じじぃの「歴史・思想_580_トッド・第三次世界大戦の始まり・ロシアとは共存関係へ」

地図から消えたポーランド


ポーランド分割」- 共和国ポーランドが消滅するまで

歴ログ -世界史専門ブログ
翌1795年10月、ロシア・オーストリアプロイセンによって残りのポーランド分割に関する合意が成立。国王スタニスワフ・アウグストは退位し、ここにおいて共和国ポーランドは地上から消滅したのでした。
https://reki.hatenablog.com/entry/171102-Partitions-of-Poland

第三次世界大戦はもう始まっている』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 文春新書 2022年発行

2章 「ウクライナ問題」をつくったのはロシアでなくEUだ より

ポーランドの反露姿勢というリスク

だからこそ(ロシアによってウクライナが今後分割される可能性がある)、ポーランド人の懸念が理解できるのです。今日起こっていることは、まさにポーランド人が避けたいと思っていたことだからです。
私は、カチンの森事件[第二次世界大戦中のソ連によるポーランド将校大量殺害事件]のことも、ワルシャワ蜂起[第二次世界大戦末期、ナチスドイツ占領下のポーランドの首都ワルシャワで起こった武装蜂起]の際に、ソ連赤軍が銃を下ろして傍観し、ポーランド人の虐殺を許したことも忘れてはいません。
しかし、スターリンポーランドにとって良いこともしたのです。ポーランドの国境を動かし、地理的にも民俗的にも問題のない境界線を与えたからです。
ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一に向かい始めた1989年以降、ポーランドにとって最も重要な問題は、オーデル川とその支流のナイセ川に引かれたドイツとポーランドの境界線をドイツが疑問視するかどうかでした。しかし、その懸念は杞憂に終わりました。
しかし境界線は、今日、再び動き初めています。ウクライナが破綻しつつあるからです。これはまだ、変化の始まりにすぎないでしょう。ロシアが台頭し、EUがその重要性を失いつつあるからです。
そして何より問題なのは、ポーランドがここで分別ある行動を取る可能性が10分の1以下であることです。ポーランドは、ロシアに対する攻撃的態度に慣れ過ぎていて、そこから脱することができなからです。

反露政策はポーランドにとってマイナスにしかならない

――ポーランドが悪い状況に陥っていることは間違いありません。しかし、あなたとは意見を異にします。ポーランドは、現状のウクライナとの国境線を認め、国境の修正は断念しています。例えば、かつてポーランドの都市だったリヴィウの併合を主張したことはありません。一方、今日、ロシアは、国境の再修正を本格的に目論んでいて、既存の国境線に疑問を呈しています。ここで攻撃的なのは誰なのでしょうか。

別の言い方をしましょう。今日のヨーロッパは、ダイナミックで希望に満ちたいた1990年代のヨーロッパとはまったく別物です。いざとなれば、ヨーロッパは、ポーランドを放置するだけでしょう。ヨーロッパは弱体化しており、偽善に満ちているからです。
それとは対照的に、ロシアの力の回復は、後戻りすることのない長期的な現象です。ですから、ロシアと共存することを学ばなければならないのです。ポーランドの主要な同盟国は重要性を失いつつあるEUではありますが、復活しつつあるロシアと敵対する政策は、ポーランドにとって望ましいとは思えません。むしろ災難と失望の元となるでしょう。

ロシアとの共存以外に選択肢はない

――では、どうすればいいのでしょうか。西欧とポーランド人が恨みと負の感情に因われている一方で、ロシア人は節度と常識を保っているとあなたは言いますが、実際には、今日のロシア人こそ、失った誇りを取り戻すという原動力に突き動かされているのではないですか。彼らをどう満足させればよいのでしょうか。

ロシア人はナショナリストです。ナショナリズム自体は、愚かなものです。しかし、この20年もの間、ロシア人は、ひどい仕打ちを受けてきました。彼らが今すぐ暴れたいとなっても驚くにはあたりません。

それに、いかなる大国も、我慢がきかないものです。「とても感じのよい大国」などを存在しないのです。ですから、均衡点を見つけて、大国と平和に共存することを学ばなければなりません。ポーランドに他の選択肢はないのです。

プーチンが言うところの「新ロシア」をモスクワが取り戻そうとしている。とあなたは疑うかもしれませんが、「ポーランドは西欧の一部である」と、ロシアはすでに受け入れていると思います。
最後にもう一度、繰り返します。ロシアが力を回復したというのは明白な事実です。と言っても、これは、かつてのロシア帝国への回帰やそれに類した動きではありません。現在、地政学的なバランスが揺れ動き始めたのは、ただただロシアが健全な状態に戻りつつあるからに他なりません。一方、我々ヨーロッパ人は、病める大国の世界に生きています。
20世紀の災厄を招いたのは、人口動態です。フランス、ドイツ、ロシアは、異常なスピードで発展し、勢力拡張のために新たな領土を求めました。しかし今日では、三国のいずれも、多かれ少なかれ、人口減少という危機をを経験しています。とくにロシアにとっては、領土を拡大しても意味がありません。現在のロシアの領土は、その人口に対してすでに大きすぎるからです。
我々は、大いなる災厄に向かって進んでいますが、人口減少という危機には、ポジティブな面もあります。人口増大の局面よりも、共存することがより容易だからです。