じじぃの「科学・地球_410_退化の進化学・ゴリラ・脳の中のサル」

賢者に聞く『ゴリラの方から人間を見て』京大総長 山極寿一digest 司会:関野吉晴

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=J2_CMz-ifQo

大脳皮質のおはなし


大脳皮質のおはなし

Akira Magazine
前頭葉
優位半球の前頭葉の下の方には、運動性言語中枢野(ブローカ野)Broca's areaがあり、言語処理(話す事)、及び音声言語の中枢で、ノド、唇、舌などを動かして言語を発する役目を担っています。
この部分が障害されると、言葉を理解していても話せなくなります。(失語症)また、下頭頂葉においてミラーニューロン(Mirror neuron)共感(他人の行動をみて自分の行動の様に感じる事が出来る。人の心を読み取る事が出来る )能力を司っている活動が観測されています。
http://www.akira3132.info/sp_cerebral_cortex.html

『「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足後』

犬塚則久/著 ブルーバックス 2006年発行

第6章 木からおりて――700万年前 より

脳の中の「サル」

「猿まね」というように、サルはヒトより一段劣ったものとみられている。しかしそれは自らを万物の霊長とよんでいるヒトの勝手な思い込みにすぎない。たとえば顔の認識実験というのがある。よく知っている仲間や飼育係の顔写真をみせ、見分けがついたところでボタンを押すという訓練をチンパンジーに施す。こうしておいてチンパンジーとヒトでどちらが早く見分けられるかを競わせると、通常のむきではともかく、逆さまにした顔ではチンパンジーの圧勝におわった。考えてみれば当然の結果で、樹上という三次元空間の生活では地上の二次元にくらべて上下方向の変化が著しく、空間の認識能力もそれに応じたものになっているはずだからだ。
まずは脳のつくりからみてみよう。脳は神経細胞とそこからのび出た神経線維との塊である。左右にあって大きく球状にふくらんでいるのが大脳半球である。大脳半球を大きな饅頭(まんじゅう)に見立てると、表の皮が皮質(ひしつ)、中のあんこが髄質(ずいしつ)である。皮質は神経細胞の集まりで色が濃い灰白質(かいはくしつ)、髄質は線維が集った白質である。
ネズミなどの原始的哺乳類では大脳皮質はなめらかだが、有蹄類、食肉類、霊長類では多数のシワがよる。ヒトの大脳でも生まれた当初はネズミのように平滑だが、成長とともにシワが増えてくる。これは、皮質を構成する神経細胞が増えて表層におさまりきれなくなったためで、内部にもぐり込むことで表面積を広げているのである。こうしたことから脳のシワが多いと頭がよいといわれるようになっただろう。
解剖学では、大脳皮質のシワの凸部を回転または回、凹部を溝(こう)という。大脳の回と溝にはそれぞれ名前がついている。もっとも大きいのが外側溝(がいそくこう)で、これより下が側頭葉(そくとうよう)になる。次に大きいのが頭のてっぺんから大脳半球を前後にわける中心溝で、これより前が前頭葉、後が頭頂葉になる。後頭葉前頭葉のさらに後にある。頭頂葉後頭葉の境が頭頂後頭溝だが、この溝は外側面よりも内側面のほうがはっきりしている。
中心溝のすぐ前にある回転が中心前回で、すぐ後が中心後回である。中心前回は全身の筋を支配する運動神経の中枢で運動野とよばれ、中心後回は全身の知覚神経の中枢で体性感覚野とよばれる。
このように大脳皮質の部位にはそれぞれ決められた仕事がわりふられており、これを機能局在という。たとえば前頭葉には運動野のほかに運動性言語中枢(ブローカ領)がある。ここが冒されると話ができない、文字が書けないという失語症になる。側頭葉には聴覚野や感覚性言語中枢(ウェルニッケ領)がある。こちらの失語症では言葉が理解できなくなる。そして後頭葉にあるのが視野で、この前縁を区切るが月状溝(げつじょうこう)である。月状溝はサルや類人猿でめだつので猿溝(えんこう)ともよばれる。

霊長類の脳の最大の特徴の1つが視覚野の発達である。視覚野はすでにツパイ(リス)でよく発達しているが、前端にはりだす嗅球(きゅうきゅう)がわりと大きい点からみて、まだ視覚より嗅覚が頼りである。
嗅覚から視覚への転換は真猿類からである。新世界猿、旧世界猿のほとんどで大脳皮質の回転が増え、中心溝と猿溝がとくにめだつ。類人猿の猿溝は大きく、大脳半球を横切って大きな曲線を描く。ゴリラとチンパンジーの脳は大きさ以外ではほとんど区別できないが、猿溝はチンパンジーのほうがずっと大きい。
ヒトの一次視覚野は後頭葉外側面では月状溝より後の小部分にかぎられる。これはヒト科が進化するあいだに頭頂連合野が拡大して、後頭葉にある視覚野を後に追いやったためである。

アウストラロピテクスやパラントロプスといった初期のヒト科の脳でも前頭葉のブローカ領が類人猿のものより大きい。このことからヒト科の初期にはすでに視覚野が後に移っていたと考えられている。

この結果ヒトでは視覚野の前をくぎる猿溝が後に移り、ごく小さな三日月状の月状溝になった。さらに日本人の30%には月状溝がない。まれに現代人でも顕著な猿溝がみられるが、これは類人猿への先祖返りといえる。