じじぃの「科学・地球_340_世界を変えた100のポスター・ミュージカル『キャッツ』」

Cats Japanese cast- Gus the theatre cat

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ebv0WrTajcs

CATS Poster

『世界を変えた100のポスター 下 1939-2019年』

コリン・ソルター/著、角敦子/訳 原書房 2021年発行

085 ミュージカル『キャッツ』 より

Theatre:Cat[1981年]

アンドリュー・ロイド・ウェーバーが作曲したミュージカル『キャッツ』。原作はT・S・エリオットのネコの詩集『キャッツ ポッサムおじさんの猫とつき合う法』(筑摩書房、池田正之訳)だ。このミュージカルは制作のほとんどの面で新境地を開いた。見てすぐわかるポスターは、簡潔さの模範でありつづけている。

ロイド・ウェーバーの『キャッツ』はミュージカルとしてありえない想定だったので、プロモーターの多くはかかわろうとしなかった。この作曲家は、費用の59万ポンド近くを自己負担えざるをえなかった。ロイド・ウェーバーはそれ以前のミュージカル、『ジーザス・クライスト・スーパースター』で興業記録を打ちたてていたが、『キャッツ』はその記録を更新しつづけた。
舞台美術は、顧客をネコの世界と豪華な演出に浸らせることを目的としていた。ネコのキャストは顧客のあいだを通って劇場に入る。また演出家のトレヴァー・ナンは、オーケストラを舞台前のオーケストラボックスではなく、舞台奥に配置することにこだわった。顧客と進行するストーリーとのあいだに邪魔を入れたくなかったのだ。このショーではじめて、全出演者がワイヤレスマイクをつけた。また照明の自動化により、技術者はどこの劇場にいてもエフェクトを自在に操れるようになった。舞台の外でも新しい試みとして、グッズ販売が最大限に活用された。
ここにとどまらない新しいアイディアは、現在では予算が潤沢な劇場では標準的に採用されている。『キャッツ』は、世界的なメガミュージカルの流行に弾みをつけたと評価されている。こうした演劇形式では筋書よりもショー的要素が重視され、さまざまな演出家のショーを世界各地で同時に見ることができる。ただし『キャッツ』をどこで上演するにしても条件があった。ロンドンのウェストエンドで初演したときと同じ美術と水準を実現するということだ。そのためどこを見ても、初演の最高の舞台を見ているような気分になる。
均一性への情熱はポスターのデザインにも表れていた。制作を依頼したのはプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュだ。従来の劇場ポスターに載っているのは、好意的な批評の引用やスターの名前、舞台背景や表紙、俳優の絵や写真だった。『キャッツ』ではそうしたものがすべてとり払われて、歌と踊りを詰めた豆の缶が何かのポスターのようになっている。
ポスターを制作した広告代理店のデュウィンターズは、ロンドンのウェストエンドの劇場地区を拠点を拠点にしていた。デザインにあたってはミニマリスト的な手法をとり、シンプルな構成にしている。黒いべた塗りの背景に、それとすぐわかるネコの左右の目だけを描き、ショーのタイトルを下方に配置しているのだ。スターの名前も批評もない。ポスター制作までこのミュージカルの題名は『プラグティカル・キャッツ』だったが、「プラグティカル」があるとポスターからはみ出てしまう。コピーの「Now and Forever」(今から永遠に)は、主にふたつのデザイン要素のバランスをとるために入れられている。このデザインは見た目ほど単純ではない。ネコの目をよく見ると、瞳は実のところ黄色い光の中で踊るダンサーのぼやけたシルエットになっている。それでもはるかに目移りするデザイン要素がないので、メッセージに否応なく導かれているという意味で、驚きべきポスターといえる。メッセージは「キャッツを見て」だ。
この図柄は多様なグッズに使われた。そのほとんどがどう見てもネコではなかった。クッションにコースター、マグカップ、コップ、鉛筆、野球帽、ピンバッジ、冷蔵庫用マグネット、買い物袋、Tシャツ、その全てに『キャッツ』の目があしらわれている。
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黒のコットンに黄色の目という『キャッツ』Tシャツは、そうした80年代に2番目に売れたTシャツだった。それ以上に売れたのは、アメリカのレストランチェーン、ハードロックカフェのTシャツだけだった。さりげなく商品を宣伝するプロダクト・プレースメントとしては、なかなかのものではないか?