じじぃの「科学・地球_313_新しい世界の資源地図・ロシア・東方シフト」

China and Russia turn on gas pipeline ‘Power of Siberia’ as they forge stronger energy ties

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Qnyjp_yj-Ao

ロシア→中国 3000キロ 初のガスパイプライン完成

2019年12月3日 東京新聞
ロシア・シベリア地方から中国北部に至る全長約3000キロのガスパイプライン「シベリアの力」が完成し、2日に両国首脳が開通を祝った。
ロシアの報道によるとガス供給契約は30年で、中国側の支払いは総額4000億ドル(43兆8000億円)を見込む。エネルギーの安全保障で両国の関係が深まるのは確実だ。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/26869

新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突

ヤーギン,ダニエル【著】〈Yergin Daniel〉/黒輪 篤嗣【訳】
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書。
目次
第1部 米国の新しい地図

第2部 ロシアの地図

第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図

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『新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突』

ダニエル・ヤーギン/著、黒輪篤嗣/訳 東洋経済新報社 2022年発行

序論 より

本書では、この新しい地図を読み解いていきたい。世界における米国の地位はシェール革命でどう変わったか。米国vsロシア・中国の新冷戦はどのように、どういう原因で発生しようとしているか。新冷戦にエネルギーはどういう役割を果たすのか。米中の全般的な関係は今後、どれくらい急速に(どれくらいの危険をはらんで)「関与」から「戦略的競争」へ推移し、冷戦の勃発と言える様相を帯び始めるか。いまだに世界の石油の3分の1と、かなりの割合の天然ガスを供給している中東の土台はどれくらい不安定になっているか。1世紀以上にわたって続き、すっかり当たり前になっている石油と自動車の生態系が今、新たな移動革命によってどのような脅威にされされているか。気候変動への懸念によってエネルギー地図がどのように描き直されているか、また、長年議論されてきた化石燃料から再生可能エネルギーへの「エネルギー転換」が実際にどのように成し遂げられるか。そして、新型コロナウイルスによってエネルギー市場や、世界の石油を現在支配しているビッグスリー(米国、サウジアラビア、ロシア)の役割はどう変わるのか。
第1部「米国の新しい地図」では、突如として起こったシェール革命の経緯を振り返る。シェール革命は世界のエネルギー市場を激変させ、世界の地政学を塗り替え、米国の立ち位置を変えた。シェールオイルシェールガスが、21世紀の現在まで最大のエネルギーイノベーションであると言える。
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第2部「ロシアの地図」では、エネルギーフローの相互作用や地政学的なせめぎ合い、さらには30年前のソビエト連邦崩壊と、ロシアを再び大国にしたいというウラジーミル・プーチンの宿願のせいで、なかなか決着しない国境問題から生じる火種について論じる。ロシアは「エネルギー大国」だが、経済面で石油と天然ガスの輸出に大きく依存している。ソ連ソビエト社会主義共和国連邦)時代同様、現在も、それらの輸出がもたらしうる欧州への政治的な影響力については、激しい論争が巻き起こっている。ただし、欧州や世界の天然ガス市場で起こった変化によって、そのような潜在的な影響力は消し去られている。

