じじぃの「科学・地球_353_健康の世界ハンドブック・乳がん・肺がん」

Breast Cancer Statistics

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=PJK7r1v8t-k

がんに罹患している人が何%いるかを示したものです


さまざまなグラフから見えてくる「世界のがんの傾向」とは?

2018年09月06日 GIGAZINE
以下の図(画像参照)は、各国の人口に対して、がんに罹患している人が何%いるかを示したものです。白に近ければがんに侵されている人の割合が低く、逆に紅色に近づくほど割合が高く、もっとも濃い紅色で1.75%以上の罹患率を示しています。図を見ると、所得の高い国になるほど、がんに罹患する人の割合が高くなっていることがわかります。
https://gigazine.net/news/20180906-cancer-in-the-world/

『地図とデータで見る健康の世界ハンドブック』

ジェラール・サレム、フロランス・フルネ/著、太田佐絵子/訳 原書房 2022年発行

世界へのアプローチ より

健康のアトラスが、グローバルなアプローチなしですますわけにはいかないだろう。データがかならずしも比較可能なものではなく、国内の格差が国内平均値を無意味なものにしているとしてもである。本書のタイトルは、世界の健康をめぐる状況の一致点と不一致点を示というす意図を示している。平均余命、栄養状態、慢性病、医療の提供、母体の健康など、ほとんどすべてに関連性があること、そして健康とその決定要因への包括的なアプローチが必要であることはいうまでもない。
とはいえ本書では指標ごとに作業を進めて現状を示し、健康のダイナミズムを理解すること、すべての政策で健康を考慮に入れること、最重要課題の定義のむずかしさ、医療制度の持続性などの重要な問題を紹介している。
そして、特定の集団、疾患グループ、ニーズへの対応という観点から、現在のおもな健康問題に関連する指標を順次とりあげていく。

がん、世界的な問題

がんには、発生源の異なる多種多様ながんがある。現代の病気のように見えるが、すでにヒッポクラテスががんについて記述し、「カルキノーマ」[蟹を意味する「カルキノス」という言葉ももちられている]と名づけている。それがのちにカルシノーマ(がん腫)となった。がんは死と同義とされることもまだ多いが、しだいに治る病気となっている。診断能力や記憶のしかたが国によって異なるため、世界全体での評価は困難である。

がんは世界で2番目の死因であり、2018年には960万人が死亡し(男性の死因の12.5パーセント、女性の死因の9パーセント)、低・中所得国では死因の3分の2以上を占めている。肺がん、結腸直腸がん、女性の乳がんの患者がもっとも多く(毎年200万人の新規患者)、なかでも肺がんはもっとも死亡者数が多いがんである。2018年の世界の新規がん患者数は1800万人強とみられ、男性の20パーセント、女性の17パーセントが生涯でがんを発症する。がんの15パーセントは感染が原因で発症するが、子宮頸がんもそうであり、貧困国では女性のおもな死因となっている。
よく知られた行動上の危険因子(過体重と肥満、不適切なダイエット、過度のアルコール摂取)にくわえて、不健康な環境(汚染、電離放射線、クロルデコン[殺虫剤として製造された有機塩素化合物]など)、職業上の危険因子(農薬、アスベスト、おがくず、ヘアケア製品など)、予防、治療ケアへのアクセスの悪さなどがある。こうした危険因子の空間的組みあわせによって、がんの地理学が説明できる。しかし、「がんのエピデミック」として論じている多くの文書は、いくつかの重要な要因を考慮に入れていない。
・医療制度による診断能力のばらつきや、情報システムによる記録のばらつきがある。
・死因の「競合関係」。フランスで安全対策のおかげで交通事故死しなかった人はすべて、がんの候補者である。逆に、アフリカでケアを受けられずに高血圧で死んだ若い成人は、がんを発症することはない。
・人口の高齢化にともなって、全体の死亡率に占めるがん死亡の割合が増加しているが、年齢調整死亡率は低下している。

乳がんと肺がん、ふたつの事例

女性の乳がんの例はさらに興味深い。いくつかの行動的、環境的要因は特定できるが、それだけでは理解できないことがあるからだ。
乳がんの年齢調整有病率の地図は、およそ1対4の差を示しているのである。このがんは、都市化が進んだ富裕国の女性が多くかかり、どの地域にあるかにかかわらず貧困国では有病率が低い。
中心にあるのは、予防(検診、治療のための検査など)や治療を受けられるかどうかという問題である。パリ地域で実施されたミクロ地理学的調査で、マンモグラフィ―を受けられるかどうかは、空間的な近さだけでなく、地域の実情に応じた医療サービスが提供されているかどうかかかわっていることを明らかになった。
もうひとつの例は肺がんであり、その第一の要因はタバコである。だがタバコが唯一の要因というわけではない。年齢調整有病率の地図は、およそ1対10の差を示している。
・北アメリカと西ヨーロッパでは有病率が高い。喫煙がとくに女性のあいだで古くからおこなわれている地域であり、また中国もタバコへの依存度が強い。
・ロシア、中央アジアマグレブ、中近東、ラテンアメリカの有病率はやや低い。
・サハラ以南のアフリカは有病率が低い。タバコ産業が商売を広げようとやっきになっているにもかかわらず、喫煙者はまだ少ないからだ。

現段階では、とくにほかの要因について、さらに詳細な分析が必要である。さまざまな研究によると、同じくらいの喫煙量でも、社会的レベル、ほかの発がん性物質への曝露、ケアの質、専門医や治療へのアクセスなどによって、結果に差が出ることが明らかになっている。