じじぃの「科学・地球_324_新しい世界の資源地図・エピローグ・水素社会」

"Hydrogen Society: Using hydrogen as a fuel" by Shota HIZUME

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JRVlcJe86Kg

Hydrogen Society

Creating a “Hydrogen Society” to Protect the Global Environment

2007 JapanGov
The 2015 Paris Agreement was a historical pact in terms of promoting the creation of a carbon-neutral society.
Efforts had been underway to lower carbon output, but this agreement set a goal of reaching net-zero emissions of greenhouse gases in the second half of the current century, thus achieving a carbon-neutral world.
https://www.japan.go.jp/tomodachi/2017/spring-summer2017/creating_a_hydrogen_society.html

新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突

ヤーギン,ダニエル【著】〈Yergin Daniel〉/黒輪 篤嗣【訳】
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書。
目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図

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『新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突』

ダニエル・ヤーギン/著、黒輪篤嗣/訳 東洋経済新報社 2022年発行

エピローグ――実質ゼロ より

二酸化炭素の)実質ゼロが新たな刺激(と切迫感)をもたらしたことで、さまざまなテクノロジーの最前線でイノベーションが活発化している。その分野はとても幅広いが、少なくとも今の段階では、実質ゼロへ向けた動きの中でひときわ目立つのは、次の3分野だ。
第1には、炭素回収。第44章で論じたとおり、カーボンニュートラルには気候変動に関する政府間パネルIPCC)が言うように「ネガティブ・エミッション」、つまり「二酸化炭素の除去」が必要なことは、広く認識されている。それを抜きにしては、今後数十年の需要の予測は意味をなさない。すべての現実的なシナリオで、今後30年間、石油と天然ガスが電源構成の中で重要な位置を占めると言われる。10億台のガソリン車は2050年になっても、まだ道路を走っている公算が高い。10億台でなければ、7億5000万台は走っている。世界は相変わらず、鉄鋼や、セメントや、肥料といった二酸化炭素を排出する製品を使っているだろう。
炭素を除去する方法の1つには、自然界の炭素収支に組み込まれている「世界の肺」を、本書で前に論じた「自然を基盤とした解決策」を使って増強するという方法がある。多くの人にとって、その「解決策」として1番身近なのは、植樹だ。そのほかには「炭素の回収・貯留」(CCS)と呼ばれるエンジニアリングを用いた方法がある。CSSは工業施設から排出された二酸化炭素を集めて、地中の隔離された場所に封じ込める技術だ。テキサス州では。大気中から直接二酸化炭素を回収できる、いわゆる「直接空気回収」(DAC)の施設が建設されようとしている。また、回収した二酸化炭素を「利用」する取り組みも続けられており、その1例としては、セメントの製造への利用が挙げられる。

第2には、水素。今、最も注目を浴びる分野だ。水素は1番軽い元素であるだけでなく、宇宙でもっともありふれた元素だが、エネルギー源としては、第44章で紹介したように一時期、誇大に騒がれたあと、長らく脇に追いやられていた。それが変わった、今やエネルギー転換の新しいスターだ。少なくとも、スターになる可能背を秘めた存在だ。
これまで工業用途の水素の市場は、重要でも限られたものだった。水素のエネルギー密度は一般的な燃料の中で最も高い。水素(摂氏マイナス253度で圧縮された液体水素)が宇宙ロケットの燃料に使われているのもそのためだ。しかし、今、水素は実質ゼロ実現の鍵を握る燃料として、多くの人から期待をよせされている。水素燃料は大型トラックや船の動力を使える。しかし、それよりはるかに大きな役割もある。それは天然ガスに代わって、産業燃料としてや、暖房のために使われることだ。水素はまた電力の貯蔵にも利用できる。再生可能エネルギーの電力を使って水素を作っておき、風力や太陽光の出力が減ったとき、その水素を燃料として使うことができる。

いくつかのEUの研究では、2050年までに、EUのエネルギー需要の最大4分の1が水素でまかなわれるようになるだろうと予測されている。そのようなことを成り遂げるのは、規模の面で、かなりの大事業になるだろう。

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EUは代替燃料として水素を推進する世界的な動きの先頭に立つ。欧州各国で水素の戦略や構想が次々と打ち出されている。世界中で、安くて豊富な電力を持つ、または潜在的に持つ国々や企業のあいだで、水素の輸出国・業者になろうとする競争が始まっている。水素に世界規模の貿易の可能性を見込む国や企業もある。
現在のところ、水素への期待と、実際の水素の供給能力との間には大きな開きがある。事業規模の巨大さや、必要とされる技術力ゆえ、また、もともとエネルギー産業が水素の扱いに慣れていることから、水素は世界中でエネルギー企業の関心を集めている。また、間欠的ではないエネルギー源を確保したいと考える各国の政府も、水素に強い興味を示す。その結果として、今後ますます水素への取り組みは活発になるだろう。世界一軽い元素が2050年までに世界のエネルギー供給の最重量級プレイヤーになるという期待も膨らんでいる。

第3には、バッテリーと電力貯蔵の技術だ。電気自動車への移行と、間欠的な再生可能エネルギーによる発電の急成長に伴って、バッテリーの技術はどんどん向上している。同時に、サプライチェーンや製造も拡大し、戦略上の優先順位も上がっている。
最も著しい成長は自動車からもたらされるだろう。目下、自動車メーカーは電気への切り替えを進めている。政府に後押しされている中国の電気自動車市場は、現在、世界最大の規模だ。カリフォルニア州2035年以降、州内でのガソリン車の販売を禁止することを決めた。英国は2030年にガソリン車の販売を禁止することを目指している。