じじぃの「歴史・思想_575_日本は第2のウクライナとなるのか?シーレーン」

中国海軍のインド洋進出と海上自衛隊シーレーン防衛

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Zm871KzVKQo

オイルショックの現実味

オイルショックの現実味

2015/11/07 東洋経済オンライン
現在、日本が輸入する原油は中東産が9割を占める。
原油タンカーは、ペルシャ湾からホルムズ海峡を抜けマラッカ海峡を通過。南シナ海を抜けた後、日本に輸送される。
喫水制限のないロンボク海峡を平時から経由している一部の超大型タンカーを除き、日本の原油輸入の約8割がこのマラッカ海峡シーレーン海上交通路)を通っている。
https://toyokeizai.net/articles/-/559299

日本は第2のウクライナとなるのか!? コロナとウクライナが世界とあなたの生活を一変させる

著者 浅井 隆 (著),織田 邦男 (著),川上 明 (著),関 和馬 (著)
ロシアがウクライナに侵攻した。
この先、極東有事はありうるのか? 元自衛隊空将の現場の経験、アナリストのチャートが示す真実などを元にウクライナ危機に迫り、国防に対する意識を高めるための情報や考え方を伝える。

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『日本は第2のウクライナとなるのか!?』

浅井隆/著 第二海援隊 2022年発行

プロローグ より

対岸の火事ではすまされないウクライナ情勢

2022年2月、信じられないことが起きた。あのプーチン率いるロシア軍が、ウクライナに侵攻したのだ。市街地への攻撃で多くの国民が犠牲となり、また人々が着の身着のままで逃げ惑う様子は、テレビやインターネットで放送され、世界中を震撼させた。
ウクライナ軍、およびウクライナ国民からなる義勇軍は必死の抵抗を行なっているが、圧倒的な力を持つロシア軍はウクライナ全土で戦闘を展開し、人々を蹂躙(じゅうりん)し続けている。
プーチンがこの侵攻の最終目標を何に定め、そしてこの本が出る頃にどこまでの事態に発展しているのか、まったく想像も付かない。しかし私は、この遠く8000キロも離れた異国の有事を「まったくの他人事」どころか、「明日は我が身」という重大な危機感をもって捉えている。
まず私の頭によぎったのは、ウクライナ危機は「10年後の日本」の姿になり得るということだ。ある安全保障の専門家は、日本はウクライナよりも危険であると指摘する。ウクライナの場合、脅威となる隣接国はロシア一国であるが、日本の場合は中国、北朝鮮、ロシアの三国が隣接しているためだ。いずれも超独裁国家で核保有国だ。隣国にこれほどのリスクを抱える先進国は、実は日本だけなのだ。