第2部 ロシアの地図 より

第15章 東方シフト

2014年5月、ウラジーミル・プーチンが閣僚や財界人を大勢引き連れて、上海を訪問し、習近平国家主席から国賓として歓迎を受けた。ロシアの「東方シフト」がいちだんと急を要するものになっているときだった。ロシアは2ヵ月前にクリミアを併合したばかりで、ウクライナ南東部で戦端が聞かれようとしていた。EUと米国はこのロシアの動きに対して、最初の制裁を発動しており、西側とロシアの関係は急速に悪化しつつあった。わずか数ヵ月前にロシアとの「安全で、信頼できる関係」について語っていたメリケル首相も、今では、「基本原則」と国際法を破る国としてロシアを非難し、プーチンに対して「自分の世界に浸っている」と辛辣な言葉を浴びせていた。
上海で示されることになったのは、プーチンの世界において、いかにアジアが存在感を増しているかだった。この会議でエネルギーと国家戦略との結び付きが強まっていることがいっそう明らかになった。
2014年5月の上海での会議は、プーチンと習にとって、4ヵ月間で7回目の会議だった。ただし今回はそれまでと違った。ロシアの著名な評論家が指摘したように、「西側との統合というバラ色の夢」は、「ロシアを国際的に孤立させようとする西側の企て」に直面し、潰(つい)えていた。そこへ代わりに登場したのが中国だった。「世界規模でも、我々には共通の優先事項がある」とプーチンは言った。ロシアと中国は「一極支配」と米国に「覇権を握られた」国際システムにも、活動家やNGOにけしかけられた民主主義の普及と耐性の転換にも、反対の立場で一致していた。両国が唱えているのは、多極化と、何よりも国家の(とりわけ自国の)「完全な主権」だった。
議題の最上位に置かれたのは、大規模な天然ガスの契約の問題だった。この問題については、両国のあいだで10年にわたって難しい交渉が続けられていたが、合意に達することが喫緊の課題になっていた。中国は経済成長を支えるとともに、大気汚染を抑えるため、どうしても天然ガスの利用を増やしたかった。一方ロシアは、ヨーロッパの顧客への依存を弱めるとともに、石油・天然ガスへの旺盛な需要があり、なおかつ政策と経済の両面で方向性が近い国の市場に、将来軸足を移す必要があった。国家主導の資本主義経済モデル「北京コンセンサス」でも、両国の方向性は一致していた。
これらはすべて「東方シフト」を強める要因だった。ロシアの外交ドクトリン「外交政策概念」には、「グローバル・パワー」が「アジア・太平洋地域」に移りつつある状況に適応するとともに、「急発展を遂げているこの地政学的ゾーンの不可欠な一員になる」べく、迅速な行動を起こすことが必要だと、記されている。また「東方シフト」がある1つの国――中国――に接近しようとするものであることも明白だった。「中国という籠(かご)にたくさんの卵を入れてしまうのは危険ではないか」と尋ねられたとき、プーチンは次のように答えている。「我々の卵の数は十分に多いが、その卵をすべて入れられるほど、籠の数は多くない」。
2006年から2013年にかけて、中国の天然ガスの消費量は3倍に増えた。しかし、10年にわたる交渉を経ても、天然ガスの「大きな取引」はいまだにまとまっていなかった。ネックになっていたのは、ひとえに価格だった。ロシア政府は、欧州での価格と釣り合う価格にし、原油価格と連動させたかった(当時、原油価格はまだ高かった)。一方の中国政府は、国内のエネルギー価格と同程度に安く、石炭と競合できる価格を望んでいた。
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プーチンが中国を「重要な戦略的パートナー」と呼べば、習も、両国は「最も信頼できる戦略的パートナー」同士と応じた。このパートナシップはさまざまな形となって現われている。ロシア海軍南シナ海で中国海軍の軍事演習に参加したのもそうだし、プーチンが「域外の勢力」(つまり米国のこと)は南シナ海の問題に関与するべきではないという声明を発表したのもそうだ。欧州での第二次世界大戦勝利70周年を祝う行事では、中国軍が(欧州での戦いに参加していたわけでもないのだが)モスクワの赤の広場でロシア軍と一緒に行進した。ロシアの最新鋭の兵器、Su-35戦闘機とS-400ミサイル防衛システムが中国に売却されもした。以前のロシアはそのような兵器の売却に応じていなかった。兵器を分解され、摸倣されることを恐れたからだ。しかし、西側から制裁を受けてから中国との関係を深めたことで、そのような懸念は不問に付された。中国との軍事協力の拡大が「最優先事項」だと、ロシアの国防相は述べている。
このような関係、つまり大国同士の関係こそ、プーチンが重んじているものだった。「大事なのは世界的な指導力だ。地域のささいな問題について議論することではない」と、プーチンはかつて言ったことがある。「大国間には競争がつきものだ。それが世の常だ。問題は、その競争がいかなるルールに則って行われるかだ」。そのルールについて、ロシア政府と中国政府の考えはぴったりと一致している。

とりわけエネルギー分野では、「東方シフト」が顕著だ。250億ドルを投じて建設された全長約4500キロの「東シベリアー太平洋石油パイプライン」がその原動力になっている。2005年、ロシアの原油輸出に占める対中国輸出の割合はわずか5%だった。それが約30%まで上昇し、ロシアはサウジアラビアを抜いて、中国にとって最大の原油供給国になった。