じじぃの「科学・地球_409_退化の進化学・額のわれめ・前頭縫合」

京都大学 ELCAS 平成29年度基盤コース開講式「京都大学の創造の精神 フィールドワークの世界」山極 壽一(京都大学総長)2017年9月16日 チャプター3

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=U7VHnc11E-4


頭蓋骨から考える身体

2015年07月27日 アリブロ
頭蓋骨の縫合線って知ってますか?
頭蓋骨には大きく分けて3つの縫合線がありますが、新生児のうちは骨化が未完成な状態で、泉門という穴もあるため、くっついていません。
①前頭骨-頭頂骨 : 冠状縫合
②右頭頂骨-左頭頂骨 : 矢状縫合
③頭頂骨-後頭骨 : ラムダ縫合
https://ameblo.jp/arisugawaseikeigeka/entry-12055331003.html

『「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足跡』

犬塚則久/著 ブルーバックス 2006年発行

第4章 サルとなって――7000万年前から より

額のわれめ――前頭縫合

赤ちゃんの頭のてっぺんをそっと触れると、柔らかいところがあることに気づく。博動にあわせてひくひくするところから「ひよめき」とよばれている。ここはまだ骨ができていない「骨の窓」で、解剖学では泉門(せんもん)という。頭の表面には泉門が6ヵ所もあいている。こんな「骨の窓」開いていることには深いわけがある。
人類は直立二足歩行によって類人猿と袂(たもと)をわかち、骨盤もそれに適したそれに適した形に変わった。ヒトの骨盤は内臓をささえやすいように上に開いたすり鉢形で、赤ちゃんがとおる骨のトンネル(骨産道)が狭まっている。一方、直立して自由になった手で道具をつくり使ううちに、脳容量はますます増大して頭が大きくなった。
こうしてできた巨大な頭が骨産道をとおるにはなにか奥の手がいる。それが頭の骨が完成する前に出してしまおうということである。骨と骨とのあいだに膜がのこっているうちなら、頭を細長く変形させてトンネルを抜けられる。生まれたての赤ちゃんの頭がとがっているのはこのためである。また、ヒトの誕生は生理的早産といわれ、まったく頼りない状態で生まれてくるが、1歳ごろが本来の生まれ時にあたるという。これも頭が小さなうちに生まれている証拠である。
脳の表面をおおう脳頭蓋は、額の前頭骨、てっぺんの頭頂骨、後の後頭骨、両脇の側頭骨である。大人では頭頂骨と後頭骨は1枚、頭頂骨と側頭骨は左右2枚からなる。これら6枚の板状の骨で、球形に近い頭の表面をおおっている。
それぞれの骨の板はほぼ真ん中に骨化のはじまる場所(骨化点)がある。ただ前頭骨だけはもともと左右2枚からなるなるので、骨化点も2つある。前頭骨や頭頂骨では大人になってもこの骨化点のなごりがふくらみとしてみられる。いわゆる「おデコ」や「絶壁」の女性にめだつのがこれで、横からみると四角い印象をうける。
骨は骨化点から放射状に脳の表面をおおうようにできるので、形成途上の各骨は丸い笠のような形になる。このため新生児の頭を上からみると、左右の前頭骨と頭頂骨で笠を4つならべたようにみえる。四隅から骨が広がっていくがまだ完全ではないので、そこに菱形の膜だけの部分がのこる。これが最大の大泉門である。

頭頂骨正中の後の隅は正中の後頭骨とのあいだに三角形の窓があき、こちらは小泉門という。このほか側頭部には前後に小さな泉門ができ、ほぼ四辺形の片側の頭頂骨の角にあたるので、左右すべてあわせると6ヵ所になる。
頭の骨は生まれた後も骨化が続き、大泉門が閉じるのはようやく2歳ごろである。左右の前頭骨もふつううは8歳までに閉じて1枚になる。ときおり思春期以降もこの境界(前頭縫合)がのこる人がいる。白人にはけっこうみられるが、ネイティブアメリカンではごくまれである。日本人ではおよそ20人で1人にみられる。こういう人では額の真ん中に縦のすじを触れることができるのでそれとわかる。
その後も脳頭蓋の各骨は癒合をつづける。左右の頭頂骨のあいだは22歳頃に閉じはじめ35歳で完全に癒合する。つまり骨と骨とのあいだの線維がすべて骨に置き換わり、頭骨に特有の縫い目模様が消えるまでに10年以上もかかるということである。ついで20代半ばから前頭骨と頭頂骨のあいだは正中に近い内側から外側にむかって骨化していき、40歳すぎには完全に癒合する。頭頂骨と後頭骨のあいだについても同様である。こうして脳頭蓋の縫合はおおよそ登頂の正中部から側方にむかって閉じていき、最後には耳の後あたりでおわる。ただし、これらの縫合が閉じおわるのは80歳すぎとされるので、早く亡くなった人は頭蓋の縫合が閉じきらなかったことになる。
頭の骨にかぎらず多くの骨は、1つの名前でよばれる骨の中に複数の骨化点をもち、骨化が進むにつれて隣の骨と癒合することで形づくられる。したがって骨の数は子供のほうが多く、歳とともに数は減る。ヒトの頭の骨は全体として頭蓋といい、脳を包む脳頭蓋と顔をつくる顔面頭蓋にわけられる。頭蓋を構成する頭蓋骨は合計で15種類23個とされる。ただし生まれてから死ぬまで骨は成長し、癒合しつづけるので、各人の骨の数はどの時点で数えるかによる。ちなみに哺乳類の頭の骨の数はふつう25種類44個あまりになる。
脊椎動物の前頭骨はもともと対になっているが、哺乳類では単孔類では単孔類、食虫類、コウモリ、類人猿などで左右の前頭骨が癒合している。しかしゾウやブタ、ウシでも、赤いうちは2つだが成体では1つになる。それも前頭骨のほうから前にむかって骨化が進むので、年齢によっては前頭骨の後半が1つで前半が2つということがある。
ヒトでは子供のうちに1つになるので霊長類時代に獲得した形質と考えられ、大人で前頭縫合がみられるのは胎生期のなごりということになる。