じじぃの「科学・地球_321_新しい世界の資源地図・中東・イスラエルの台頭」

UAE to Pay $1 Billion for Stake in Israel's Tamar Gas Field

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=aUVVuv8VdTc

Tamar gas field offshore Israel

Israel Electric in Leviathan gas supply deal

April 8, 2019 Offshore Energy
Israel Electric Corporation has signed a short-term gas supply agreement with Noble Energy-operated consortium running the Leviathan field development offshore Israel.
The price, IEC said, is lower than the one being paid for Tamar gas.
https://www.offshore-energy.biz/israel-electric-in-leviathan-gas-supply-deal/

新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突

ヤーギン,ダニエル【著】〈Yergin Daniel〉/黒輪 篤嗣【訳】
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書。
目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図

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『新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突』

ダニエル・ヤーギン/著、黒輪篤嗣/訳 東洋経済新報社 2022年発行

序論 より

本書では、この新しい地図を読み解いていきたい。世界における米国の地位はシェール革命でどう変わったか。米国vsロシア・中国の新冷戦はどのように、どういう原因で発生しようとしているか。新冷戦にエネルギーはどういう役割を果たすのか。米中の全般的な関係は今後、どれくらい急速に(どれくらいの危険をはらんで)「関与」から「戦略的競争」へ推移し、冷戦の勃発と言える様相を帯び始めるか。いまだに世界の石油の3分の1と、かなりの割合の天然ガスを供給している中東の土台はどれくらい不安定になっているか。1世紀以上にわたって続き、すっかり当たり前になっている石油と自動車の生態系が今、新たな移動革命によってどのような脅威にされされているか。気候変動への懸念によってエネルギー地図がどのように描き直されているか、また、長年議論されてきた化石燃料から再生可能エネルギーへの「エネルギー転換」が実際にどのように成し遂げられるか。そして、新型コロナウイルスによってエネルギー市場や、世界の石油を現在支配しているビッグスリー(米国、サウジアラビア、ロシア)の役割はどう変わるのか。
第1部「米国の新しい地図」では、突如として起こったシェール革命の経緯を振り返る。シェール革命は世界のエネルギー市場を激変させ、世界の地政学を塗り替え、米国の立ち位置を変えた。シェールオイルシェールガスが、21世紀の現在まで最大のエネルギーイノベーションであると言える。
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中東では古代から数々の帝国の興亡とともに、国境線が絶えず引き直されてきた。オスマン帝国の治世は600年続いたが、そのあいだも国境線はしばしば変わった。近代の中東の地図は第一次世界大戦中から戦後にかけて、オスマン帝国の崩壊で生じた権力の空白の中、オスマン帝国時代の行政区画にもとづいて定められた。以来、この地図は拒まれ続けている。汎アラブのナショナリズムや政治的イスラムによって、イスラエル建国に反対する勢力によって、さらには「国民国家」そのものをなくしてカリフ制を復活させようとする、イスラム国(ISIS)などのジハーディスト(聖戦主義者)によってだ。今日の中東が抱える最大の問題は、スンニ派サウジアラビアシーア派のイランの覇権争いに由来する。そこへ近年、トルコがオスマン帝国に遡る正統性を持ち出して、新たに中東の盟主として名乗りを上げたことから、状況はさらに混迷を深めている。しかし中東情勢の背景には、40年に及ぶ米国とイランの対立や、多くの国で常態になっている統治の弱さもある。
もちろん中東には、国境線の地図意外にも重要な地図がある。地質の地図や、油田と天然ガス田の地図や、パイプラインとタンカーの航路の地図だ。

