じじぃの「科学・地球_411_退化の進化学・水生説・毛の退化の謎」

エレイン・モーガン: 水界の類人猿から進化した人間

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=gwPoM7lGYHw

Aquatic Ape Theory


Aquatic Ape Theory

The Aquatic Ape
The Aquatic Ape Theory (AAT) was formulated by Alister Hardy in year 1960. The theory attempts to answer a lot of unanswered questions that have plagued mankind about our heritage - why do we walk on two legs? why are we naked? why do we sweat? How come that babies automatically hold their breath under water? etc. Hardy suggested that we during the evolution have spent a considerable time on the coastlines and adapted to a semi-aquatic environment, not on the hot dry savannah or in the forest with the other primates.
https://theaquaticape.org/human-evolution/aat/

『「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足後』

犬塚則久/著 ブルーバックス 2006年発行

第6章 木からおりて――700万年前 より

毛の退化の謎

哺乳類のことを獣(毛もの)といい、人類のことを「裸のサル」という。ところが実際にはヒトも全身を産毛(うぶげ)がおおっており、頭や背中の毛の本数はテナガザルやチンパンジーよりもずっと多いし、頭髪はオランウータンよりもはるかに多い。このことからヒトは霊長類でもっとも毛が少ないというのは誤りだとする人類学者もいた。――とはいえ、産毛は細く短くてめだたないので、ヒトが「裸」であるにはちがいない。
人毛には生えている部位ごとに名前がある。髪の毛は頭髪(とうはつ)という。眉毛(びもう)、睫毛(しょうもう)、鼻毛(びもう)、耳毛(じもう)は眼、鼻、耳という感覚の窓のまわりに生え、日差しや異物の侵入を防いでいる。思春期以降に生えるのが腋毛(えきもう)と陰毛(いんもう)でヒトに特有のものである。それぞれ手足のつけ根に生えることから、手足がうごくときに摩擦を減らすためと説明されたことがある。また、母親が木に登るときに赤ん坊がつかまるためにある、という珍説もある。胸の乳を吸う赤ん坊が手で腋毛、足で陰毛をつかむと、母子の体の位置がピッタリ対応するのだそうだ。
思春期以降に男だけに生える毛は第二次性徴である。口、頬、顎に生える毛はすべて須毛(すもう)という。類人猿のオスにも頬や顎にかなりのひげが生えるが、高等狭鼻猿とほとんどの類人猿では顔の上部と耳はほぼ無毛である。類人猿の毛はまばらで、胴や体肢の腹側では薄い。ちなみに、胸毛、乳毛、すね毛というのは俗称で、解剖学用語にはない。
このように大人では体の各部に毛が生えるので、人類も過去には多毛だったらしい。もっとたしかな証拠は胎児の毛で、胎生6ヵ月までに全身が柔らかい胎毛でおおわれている。胎毛はまず頭から生えだし、手足でおわる。手のひらと足の裏、唇の縁、生殖孔周辺は無毛だが、尻だこのできる部位でもっとも厚くなる。
胎毛はふつうの誕生前に消えるが、まれにのこることがあり、このばあいは顔も体も一生毛むくじゃらになる。
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そもそも毛は哺乳類型爬虫類の鱗が消える前に特殊な感覚器としてできたらしい。発生初期の毛は両生類の感覚器に似た点がある。またヒトの胎児で最初に毛が生えるのは額、口、眉のあたりで、そこにはネコのヒゲのようにもともと触毛が生える場所である。いまでは特殊化した触毛のほうがじつは毛の原型なのかもしれない。
ふつうの毛は保温に役立つ。このため寒帯にすむジャコウウシやホッキョクグマ、ホッキョクギツネの毛は長く、熱帯や亜熱帯のものでは手足が短いか、まばらになる。また、水中では毛も保温の役に立たないので、水生種では毛が減る傾向にある。ときどき陸にあがる半水生のカワウソやアシカでは毛が短く、決して上陸しないクジラや海牛類では完全な無毛になる。
このほか毛にはいくつかの特殊な用途がある。ハリモグラハリネズミヤマアラシでは毛が刺に変わって太く硬くなり、防御につかわれる。オオアリクイの体表は長い粗毛でおおわれていて、アリが皮膚にまでたどり着けないようにしている。ナマケモノの毛には溝が刻まれていて水分を保ち、コケが生えやすくしている。うごきが遅いナマケモノはこうして体を緑の保護色にしている。

一般に毛が退化するのにいくつかの要因が考えられる。先にのべた水生獣の場合は毛のあいだの空気層による保温が効かないので毛をなくし、その代わりに皮下脂肪を蓄える。ゾウ、サイ、カバ、セイウチ、ゾウアザラシなど体重が1tをこす巨獣では、体積のわりに体表面積が少なく放熱しにくいため無毛になった。同じサイの仲間でも小型のスマトラさやジャワサイには毛がある。絶滅したケマンモスやケサイは巨獣にもかかわらず寒帯にすんでいたので防寒用の長い毛を生やしていた。これらより小型の動物にも無毛のものがいる。森林沼沢性のコビトカバやバビルーサ、地下性のハダカデバネズミ、飛行性のハダカオヒキコウモリなどである。

ではヒトで毛が退化したのはなぜか。その要因を最初に考えたのは、かのダーウィンだった。毛は熱帯の太陽からも極地や高地の極寒からも体を守ってくれる。無毛でいることの利益がないから自然選択で毛をなくす理由はみつからない。いっぽう世界中のどこでも男のほうが女よりも毛深い。このことからダーウィンは性選択が毛の消失の原因であると考えた。すなわち、ヒトの先祖は完全に毛でおおわれていたが、オスがもっとも毛の少ないメスを選び、メスは頭と顎に立派に毛の生えたオスを好んだので、体全体の毛はしだいに退化する一方、髪とひげは強く発達したのだという。
ヒトの毛の退化要因を考えるときには、体のほとんどの毛が薄いことと同時に、髪の毛をはじめとする局所的な毛の存在理由もうまく説明できなければならない。毛の消失については人類の起源にからんで3つの説がある。
まず、人類の祖先が森林からひらけたサバンナに進出したのにともない、体温調節のまとに汗をかく体では毛をなくし、もっとも強く日差しの当たる頭に毛をのこしたというサバンナ説。つぎに、類人猿でも幼児では毛が薄いことから、人類は幼時の形質をのこしたまま性成熟した動物なのだというネオテニー説。

そして、かつて水生生活をしていた時代に毛をなくし、頭だけが水面から出ていたので、髪の毛がのこったとする水生説である。最近の水生説によると、女のほうが男より髪の毛が長いのは幼児がつかまるためだとされている。いずれにしても、なかなか一筋縄ではいかない難問である。

あなたならどう考えるだろうか。