じじぃの「科学・地球_314_新しい世界の資源地図・中国・G2」

「米中戦争」勃発率が75%って本当なのか?「トゥキディデスの罠とは?」

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_bf_VxRhDdU

Why China and the United States Can Avoid the Thucydides' Trap

OCTOBER 15, 2015 Beijing Review
The Thucydides' trap warns of the danger when a rising power comes into conflict with a ruling one--as Athens and Sparta did in the fifth century B.C. The majority of such conflicts have ended in war.
While the 2,500-year-old concept is worth studying, applying it to China-U.S. relations, as some commentators have done, is like modern doctors basing their medical practices on the writings of Erasistratus (304-250 B.C.), a well-known Greek physician.
http://www.bjreview.com/Opinion/201510/t20151009_800040070.html

新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突

ヤーギン,ダニエル【著】〈Yergin Daniel〉/黒輪 篤嗣【訳】
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書。
目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図

第3部 中国の地図

第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図

                  • -

『新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突』

ダニエル・ヤーギン/著、黒輪篤嗣/訳 東洋経済新報社 2022年発行

序論 より

本書では、この新しい地図を読み解いていきたい。世界における米国の地位はシェール革命でどう変わったか。米国vsロシア・中国の新冷戦はどのように、どういう原因で発生しようとしているか。新冷戦にエネルギーはどういう役割を果たすのか。米中の全般的な関係は今後、どれくらい急速に(どれくらいの危険をはらんで)「関与」から「戦略的競争」へ推移し、冷戦の勃発と言える様相を帯び始めるか。いまだに世界の石油の3分の1と、かなりの割合の天然ガスを供給している中東の土台はどれくらい不安定になっているか。1世紀以上にわたって続き、すっかり当たり前になっている石油と自動車の生態系が今、新たな移動革命によってどのような脅威にされされているか。気候変動への懸念によってエネルギー地図がどのように描き直されているか、また、長年議論されてきた化石燃料から再生可能エネルギーへの「エネルギー転換」が実際にどのように成し遂げられるか。そして、新型コロナウイルスによってエネルギー市場や、世界の石油を現在支配しているビッグスリー(米国、サウジアラビア、ロシア)の役割はどう変わるのか。
第1部「米国の新しい地図」では、突如として起こったシェール革命の経緯を振り返る。シェール革命は世界のエネルギー市場を激変させ、世界の地政学を塗り替え、米国の立ち位置を変えた。シェールオイルシェールガスが、21世紀の現在まで最大のエネルギーイノベーションであると言える。
    ・
第3部「中国の地図」は、いわゆる「国恥の100年」(100年来の屈辱)と、ここ20年にわたる経済力と軍事力の飛躍的な伸長、それに世界最大になろうとしている経済(見方によってはすでにそうなっている)のエネルギー需要にもとづいて描かれる。中国は地理から軍事、経済、テクノロジー、政治にいたるまで、あらゆる方面で勢力を拡大しつつある。「世界の工場」は今、バリューチェーンの上流にのぼって、今世紀の新産業で世界の盟主になろうと狙っている。また、南シナ海のほぼ全域に対して、自国の領有権を主張してもいる。南シナ海は世界の海上通商路の枢要をなす海域であり、現在、米中の戦略上の対立が最も先鋭化している場所だ。中国よるこの領有権の主張にはエネルギーの問題が大きく関わっている。
中国の「一帯一路」構想は、アジアとユーラシア、さらにその先まで広がる経済圏を描き直し、世界経済の中心に「中華帝国」を据えようとするものだ。

第3部 中国の地図 より

第17章 G2

「G」と名付けられた集まりはいくつもあって、少々まぎらわしい。まずG7がある。世界の先進工業国の首脳が年に1回集まる会合だ。一時期、G8になったが、やがてロシアが除外され、G7に戻った。次にG20ができた。「経済大国」20ヵ国(G7とEUに、巨大な「新興」市場を形成する中国、インド、ブラジル、サウジアラビアを加えた20ヵ国)の集まりだ。G20はかつて、世界経済の「取締役会」になるとも一部で言われたが、討議や調整の場に留まっている。
さらにまぎらわしいのは、G2だ。G2というグループは正式には存在しない。しかし現実にはある。最も力のある国の集まりという意味では確かに存在する。このグループは世界経済の未来を左右する力をほかのどのグループよりも持っている。実際、このグループによって左右される未来は今世紀のすえにまで及ぶ。G2の構成国はわずか2ヵ国。言うまでもなく米国と中国だ。両国で世界のGDPの約40%、軍事費で約50%を占めている。G2は同盟とか、意思決定のフォーラムとかではなく、両国の関係――新たな敵対関係――と世界全体へのその影響を言い表す概念として提起として提起されたものだ。
少し前までは、米中関係は相互依存によってかつてないほど緊密になったと考えられていた。サプライチェーンが統合され(米国で設計され、中国で製造されるiPhoneのように)、2018年(貿易戦争前)の米中の総貿易額は7380億ドル、米国による対中投資は1160億ドル、中国による対米投資は600億ドルにのぼった。加えて、米国の大学に通う中国人は36万人を超え、米経済に130億ドルの貢献をしている。
この相互依存を加速させたのは、2001年の中国による世界貿易機関WTO)加盟だ。
    ・
この加盟は中国の市場を米国の企業に解放するとともに、世界経済の成長を支えるものになる。相互依存と「関与」によって、利害の一致を促進すれば、紛争のリスクも減る。これらの一連の考えの拠り所になっているのは、全加盟国の合意によって意思決定するいわゆる「WTOコンセンサス」だ。当時は批判も浴びたが、中国の急速な経済成長に直面した状況で、ほかに有望な選択肢はなさそうだった。

