じじぃの「科学・地球_309_新しい世界の資源地図・序論」

Russia And Ukraine's Conflict Over Natural Gas Explained

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=AoyHVWgJt3Y

新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突

ヤーギン,ダニエル【著】〈Yergin Daniel〉/黒輪 篤嗣【訳】
地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか?
エネルギー問題の世界的権威で、ピューリッツァー賞受賞者の著者が、エネルギー革命と気候変動との闘い、ダイナミックに変化し続ける地図を読み解く衝撃の書。
目次
第1部 米国の新しい地図
第2部 ロシアの地図
第3部 中国の地図
第4部 中東の地図
第5部 自動車の地図
第6部 気候の地図

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『新しい世界の資源地図――エネルギー・気候変動・国家の衝突』

ダニエル・ヤーギン/著、黒輪篤嗣/訳 東洋経済新報社 2022年発行

序論 より

本書で論じるのは、地政学とエネルギー分野の劇的な変化によってどのような新しい世界地図が形作られようとしているか、またその地図にどのような世界の行方が示されているかだ。地政学の面では、国家間の均衡の変化や緊張の高まりに着目する。エネルギーの面では、世界的な供給やフローに広範囲に生じている変化を掘り下げる。変化の背景には、エネルギー分野において米国の地位が大きく変わったことと、再生可能エネルギーや、気候をめぐる新しい政治の役割が、著しく重みを増してきたことがある。
ここには異なる種類の力が絡んでいる。1つは国家の力だ。これは経済力、軍事力、地理的条件のほかに、大規模な戦略と計算ずくの野心、疑心と怖れ、偶発的な出来事と不測の事態によって決まる。もう1つは、石油と天然ガスと石炭、風力と太陽光、それに核分裂から生まれる力だ。さらに、世界のエネルギーシステムを作り直し、気候変動対策の名のもとに炭素の排出量実質ゼロを目指そうとする政策の力も働いている。
単純な地図ではない。絶えずダイナミックに変化し続けている地図だ。加えて、2020年に新型コロナウイルスという厄介なウイルスが中国から世界中に広まったことで、いっそう状況は複雑になっている。新型コロナウイルスは甚大な人的被害と騒動を招いただけでなく、世界経済を停止させ、商業をローカルでもグローバルでも滞らせ、仕事を奪い、企業を潰し、多くの人を困窮させ、世界経済を大恐慌以来の不況に陥らせ、国債を大量に増発させ、国家間の緊張を高め、世界のエネルギー市場に深刻な混乱をもたらした。
本書では、この新しい地図を読み解いていきたい。世界における米国の地位はシェール革命でどう変わったか。米国vsロシア・中国の新冷戦はどのように、どういう原因で発生しようとしているか。新冷戦にエネルギーはどういう役割を果たすのか。米中の全般的な関係は今後、どれくらい急速に(どれくらいの危険をはらんで)「関与」から「戦略的競争」へ推移し、冷戦の勃発と言える様相を帯び始めるか。いまだに世界の石油の3分の1と、かなりの割合の天然ガスを供給している中東の土台はどれくらい不安定になっているか。1世紀以上にわたって続き、すっかり当たり前になっている石油と自動車の生態系が今、新たな移動革命によってどのような脅威にされされているか。気候変動への懸念によってエネルギー地図がどのように描き直されているか、また、長年議論されてきた化石燃料から再生可能エネルギーへの「エネルギー転換」が実際にどのように成し遂げられるか。そして、新型コロナウイルスによってエネルギー市場や、世界の石油を現在支配しているビッグスリー(米国、サウジアラビア、ロシア)の役割はどう変わるのか。

第1部「米国の新しい地図」では、突如として起こったシェール革命の経緯を振り返る。シェール革命は世界のエネルギー市場を激変させ、世界の地政学を塗り替え、米国の立ち位置を変えた。シェールオイルシェールガスが、21世紀の現在まで最大のエネルギーイノベーションであると言える。
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第2部「ロシアの地図」では、エネルギーフローの相互作用や地政学的なせめぎ合い、さらには30年前のソビエト連邦崩壊と、ロシアを再び大国にしたいというウラジーミル・プーチンの宿願のせいで、なかなか決着しない国境問題から生じる火種について論じる。ロシアは「エネルギー大国」だが、経済面で石油と天然ガスの輸出に大きく依存している。ソ連ソビエト社会主義共和国連邦)時代同様、現在も、それらの輸出がもたらしうる欧州への政治的な影響力については、激しい論争が巻き起こっている。ただし、欧州や世界の天然ガス市場で起こった変化によって、そのような潜在的な影響力は消し去られている。
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新型コロナウイルスは、以前からはじまっていたグローバル化からの後退、さらには国際機関やその支えとなる国際協力からの後退の傾向に拍車をかけた。2008~2009年、金融危機の世界的な伝播を克服しようとしたとき、鍵を握ったのは国際的な協力だった。それから10年余りがたち、新型コロナウイルスの世界的な流行との闘いでは、政府レベルや国際レベルでそのような協力が見られないことが、逆に際立った。
「デカップリング」について語られていたことは、90兆ドルの世界経済の土台をなすサプライチェーンを縮小しようという議論へと転じた。もっと広く見るなら、国境管理が強化され、ナショナリズム保護貿易主義が盛り上がり、普通は自由に移動できるはずが自由ではなくなった。2020年の新型コロナウイルスの感染爆発で世界経済は停滞した。そのことの影響は、脆弱な国や破綻した国がさらに増えるという形でも現れうる、そうなればそれらの国々では新たな治安上の問題が生まれるだろうし、その問題はやがて国境の外にまで及ぶだろう。しかし政府は、感染爆発から自国の経済を守るために引き受けた巨額の債務や財政支援のために、安全保障、医療、エネルギー、気候といったいずれの分野であろうとも、国内や国際的なニーズに対応することができないだろう。
しかしそのような未来へ向かう動きは、新型コロナウイルスの発生よりもだいぶ前から、再生可能エネルギーや電気自動車のほかに、シェール革命とともにすでに始まっていた。

シェール革命はエネルギー分野における米国の立ち位置を一変させ、グローバル市場を揺るがして、世界における米国の役割を変えた。

では、まずその経緯からみていこう。