じじぃの「トラウマを耕す・マンガによる的確な描写・創造性につなぐ!『イマジン』」

要注意な子供向けトラウマアニメ5選

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=wKtSuSwchTw


イマジン・ノート (集英社文庫)

槇村さとる(著)
●著者プロフィール
1990年代には『ヤングユー』(集英社)など、大人の女性向け漫画誌に活動の舞台を移す。他に代表作として、テレビドラマ化された『イマジン』『おいしい関係』『Real Clothes』など。
父親から受けた虐待のトラウマを35歳で克服し、その経験を綴った自伝的エッセイ『イマジンノート』を2002年に出版。選択的夫婦別姓制度導入がなされないため、42歳で性人類学者のキム・ミョンガンと事実婚愛知淑徳大学にて非常勤講師として年1回教鞭をとっている。

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『トラウマ』

宮地尚子/著 岩波新書 2013年発行

第6章 トラウマを耕す より

耕すということ

私は時々「トラウマを耕す」ということを考えます。トラウマというと、どうしても暗く重い話題が多くなり、眉間にしわを寄せて考えなければいけない気持ちになりがちです。けれども、もっと肩の力を抜いて、ゆったりと向きあってもいいと思うのです。精神科医で、長い間、統合失調症の患者さんたちと関わってきた星野宏氏は、「耕す」という言葉を用いて臨床現場での営みを豊かに工夫する術をさぐっています(星野宏『分裂症を耕す』『精神病を耕す』)。耕す(cultivate)は文化(culture)の語源でもあります。
トラウマも「耕す」ことによって、豊かになっていくのではないでしょうか。

映画での追体験

『トラウマ映画の心理学』を著した臨床心理学者の森茂起氏は、映画は、トラウマを描くために特別に優れた表現媒体だといいます。確かに言葉で説明しにくいさまざまな反応や症状が、映画の中では鮮明に描かれています。
映画を観ることで追体験ができるからです。映像の中の登場人物に感情移入して、さまざまな感覚や感情の疑似体験をすることが可能になります。

マンガの創造性

日本のマンガについても少し触れておきたいと思います。

とくに少女マンガ(少年マンガはあまり知らないので)の質の高さは特記すべきものがあり、トラウマやその回復についても、専門書よりよほど的確に描写されている作品が多いように思います。

萩尾望都吉田秋生こうの史代よしながふみなど、名前を挙げればきりがありませんが、トラウマを病理化せず、創造性につなげる形で、読み手を(時には作り手である自分自身をも)回復や希望に導く空間がそこにはしっかりと確保されています。これには、20世紀後半、女性の社会進出がまだ限られていた時代に、才能を発揮できる数少ない場として少女マンガ界が存在していたという背景が大きいと思います。しかも若い書き手が、ほぼ同世代か少し下の女性たちに向けて作品を描き、それがビジネスとして成り立つというしくみができていたわけです。
マンガは、かなり「個人芸」が可能であることも大きいと思います。トラウマを抱えた人は、人間関係にストレスを感じやすく、また症状や体調などが不安定になりがちなので、組織の一員として働くのが困難な人も少なくありません。孤独感や、自分の能力や売り上げ、読者の人気投票などに左右されるといった別のストレスはありますが、独特の経験や感性を作品に生かすことができます。
槇村さとる氏は『イマジン』その他、多くの名作を生み出しています。エッセイ集『イマジン・ノート』では、父親からの性的虐待を思い出し、その記憶と格闘する中で作品を生み出していった経過を記しています。トラウマからいかに創造的な仕事が生まれるのか、そして創造することによって、いかにトラウマの先を生きていけるのかを示しています。