じじぃの「科学・地球_395_人類の起源・ホモ属の誕生」

The complex evolution of homo sapiens - 1,000,000 to 30,000 years ago

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=iM6LSUpanmg

The complex evolution of homo sapiens

『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』

篠田謙一/著 中公新書 2022年発行

第1章 人類の登場――ホモ・サピエンス前史 より

人類の起源をあらわす年代

私たち現代人の学名ホモ・サピエンス(Homo sapiens)は「賢い人」という意味です。次に、人類進化の時間について説明しておきましょう。人類進化に関する書籍は数多く出版されていますが、その中で使われる人類の起源を示す年代については、いくつかの異なるものが提示されています。少々混乱を招きそうな話なので、ここでまとめて説明しておくことにします。
人類の起源を700万年前とする考え方があります。これは私たちにもっとも近縁な現生の生物であるチンパンジーの祖先と、人類の祖先が分かれた年代が、化石やDNAの証拠によっておよそ700万年前であると考えられていることを根拠にした数字です。少なくとも、現在生きている生物を見渡すかぎり、今の人類へと続く進化の道は700万年間にわたって独立しています。
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最古のホモ・サピエンスが登場したのは、発見されている化石から、今のところ30万~20万年前のアフリカとされています。人類の起源を20万年前としている書籍もありますが、この場合は人類=ホモ・サピエンスと考えて、この時代を人類誕生の時期としていることになります。このようにどの時期をもって人類が誕生したと考えるかは、それぞれに違うので、読み手の側にも注意が必要です。

世界的なベストセラーとなったユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』では、人類といったときにはホモ属を指し、サピエンスを現生人類と定義するという使い分けをしています。全史というタイトルは、内容を読めば明らかなように、現在をもってホモ・サピエンスの時代は終わるということを前提としており、近い将来、私たちはより進化した新たな人類となる、ということを意識しているためなのでしょう。

歴史家らしい視点だと思います。
一般には、人類といえば自分たちのこと、つまりホモ・サピエンスを指します。ただ、人類誕生までの歴史を見ると、これまで地球にはさまざまな人類がいましたし、生物の進化のセオリーから考えれば、さらに別の種に変化していくことは間違いないでしょう。現在、世界にはホモ・サピエンスという1属1種の人類だけが生存しているわけですが、数万年前までは同時に何種類もの人類が地球上に暮らしていました。本書でいう「人類」は、多様な動物の総称だということを意識しておいてください。

ホモ属の誕生と進化

ホモ属は私たちサピエンス種が属するグループになります。一般に人類として括られるグループです。今のところ、「完全な」直立二足歩行を初めて獲得した種が最初のホモ属なのだと考えられています。ただ、私たちが他の動物と人類を区別するときに用いる特徴の多く、たとえば複雑な思考や行動、社会構造、あるいはそれを可能にする言語などは、化石の証拠としては残りません。そのため、ホモ属を定義するために、かつての研究者は、どうしたら化石から人類と認めることができるのか、というところから考える必要がありました。
道具を使うということがヒトの特徴であると考えられていたこともありました。今では動物でも道具を使うどころかつくるものまでいることがわかっていますので、この基準は正式には役に立ちませんが、物的証拠の乏しい化石人類の研究で一定の目安とはなるでしょう。その場合、石器をともなうことがヒトかどうかの判断基準になります。ケニア北部では330万年前の大きな剥片石器が見つかっています。そこから、300万~200万年前に生きたアウストラロピテクス属のいずれかの種の中に、私たちのグループであるホモ属に進化するものがいたと推測することができます。
でも結局のところ、いつヒトになったのかという問題は、化石の形態的特徴から判断せざるを得ません。私たちと他の動物を分けるのは、大きな脳と、おそらくそれに裏打ちされた高い知能だと考えたくなります。そのような前提に立つと、人類の進化は脳容積の増大から始まったということになります。

ホモ・エレクトス

およそ190万~150万年前まで時間を進めると、体型や大きさが私たちに近い化石が、アフリカや西アジア、中国やインドネシアのジャワ島などから発見されるようになります。いわゆる原人と呼ばれるグループです。それぞれを別種と考える研究者もいますが、一般にはこれらを総称してホモ・エレクトスと呼んでいます。北京原人ジャワ原人もこのグループに入ります。化石の出土状況から、彼らは200万年ほど前にアフリカで誕生して、ほどなくして世界に拡散したことがわかっています。ホモ・エレクトスは、最初に出アフリカを成し遂げた人類です。
ジャワ島などでは約20万年前の化石も発見されていますから、ホモ・エレクトスは種として180万年ほども生存していたことになります。ホモ・サピエンスの歴史が20万年程度であることを考えると、彼らのほうがはるかに長く生存していたことになります。

ホモ・ナレディ

2015年には、南アフリカヨハネスブルク近郊のライジングスター洞窟から、ホモ・ナレディと呼ばれる一群の化石が発見されています。約30万年前のものされ、成人身長146センチメートル、体重は39~55キログラム、脳容積は460~610ミリリットルで、アウストラロピテクスホモ・エレクトスの特徴をあわせ持っています。生存した時代も人類進化のタイムスケールではかなり新しいことから、その系統的な位置づけについての議論が続けられています。
100万年よりも新しい時代には、世界の各地にはエレクトスやフロレシエンシス、ナレディの他にもさまざまな人類が生存していました。南ヨーロッパでは、85万年ほど前のものとされるホモ・アンテセソールの化石がスペインで見つかっていますが、その後出現する人類との系統関係はわかっていません。60万~30万年前にはホモ・ハイデルベルゲンシスがユーラシア大陸とアフリカの広い地域に分布していたと考えられています。彼らは大柄な体格をしており、推定身長は180センチメートル程度、体重も70キログラム以上あったと推定されています。脳容積は800~1300ミリリットル程度あり、ホモ・ナレディに含める場合もありますが、脳容積が増加していることから別種と考えて、旧人との移行段階の種と捉える考え方もあります。