第2章 人類は激動の時代に突入した――新たな状況に直面する世界経済 より

台湾有事でシーレーンに極大リスク

「中国政府が台湾への圧力を強める中で、海外勢が台湾株を売り込み、台湾ドルも下落している。海外投資家による台湾株売り越しは2022年3月7、8両日だけで計約46億ドル(約5330億円)に達した。特に7日は一営業日としては記録上で2番目に大きな売り越しとなった。(中略)ロシアのウクライナ侵攻で投資家は台湾に対する中国の軍事行動リスクを注視するようになっており、欧州での戦争が台湾の金融資産に飛び火した形だ」(2022年3月9日付ブルームバーグ)。
ウクライナの次は台湾か――。そんな憶測が囁かれている。
台湾有事はかねてから懸念されていたが、ウクライナ危機が実際に起きた今ほど現実味を帯びたことはない。台湾有事を巡り、中国がウクライナ危機からどのような教訓を得ているかは議論が割れている。ロシア軍のウクライナ侵攻が思った以上に停滞していることや西側の結束を招いている点から、中国は台湾侵攻をためらうのではないかとの見方もあるが、その逆(すなわち、西側が直接的にウクライナを軍事支援していないことや経済制裁にも耐えられると中国は考えている)との見方もあり、はっきりしない。しかし近い将来に中国が台湾を侵攻する可能性は、ゼロではないだろう。
実際、ロシアのウクライナ攻撃が始まった2022年2月24日、世界のファンドは台湾株、19億1000ドル(約2292億円)相当を売却した。一営業日としては、1年で最大の引き揚げ額である。これは、投資家が台湾のリスクを嗅ぎ取っている証拠だ。
私は、毎日新聞社でカメラマンをしていた頃から世界情勢と軍事に関心を持ち続けて来たが、あくまでも在野であり台湾有事が起こる可能性やそのシナリオについては専門家の方々の分析にお任せしたい。しかし、在野の私でも台湾有事についてハッキリと断言できることが1つある。それは、仮に台湾有事が起これば、日本のエネルギー安全保障にとてつもない影響をおよぼすということだ。まさに、「油断」(日本への原油輸送が途絶える)のシナリオが現実化することが考えられる。想像をはるかに超えた、”エネルギー危機”だ。
私たち日本人は、敗戦以降80年間ある意味で”太平の世”を謳歌してきたと言える。戦争(紛争)と言えば、もっぱら海外のことでありニュースでしか見る機会がなかった。戦後80年間、先の冷戦も含めて日本が当事者になった例はない。そのため、多くの日本人は安全保障の問題をどこか他人事のように考えている。「有事の際は米軍が守ってくれる」とか、「憲法九条があれば戦争に巻き込まれることはない」と信じている人も多い。
今回のウクライナ危機に関してもそうだ。多くの日本人が、どこまで当事者意識を持ってウクライナ危機を見ているかは心許ない。まさに平和ボケの極みとも答える。そのため、有事に関する想像力が大きく欠落している人が多く、たとえば台湾有事にしても外国のことだから関係ないと思っている人も、それなりにいるはずだ。
しかし、それは通用しない。なぜなら、私たちの生活に直結するエネルギー安全保障において重大な問題が生じるからである。エネルギー資源に恵まれていない日本は、諸外国に比べても鉱物性燃料の輸入が圧倒的に多い。
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貿易赤字は慢性化して来ているが、それでも全体の収支(経常収支)は黒字になることがほとんどであった。経常収支は、海外とのものやサービスの取引、投資などの収益状況を示す。経常収支のうち貿易収支が赤字でも「第一次所得収支」(海外子会社からの配当、証券投資の利子収入)の黒字がそれをカバーする形で経常収支が維持されてきた。
しかし、2021年末からは様相が異なる。同年12月に続き、2022年1月と2ヵ月連続で経常赤字が記録されたのだ。財務省によると、2022年1月期の経常収支は速報値で1兆1887億円の赤字であったが、赤字額としては2014年1月の1兆4561億円に次ぐ過去2番目の水準となっている。過去、日本の経常収支は赤字に転落しても、あくまで単月程度の短い期間だった。ところが今年は、半年単位あるいは通年で赤字になる恐れもある。
経常赤字は、需給面から円安を想起させやすいため、もし第三次オイルショックや台湾有事が現実のものとなれば、思わぬ円安ショックに見舞われる可能性が高い。短中期的な上値の目処としては、2015年6月に付けた高値125.86円だ。
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また、東短リサーチ取締役チーフエコノミストである加藤出氏は次のように警鐘を鳴らした――「ウクライナ問題が長引き、資源。穀物価格の高騰が継続すると、2022年1月のように日本の経常収支の赤字が頻発する恐れがある。膨大な国際発行額を抱える国が経常赤字で、しかも中央銀行国債発行金利を押えるために利上げをしたがらないなると、『悪い円安』を市場に仕掛けられやすくなってくる」(2022年3月15日付ダイヤモンド・オンライン)
日本のエネルギー輸入の約9割は中東からのもので、ロシアは1割にも満たない。それゆえ、ロシア産の原油を禁輸しても致命傷は負わないとも考えられる(もちろん、エネルギー価格の高騰それ自体は大問題だ)。しかし、台湾有事となれば話は別だ。日本の輸入エネルギーの、およそ9割が南シナ海を通って日本に運び込まれるためである。それゆえ、台湾有事の際は原油価格の高騰だけではすまず、一時的には原油(現物)そのものが途絶える恐れも大いにある。そうなったら、大パニックだ。
そこで、日本のシーレーン海上交通網)を確認しておきたい。現在、日本は年間2億バレルの原油を輸入しており、1日あたりの消費量はアメリカ、中国に次ぐ第3位となっている。これは、タンカー約2ー2.5隻分に相当する。すなわち、毎日タンカー2.5隻が日本にやって来なければ私たちの社会生活は安定を維持できない。特に、東日本大震災以降は天然ガスの輸入も増えているため、シーレーンの重要度が増している。
日本の原油輸入は9割弱を中東に頼っており、マラッカ海峡そして台湾tフィリピンの面にあるバシー海峡を通るのが最短だ。これを「マラッカ・シンガポール海峡ルート」と言う。台湾有事が起こればこのルートはもはや使えない。次にインド洋からインドネシア、フィリピン南部を通る「ロンボク・マカッサル海峡ルート」がある。コのルートは直接的に台湾と関わっていないが、南シナ海戒厳令が敷かれれば通行ができなくなるかもしれない。もしそこも使えなくなれば、オーストラリアの南海岸を回って北上する「バス海峡・南太平洋ルート」を通る必要が出て来る。
こうした迂回ルートの存在は確かに安心材料だが、航行日数や運賃が大幅に増えるばかりか、紛争によって船舶などの保険料も劇的に高騰する可能性が高い。私は、ガソリンに掛けられる暫定税率の25.1円(1リットルあたり)を除いたとしても、レギュラーガソリンの全国平均小売価格が250ー350円くらいまで暴騰してもおかしくないと見ている。その頃には、ドル/円レートの1ドル=140ー160円のレンジに突入するだろう。
軍事社会学者の北村淳氏が中心となって書かれ、宝島社から2021年10月に発刊された『2023年 台湾封鎖』の帯には、「日本経済の損失は100兆円を超える」と記されているが、こうした予想は決して絵空事とは言えないはずだ。台湾有事が大地震など巨大災害級の損失をもたらすことは、十二分に考えられる。
私たちは、有事そのもののリスクの他にも、エネルギー安全保障をいかに守り抜くかに関しても真剣に策を練らなければならない。