のような環境に適応して生きてきたことになる。
20世紀初頭、イギリスの遺伝学者J・B・S・ホールデーンとロシアのアレクサンドル・オパーリンは、原始地球の大気はアンモニアやメタン、二酸化炭素、水素、水などの分子でできていたと考えていた。これらはみないまの地球生物の体をつくる分子の材料となる。ちなみにホールデーンは、いまでは誰もが知る「クローン」(パート13参照)の造語者でもある。
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では、この反応が進行すればより複雑な有機物質が生まれ、ついには”生命の萌芽”が生じるのか? 生命と呼ぶからには、第1にその有機体は自らをコピーして1つが2つへ、2つが4つへと増殖する性質をそなえなくてはならない。増殖せずには子孫を残せない。
第2に、そのような性質をもつ有機体ないし原始生命は、冒頭で見たような「代謝(新陳代謝)」の能力をそなえていなくてはならない。だが、科学者がいくら実験を続けても何も発見できなかった。

●粘土説
粘土の表面で生命が生まれた?
ところで、いま見た仮説は、分子どうしが化学反応をおこして新しい物質を生み出し、その結果として生命が生まれたと考えるところから、後に「化学進化説」と総称されるようになった。総称というのは、その中にもいろいろな説が含まれるからだ。
いろいろな説の代表が「粘土説」である。別名「表面代謝説」ともいう。これは文字通り「地球生命は粘土の表面で起こる代謝作用から生まれた」と主張する。
粘土説はイギリスのジョン・バナールが1959年に提唱した。粘土の表面では有機物のアミノ酸どうしが結合(重合)しやすく、この反応がくり返された結果、ついに原始生命が出現したというものだ。
粘土にせよ黄鉄鉱のような鉱物にせよ、その表面で化学反応が起こりやすいことはよく知られている。つまりこれは粘土や黄鉄鉱の表面で代謝が起こることに注目した説である。
粘土説にはたしかに説得力がある。自然界にはこれと同様の事例が他にも存在するからだ。たとえば原子や分子が規則正しく並んだ固体である「結晶」は、自分自身を変化させながら成長することが実験で観察されている。無機物の結晶が生命を思わせる自己複製を行うのだ。
そこでいま各国の研究者たちは、研究室で粘土を前に、そこからRNAが姿を現さないものかとにらめっこしている。ちなみにバナールは、宇宙空間で人間が恒久的に生活できる巨大な施設「スペースコロニー(バナール球)」の最初の提案者でもある。

RNAワールド説
はじめに遺伝子ありき?
化学進化説の2番目は「はじめに遺伝子が生まれた」とするものだ。遺伝子といえばDNAがよく知られているが、ここではDNAよりも単純で不安定な1本鎖の「RNA」が注目される。
この分子の役割は”遺伝子”の入れ物としてだけではない。RNAは分子を選んだり分子どうしをつなぎ合わせたりもする。ともすれば、RNAという分子はそれだけで小さな生命体と見ることもできる。つまり「RNAワールド」が最初の生命だというのである。
RNAワールドをさきほどの粘土説の延長上で考える研究者もいる。粘土の表面をつくる分子は規則的に並んでいる。そこに糖やリン酸、核酸塩基などのRNAの材料がとらえられるとこれらの分子も規則的に並べられることになり、原始的なRNAが生まれる可能性がある。これをくり返しているうちにRNAからより複雑なDNAがつくられ、それが自らをコピーする遺伝能力となって原始生命を生み出すかもしれない。

●宇宙起源説(生命宇宙飛来説)
ホーキングも支持したパンスペルミア
これらとはまったく別の説もある。それは、超大物科学者の得意技の「生命は宇宙から飛来した」とするものだ。
この見方は世界的に「パンスペルミア」で通じる。パン(=汎)はギリシャ語でいたるところ、スペルミアはタネを撒くの意なので、一言でいえば遍満する宇宙のタネということになる。このタネ、つまり生命の根源物質であるアミノ酸などの有機物が宇宙を飛び交い、偶然たどりついた天体――地球もそのひとつ――で新たな生命が芽吹かせるとするのがこの説である(日本語では胚種公布説)。
そのタネは広大無辺の宇宙空間をどうやって移動するのか? 答えは、星々が発する光の放射圧にはね飛ばされたチリに乗って、また星の近くでは小惑星や隕石や彗星に含まれる「極限環境微生物」となって旅をした。
極限環境微生物とはふつうの生物がとうてい生きられない過酷な環境で生きる生物のことで、たとえば古細菌、好熱菌、好アルカリ菌、抗酸菌、放射性耐性菌などである。
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2008年には前記スティーヴン・ホーキングジョージ・ワシントン大学でのNASA主催の講演会で、「なぜ人類は宇宙に行かなければならないのか」と題してパンスペルミア説の重要さを説いている。
奇妙にも、日本の科学者にはパンスペルミア説の支持者をめったに見かけない。そのため一般読者にもこの説を知る機会がほとんどない。筆者の知るかぎり、日本でこの説に注目している著名学者は松井孝典東京大学名誉教授(惑星物理学)である。彼はその著書『スリランカの赤い雨――生命は宇宙から飛来するか』でパンスペルミア説を説明している。
パンスペルミア説を支持する科学者の多くはすでに功成り名遂げた大物学者ばかり。彼らは研究者の間で主流から外れた見方を論じても、自身の名声や研究生活に何の支障もきたさないだけの実績をもっている。

しかし一般の科学者・研究者にとっては、研究予算がつきにくいパンスペルミア説のようなテーマに取り組むことはリスクが高い。

だが読者の多くはこうした科学者の現実とは無縁であろうから、生命がどのようにして始まったかについて、いまからでも自由に考察できるはずである。