SYMBIOTIC EARTH Trailer
Lynn Margulis
3 years without Lynn Margulis
22 nov 2014 lesmaterialistes.com
As Margulis noted:
“Even cosmopolitan thinkers who reject tribalism do not necessarily extend their view to a condemnation of anthropocentrism Most still believe that we humans are the highest of all the animal species. Even more people think that we are not animals at all.
Just as the Bible regards Jews as the chosen people the idea that people are superior to all other life forms is still taken as self-evident. Such traditional human ideas contrast with a Gaian perception of people inextricably, subordinately, linked to the supportive rest of the Earth’s biota.
Despite our self-focus on them, humans are objectively only a fractional and dispensable entity within an immensely complex system of plant, animal and microbial life. This Gaian system was here before we, courtesy of evolution, arrived; and it will be here after we (and our increasingly unrecognizable descendants) are gone.”
(Speech at the university of Barcelona, 2007)
https://lesmaterialistes.com/english/years-without-lynn-margulis
魔術師と予言者―2050年の世界像をめぐる科学者たちの闘い 紀伊國屋書店
チャールズ・C・マン(著)、布施由紀子(訳)
現代の環境保護運動の礎となる理念を構築した生態学者ウィリアム・ヴォート=予言者派と、品種改良による穀物の大幅増産で「緑の革命」を成功させ、ノーベル平和賞を受賞した農学者ノーマン・ボーローグ=魔術師派の対立する構図を軸に、前作『1491』『1493』が全米ベストセラーとなった敏腕ジャーナリストが、厖大な資料と取材をもとに人類に迫りくる危機を描き出した、重厚なノンフィクション。
《人類の未来を考えるための必読書》
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『魔術師と予言者――2050年の世界像をめぐる科学者たちの闘い』
チャールズ・C・マン/著、布施由紀子/訳 紀伊國屋書店 2022年発行
第1章 種の状態 より
特別な人々
チャピンゴとメキシコシティは、スペインに征服される以前は、差し渡し50キロメートル以上の湖の対岸に位置していた。湖にはたくさんの魚が生息し、岸辺に豊かな村が栄えていた。この大きな湖の周辺には、チナンパと呼ばれる小さな人工島が何百も作られていた。チナンパは、湖底の泥を積み上げて築かれ、畑地として利用された。年に何度も作物が収穫できる、世界で最も生産性の高い農地だった。だがいまはもう残っていない。何世代にもわたって、不適切な管理が続けられた結果、湖は干拓され、チナンパは一掃されて、肥えた土は、ひび割れて命を育まなくなっていた。
ヴォートとボーローグは同じ使命を帯びていた。それは、近代科学の発見を利用して、メキシコが将来、貧困と環境悪化に陥らないようにすることだ。しかし1946年のメキシコではそれはとうてい不可能なことに思われた。実際、ヴォートもボーローグも、日に日に状況が悪化していくのを感じていた。
ほどなくふたりは、メキシコの課題がじつは全人類共通の問題あることに気づく。
世界は1枚の培養皿
ナンセンスだわ! わたしはリン・マーギュリスがそう言うのを聞いた。ばかばかしい! いや、もっと辛辣な表現だったかもしれない。
マーギュリスは細胞と微生物を専門とする研究者で、過去半世紀の最も重要な生物学者のひとりとされている。彼女は「生命の木」(生物系統樹)を文字どおり、整理し直すことに力を尽くし、他の研究者たちに、この木はふたつの界(植物と動物)から成るのではなく、5つか6つの界(植物、動物、菌[真菌]、原生生物、それに2種の細菌(バクテリア)))に分類されていることを納得させた。マーギュリスは2011年に亡くなるまで、わたしと同じ町に暮らしていて、ときどき、通りでばったり顔を合わせたものだ。彼女はわたしが環境問題に関心を持っていることを知っていて、ねえチャールズ、あなた、まだ絶滅危惧種を守ることを考えてるの、とわたしをからかっては楽しんだ。