第4部 中東の地図 より

第32章 「東地中海」の台頭

1999年、天然ガス田がイスラエルの南部沖で発見された。小規模なものだったが、イスラエルがそのおかげで初めて炭化水素資源を輸入に頼り切っている状態をいくらかでも緩和できた。そのような輸入への依存はイスラエルの脆弱さと不安の源になっていた。2008年には、シナイ半島を横断するパイプラインを使って、エジプトからイスラエル天然ガスの供給も始まった。
それでも東地中海は、一般には、石油や天然ガスの採掘に関してはまったく見込みのない海と見なされていた。しかし2009年、米国の独立系エネルギー企業ノーブル・エネジーとそのイスラエルの提携企業が、イスラエル北部沖80キロほどの海域で、世界的な規模の天然ガス田「タマル」を発見した。さらにテルアビブ大学とハイファ大学の助けを借りて、地質学者がスーパーコンピュータで地層を解析したところ、それまでそこにあるとは想像すらされていなかった規模の有望な地層があることがわかった。これがイスラエル沿岸から約130キロの沖合にある別の巨大ガス田の発見につながった。過去10年間で世界最大級の発見だった。これに「レビアタン」[ユダヤ教聖典に登場する海の怪物]というあだ名がつけられたのも大げさではなかった。
発見されたタイミングもよかった。「アラブの春」とホスニ・ムバラクの退陣後、エジプトからシナイ半島を横切ってイスラエルまで天然ガスを運ぶパイプラインはしばしば破壊され、2012年、エジプトのムスリム同胞団政権によって供給契約が破棄されていた。
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イスラエルの電力の60%は現在、国内の天然ガスでまかなわれている。もはや輸入の石油や石炭いは頼っていない。民間会社を通じて、すでにパレスチナ自治政府やヨルダンに天然ガスを輸出してもいる。さらにLNGにしてタンカーで運ぶか、欧州への海底パイプラインを建造することで世界的な輸出国になる可能性すらある。イスラエルはついこの前まで輸出依存の脆弱さを心配していた国とは思えないほど、驚くべき変貌を遂げた。
ノーブル・エネジーは「レビアタン」のほかに「アフロディーテ」という大規模な天然ガス田も発見している。この天然ガス田はキプロス共和国の領海にあり、「レビアタン」の北西約29キロに位置する。さらに2012年には、イタリアのメジャー、エニが世界最大級のスーパーコンピュータを使って、エジプトの領海で「ゾフル」と呼ばれる巨大な天然ガス田を発見した。「ゾフル」は「レビアタン」の西約160キロにある。エジプトはこの天然ガス田のおかげで、天然ガスの自給を確実にした。これらの海域は最近、「東地中海海盆」または「東地中海」の名で知られるようになっている。
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2019年の大晦日、「レビアタン」で生産が始まった。イスラエルはすぐにエジプトへの天然ガスの輸出を開始した。輸送には、かつてエジプトからイスラエルにガスを供給するために使われていたシナイ半島のパイプラインが使われた。エジプトは現在では天然ガスを自給しているので自給しているので、イスラエル天然ガスは、長らく稼働していなかった液化プラントを再稼働させ、LNGの輸出事業を再開させるために利用される。「欧州が我々の顧客だ。エジプトはすでにノウハウを持っており、インフラも整っている」と、エジプトのエネルギー相タレク・エル・モラは述べた。
イスラエルのエネルギー相ユバール・シュタイニッツは「すでに国内で消費しきれないほどの量を発見している」と語っている。このことが当てはまるのは、イスラエルだけではない。ギリシャイスラエルキプロスの3ヵ国が、東地中海の天然ガスギリシャとイタリアに輸送する全長約1900キロの海底パイプラインを建設することで合意している。この計画にはトルコがすぐさま反発した。パイプラインが(トルコの主張では)両国の領域を通過することになるからだ。トルコは主張を明確にするべく、キプロス排他的経済水域と言われている海域に掘削船とともに戦艦を派遣した。
東地中海の天然ガスの発見は、「まったく予想だにしないことだった」とシュタイニッツは述べている。状況はすっかり変わった。今、東地中海が資源に関して「まったく見込みのない海」と考える人はいない。

東地中海は世界のエネルギー産業においても、地政学においても、新しいダイナミックな要素になっており、エネルギーと地政学の両方の地図を描き換えている。欧州向けの天然ガスだけでなく、LNGによって、世界市場向けの天然ガスの供給地になる可能性もある。

ただし、今の政治情勢は、この海を争いの海にもするだろう。