しかし「WTOコンセンサス」は崩れ、G2には亀裂が入った。関与は反目に取って代わられた。すなわち貿易戦争と、経済や安全保障の問題をめぐる対立米中経済のデカップリング論、軍拡競争、これからの経済モデル、ひいては21世紀の盟主の座をめぐる争いだ。

これらはすべて新たな冷戦の勃発を思い起こさせた。ただし、米ソ時代とは違う種類の冷戦だ。2020年ン、新型コロナウイルスの世界的流行によって混乱と甚大な人的・経済的被害が発生すると、たちえ一時的にせよ、デカップリングは現実と化した。旅客機の運航が止まり、貿易は制限された。非難合戦がエスカレートし、敵対感情はいちだんと高まった。
これらのことは米国と中国が、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授の「トゥキディデスの罠」にはまろうとしていることを意味するのか。古代アテネの歴史家の名を付けられたこの概念は、「覇権国」と「新興国」の衝突から戦争が起こることを表している。その例は、紀元前5世紀の「覇権国」アテネと「新興国」スパルタとの戦争に始まって、枚挙にいとまがない。トゥキディデスによっても記述されているアテネとスパルタの戦争は、30年続いて、両都市国家を荒廃させた。そのほかに研究されている事例としては、建艦競争と経済戦争を繰り上げ、第一次世界大戦を招いた英国とドイツの衝突がある。この戦争では、戦勝国、敗戦国ともに戦後、苦境に陥って、そのことが第二次世界大戦の土壌を醸成した。これらの歴史上の事例には、もちろん、核兵器という大量破壊兵器は登場しない。サイバー戦争も出てこない。
トゥキディデスの罠の当否については議論もあるが、この言葉が市民権を得ていることは間違いない。習近平はシアトル訪問時に「「トゥキディデスの罠」などというものはこの世界に存在しない」と述べる一方で、「大国が戦略の誤算を繰り返したら、みずからそのような罠を招くだろう」と警告を発している。
    ・
習は北京で29ヵ国の首脳会合を開いて、中国の新たな大国としての地位を証明して見せた。そこで中国がはっきりと打ち出したのは、米国のように、他国に人権についての講釈を垂れたり、民主主義の活動家を支援したりはしないという姿勢だった。「我々は他国の内政に口を出すとか、外国に我が国の社会制度を広めるとか、我々の意志を押し付けるというようなことはしない」と習は述べた。習のこのメッセージは、経済的な援助を期待して北京に集まった各国の首脳たちに歓迎された。
G2の敵対関係がとりわけあらわになっている場は2つある。1つは南シナ海であり、これには地球上の地図が含まれる。もう1つは「一帯一路」と呼ばれるもので、これにはグローバル経済の地図を描き直そうとする動きが示されている。どちらにも深く結び付いているのが、エネルギーの問題だ。
ほかにも米中の危険な対立点はある。まず最も根本的な問題として、両国のあいだには台湾の問題が横たわっている。台湾が独立国ではないこと、また今後も独立しないことは、たびたび言われている中国の「革新的利益」だ。中国は台湾の独立の動きには、軍隊の投入も辞さない姿勢を鮮明にしている。台湾の北東に浮かぶ小さな無人島も、米中の紛争の火種になりうる。この島は戦略的に重要な海域にあり、中国と日本の双方がその領有権を主張している。しかし、米中のあいだで直接「最も緊張が高まっている」のは、やはり南シナ海だ。元NATO軍最高司令官ジェイムズ・スタヴリディス海軍大将が述べているように、「南シナ海は、米中の最も危険な衝突の可能性をはらんでいる」。