マーギュリスは決して、思慮のない破壊を擁護していたわけではない。それでも環境保全論者が鳥類、哺乳類、植物にばかり目を向けているのを見ると、進化の創造性を生み出すうえで最も大きく貢献してきたのは、バクテリア、菌、原生生物のミクロの世界なのに、あの人たちはそんなことも知らない、と思わずにいられなかった。地球上の生物の90パーセント以上は微生物から成り立っているのよ、わたしたちの体内で、ヒトの細胞と同じくらいの数のバクテリアが生きているんですからね、とことあるごとに言いたがった。
バクテリアと原生生物は、われわれのような不器用な哺乳類にはとうてい考えられないようなことができる。超巨大な集団(コロニー)を形成し、無性生殖でも遺伝子の交換によっても増殖できるばかりか、まったく縁のない種から遺伝子を獲得し、融合して共生体になることも可能だ。数えあげていけばきりがなく、ただただ驚くばかりだ。微生物は地球の表面を変えた。岩石を崩壊させ、わたしたちが呼吸する酸素の量を増やした。この力と多様性に比べれば、パンダやホッキョクグマなどはおまけみたいなもので、おもしろかったり楽しかったりするのだろうけど、ほんとうはさほど重要ではない、とマーギュリスはよく言っていた。
わたしは、メキシコで接点を持ったふたりの男について、自分がどんなイメージを持っているか、マーギュリスに話したことはなかった。しかし、彼女がどう思ったかは、かなり確信を持って想像できる。一度、マーギュリスからこんな話を聞いたことがある。ホモ・サピエンスはひとつの種として、異例の成功を遂げた。だが成功した種はどれも、自滅する運命にある――生物学ではそういうことになっている。マーギュリスは「自滅」と言ったが、それは必ずしも絶滅を意味しない。ただ、広い範囲で何か悪いことが起こり、人類の営みがことごとく損なわれてしまうことを指す。ボーローグとヴォートは、そのような自滅を止めたかったのだろうが、マーギュリスなら、その考えは甘いと言っただろう。環境保全もテクノロジーも、生物学的な現実を変えることはできないのよ、と。
マーギュリスがこうした考えをわたしに話してくれたのは、彼女にとって科学界のヒーローである旧ソ連のロシア人微生物学者、ゲオルギー・ガウゼ(同じ資源を利用する2種類のゾウリムシを用いた実験から、同じニッチにある複数種は、安定的に共存できないと提唱した)について語っていたときだ。1910年生まれのガウゼは天才だった。
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「自然淘汰の本質は、生存格差にあるのです」と、マーギュリスは説明した。プロテウス・ブルガリスは、人間の体内では、その生息地(人間の腸の一部)の大きさ、栄養の限界(植物のタンパク質)やほかの競合する微生物によって妨害される。こうして制限を受けるため、個体数はほぼ変わることなく一定数が保たれいるのだ。
しかし培養皿の中では事情がちがう。プロテウス・ブルガリスの立場からすると、培養皿は最初は無限の世界に見える。養分の海が果てしなく広がり、水平線には嵐の影もない。生存競争もない。彼らは食べては分裂し、食べては分裂していく。寒天培地の中を突き進み、最初の変曲点を越えると、S字曲線の左側を急上昇していく。しかしやがて二番目の変曲点にぶつかるときがやってくる。培養皿のへりだ。餌を食べ尽くしてしまうと、プロテウス・ブルガリスは小さな破局を迎えるのである。
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人間もなんら変わらない、とマーギュリスは考えていた。進化論は、ホモ・サピエンスも多くの生物のひとつにすぎず、根本的にはプロテウス・ブルガリスと変わらないことを示唆している。わたしたちも彼らと同じ力に支配され、同じ過程を経てこの世に生を享(う)け、同じ運命をたどる。ボーローグとヴォートが荒廃した土地に立ってメキシコシティを見ていたとき、彼らは培養皿のへりにいたのだ。魔術師であるか予言者であるかは問題ではなかった。マーギュリスの目には、ホモ・サピエンスなど、ごく短期の成功を見た種のひとつにすぎなかったのだから。
訳者あとがき より
国連の推計によれば、世界の人口は2050年には100億人近くにまで増加する見込みだという。それだけの人々をどうやって養っていけばいいのか。地球環境の崩壊を招くことなく、われわれ人類が生き延びる道はどこにあるのだろう。
本書『魔術師と予言者』の著者チャールズ・C・マンのみるところ、この問いに対する科学者の見解は、おおむね二派に分かれるようだ。ひとつは環境の限界を受け入れ、その範囲内で生きるべきだとするもの、もうひとつはこれとは対照的に、そのような限界を科学技術によって乗り越えていくべきだとするもの。それぞれの立場を象徴する存在として、著者は本書で米国のふたりの科学者を取りあげた。
前者を代表するのは、1948年に世界的ベストセラーとなった『生き残る道』を著し、資源の回復と人口抑制を広く訴えた環境保護活動家のウィリアム・ヴォート(1902-1968)、後者の代表は、1960年代に高収量品種の穀物を開発し、世界の食料問題を改善してノーベル平和賞を受賞した農学者のノーマン・ボーローグ(1914-2009)だ。
ふたりとも、現在はその名が忘れられているが、著者は彼らを20世紀で最も重要な環境問題の専門家と位置づける。そして、資源の枯渇を予測して警鐘を鳴らしたヴォートを「予言者」と呼び、創意工夫という魔法を使って問題解決をめざしたボーローグを「魔術師」と名づけたのだ。
本書ではわたしたち人類が直面する環境上の難問を、土(農業/食料生産)、水(飲料水)、火(エネルギー供給)、空気(気候変動)の4つの領域に分けて提示し、予言者派と魔術師派、それぞれの立場の科学者たちがこれまでどのように問題に向き合い、解決をめざしてきたか、そしていま、未来の選択肢をどう考えているかを世界規模でみていく。