The Road to War - JAPAN
Tokyo Kid Say 1943
Tokio Kid Say..., 1943 (colour litho)
Racist image intended for domestic consumption to raise morale. The gargoyle-like character is probably based on Emperor Hideki Tojo.
https://www.bridgemanimages.com/en/campbell/tokio-kid-say-1943-colour-litho/nomedium/asset/704838
『世界を変えた100のポスター 下 1939-2019年』
コリン・ソルター/著、角敦子/訳 原書房 2021年発行
060 「東京キッド曰く……」 より
Tokyo Kid Say...[1943-1945年]
この世界を味方と敵に分ける方法を考えるのは、どうやら人間の本性であるようだ。戦争中には、人種や宗教を理由に敵への憎しみは造作なくかき立てられる。真珠湾攻撃のあと、日本人は「社会の敵ナンバーワン」になった。
1941年12月7日以降、アメリカに居住する日本人および日系アメリカ人は一斉に検挙され、太平洋戦争が終わるまで強制収容所に入れられた。その対象となった者のほとんどが太平洋岸に居住していた。ただし日系アメリカ人が人口の3分の1以上を占めるハワイでは、事情が違った。抑留すれば地元の経済が立ちゆかなくなるというので、抵抗があったのだ。ハワイ島での拘禁者は1500人程度に留まった。
太平洋戦争の勝利の真の敵は、産業に生じる弱みだった。アメリカ経済は戦争遂行を助けるために再編成されたが、生産が非効率的であれば、戦場で戦う米軍兵士の戦争能力が脅かされる。参戦後数ヵ月でアメリカの社員食堂にポスターが貼りだされ、従業員はみずからの労働力も含めて資源を無駄にしてはならない。と戒められた。なぜなら無駄にすると敵が喜ぶからだ。
数多くのポスターキャンペーンの中でも典型的なのが、「東京キッド曰く」と題されたシリーズだ。このポスターはダグラス・エアクラフト社の作業場のあちこちに提示された。同社はカリフォルニア州サンタモニカを拠点とする軍用機材の重要メーカーだった。ポスターには、日本の東条英機首相が登場する。醜くデフォルメしているがそれとわかる漫画的なキャラクターだ。東条は真珠湾攻撃を主唱したとされており、この絵では狂気じみた目に眼鏡をかけた、出っ歯のモンスターとして描かれている。もっている短剣からしたたっているのは、アメリカ人の血だ。このシリーズで東条のキャラクターはブロークン・イングリッシュで、資源を浪費して仕事を怠け、日本の勝利を助けるようアメリカ人をそそのかしている。たとえばリベットを紛失すれば完成する航空機が減り、仕事を数日休んでも同じ結果になる。作業場での事故や道具の破損で生産は遅れるので、東条は「大変喜ばしい。ありがとう」と感謝する。
このキャンペーンの効果は、ダグラス社の戦時の驚異的な生産量で判断できるだろう。
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この「東京キッド曰く」のポスターでは、アメリカの求めていることの正反対を東条にいわせている。このように間接的であるがゆえに、政府の伝えたいことを広めるのに効果を発揮した。利用されたのは、日本人によるいわゆる黄禍が実現するのではないか、というすでにあった疑念だった。1937年に日本が中国を侵略したあと(日中戦争)、蒋介石を支援するアメリカではそうした疑念が広がっていた。この手のキャンペーンのおかげで、工場の生産現場からハリウッドの映画撮影所にいたるまで、あらゆる場所でにわかに愛国主義が強まった。
その結果生じたアメリカ人としての誇りは、太平洋戦争での勝利後も長く保たれ、その先何年もアメリカの対アジア政策に影響をおよぼしつづけたのである。