じじぃの「科学・地球_347_世界を変えた100のポスター・演劇『ハムレット』」

Shakespeare's Hamlet Part 13: Yorick's Skull

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=VZOe3NLbL0w

『世界を変えた100のポスター 下 1939-2019年』

コリン・ソルター/著、角敦子/訳 原書房 2021年発行

097 演劇『ハムレット』 より

Theatre:Hamlet[2010-2020年]

シェイクスピアの『ハムレット』で、誰もが知っているセリフがふたつある。「生きるか死ぬか」と「ああ、可哀そうなヨリック!」だ。ヨリックとはこの王子の幼少時にいた、宮廷づき道化師だ。そしてほとんどのポスターが着想を得ているのが、この哀れなヨリックの頭蓋骨である。ヨリックの頭蓋骨を見ると、人生は短いが死は無限に続くことを思わずにいられない。

この戯曲は1599年から1601年のあいだに書かれた。悩めるデンマーク人の血なまぐさい話だが、政治の欺瞞、狂気、実存的不満といった一般的テーマにも考察はおよんでいる。苦悩と死は筋書の歯車となる普遍的テーマだ。この物語はハムレットの父の殺害はハムレットの父の殺害に端を発し、主な登場人物がほぼ死に絶えて終幕を迎える。
ハムレットの死者数は幕が閉じた時点で9人だ。シェイクスピアの作品でこれを上まわるのは、『リア王』の10人と『タイタス・アンドロニカス』の14人という驚くべき数だけだ。ヨリックの頭蓋骨は、この劇の最終幕が始まってすぐに、墓掘り人によって掘りだされている。『ハムレット』のポスターをデザインする者にとってはそれが、理想的な視覚比喩となる。それでもこの劇が上演されるたびに制作されるポスターでは、そうした普遍的イメージにもとづいていながら、時代を超越したこの悲劇に新たな視点を見出す試みがなされている。
たとえばオランダの劇団ディーファーは2011年の『ハムレット』公演を、道化師の赤い鼻をつけた頭蓋骨で宣伝することにした。この不釣り合いに滑稽な鼻は人生の愚かさを際立たせている。悲劇の最後に笑うのは決まって死なのだ。
フロリダ・アトランティック大学の演劇学科は、上演する『ハムレット』のために陰鬱な図柄を採用した。頭蓋骨の半分が影で見えなくなっており、「ハムレット」の文字が王冠の一部に組みいれられている。王座を継ぐ者に重点が置かれているのだ。王冠をいただくことは支配であり、支配は決断である。ハムレットはいずれも成し遂げていない。
この戯曲は政治的な策略に満ちており、時代の移り変わりとともに、上演される時代の政治的陰謀を反映した『ハムレット』のバージョンがいくつかできている。2018年、カリフォルニア州のグラウアー・スクールのこの芝居のポスターでは、邪悪そうな頭蓋骨が赤とベージュ、青の色調で着色されている。2008年にシュパード・フェアリーが、バラク・オバマ大統領のために制作したポスターと同じ色調だ。ここで暗示されているのは裏切りと失望だ。死と腐敗、停滞が「希望」の色をまとって偽装している。
ダブリン・シェイクスピア・ソサイエティが2020年に上演予定の『ハムレット』のために採用したおどろおどろしい色彩は、伝統的なB級映画の恩恵を受けている。これはホラーのテレビドラム『悪魔の異形』で宣伝されるようなハムレットだ。
    ・
頭蓋骨は死の否応なしの勝利を表しているが、『ハムレット』の信奉者の中には違った見方をする者もいる。この芝居にかかわった俳優と後援者のあいだには、みずからの頭蓋骨を死んだヨリックとして遺贈するという長い伝統がある。それで死に一杯食わせようとしているのだ。ただ、全ての俳優が推奨するならわしではない。本物の頭蓋骨はどうやらすぐに欠けてしまうらしいのだ。