じじぃの「脳科学・アストロサイト・ヒトだけにある細胞?面白い雑学」

脳を覆っているアストロサイト

   

神経回路の固定から学習にまでかかわるアストロサイト

生命科学DOKIDOKI研究室
生徒:こんなふうに、アストロサイトが脳を覆っているってことですか?
先生:グリア細胞の中でも、アストロサイトがニューロンや血管を取り囲むように脳全体に広がっているんですよ。なんと10万ものシナプスを覆っているといわれています。一つのアストロサイトの平均体積は約6万6000μm3ですが、表面積ははるかに大きく200万μm2もあるのです。

生徒:こんなにアストロサイトが広がっているんじゃ、「ミクロの決死圏」の医療チームは、脳内を動き回れっこありませんね。
先生:アストロサイトの第一の働きは、このように四方八方に広がってニューロンのネットワークを固定することです。そして、もう一つ大切な働きがニューロンへの栄養の供給。アストロサイトは、突起の一端を血管に接触させ、脳のエネルギー源であるグルコースを血管から取り込んでニューロンに渡しているんですよ。
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_15/03.html

『面白くて眠れなくなる脳科学

毛内拡/著 PHP研究所 2022年発行

PartⅢ 脳の可能性は無限大――「ニューロン以外」の細胞が頭の良さのカギ? より

はたらくグリア細胞

IQが高い人の脳は、体積が増えているものの、そこにある神経回路はシンプルなものだったとお話をしました。ではいったい何が増えていたのでしょうか。
ここで思い出していただきたいのは、脳を構成する要素には、ニューロン以外にも、グリア細胞と呼ばれる脳細胞があるということです。
グリア細胞は、日本語では神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)と呼ばれています。膠というのは「にかわ」のことで、つまりレンガとレンガの隙間を埋めているパテのことを指します。
じつは、ゴルジ染色の時代から、グリア細胞は見つかってはいましたが、何をしているかは不明だったため、単にニューロンの隙間を埋めているに過ぎないと考えられて命名されたと考えられます。グリア細胞の中でも何度か登場したアストロサイトは、マウスの脳では、規則正しく配置され、それぞれ自分の守備範囲を持って存在しており、突起同士が重なり合わないことなどが報告されています。
一方、このアストロサイトが興味深いのは、進化的な側面にあります。大脳皮質におけるニューロンとアストロサイトの数の比を、さまざまな動物種では比較してみると、進化的に脳がより複雑な生物ほど、その割合が増えることが期待されています。
たとえば、マウスやラットでは、ニューロン1に対してアストロサイトは0.4程度であるのに対して、ネコでは1:1程度、ヒトでは1:1.5程度と増加します。つまり、ニューロンよりもアストロサイトのほうがマウスと比べて格段に大きく、複雑であることが報告されています。

ヒトだけにある細胞

そればかりではなく、ヒトのアストロサイトには多様性があることもわかっています。当然、ヒトとマウスで共通して持っている種類のアストロサイトも存在しますが、ヒトや一部のチンパンジーにしか存在しない種類のアストロサイトも存在します。
このヒト特有のアストロサイトが興味深いのは、長さ1ミリメートルにもおよぶ突起を伸ばしているところにあります。細胞体の大きさが、0.01ミリメートル程度であることを考えれば、この突起がいかに長いかがおわかりいただけると思います。
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ヒトの大脳皮質の厚さは、部位にもよりますが、平均すると2.5ミリメートル程度ですから、大脳皮質の上層から下層に向かって、また下層から上層に向かって1ミリメートルの突起を伸ばしているということは、ほぼ大脳皮質の全体を覆う回路を形成しているのかもしれません。

アストロサイトは、血管とシナプスをつなぐ役割を持っていますが、マウスでは周囲にあるシナプスをいくつも束ねて、その活動性を調節している可能性があります。したがって、直接は、シナプスを形成していないニューロン同士も、アストロサイトを仲介として、一緒に活動しうるということです。
もし本当に、ヒトの脳では、アストロサイトが大脳皮質のニューロンの活動を縦横無尽に仲介しているとしたら、まったく関係ないニューロンが一緒に活動するように誘導して、シナプスを形成させたり、複数の領域の神経回路を同時に活性化することで突拍子もないアイディアをひらめいたりということが、ありうるのです。
残念ながら、ヒトではニューロンはおろか、アストロサイトの活動を評価する方法はまだ発明されていませんので、このようなアイディアを実証することはできません。
しかし、もしそうだとしたら、なぜヒトだけが特別なのか、動物とヒトは何が違うのか、頭が良いとはどういうことか、の答えには、アストロサイトが密接に関わっているといえるのかもしれません。これは、これまでのニューロンを中心とした考えとはまったく異なる、新しい考え方となるでしょう。