Bombay 1995 (Hindi) in HD
ムンバイ ダーラヴィースラム街の子どもたち
映画『ボンベイ』が描いた、インド「コミュナリズム」のあまりに深刻な現実
2017年7月20日 橘玲の世界投資見聞録
●グジャラート州の残虐な暴動
ムンバイの暴動から10年を経た2002年、BJPのお膝元であるグジャラート州で大規模なコミュナル暴動が起きた。そのきっかけもやはり、アヨーディヤのラーマ神殿再建問題だった。
こうして発生した暴動の様子を、ルースは次のように書いている。
「この暴動の残虐さをもっともよく表していたのが、ムスリム女性や子ども扱いだった。暴徒が女性たちに群がってレイプし、それから彼女たちと子どもの口にケロシン油を流し込んで、火をつけたマッチを投げ入れた。数百人の群集がそれを見守り、この残酷な焼殺に歓声を送っていた。ゴドラの列車内で焼死した乗客の報復を象徴する行為だった。男性たちは妻や子どもが焼き殺されるところを目の前で見せられてから、やはり殺された。この大虐殺は計画されたもののように見えた。暴徒たちは選挙の有権者登録リストをもち、ムスリムが住む家だけを特定し、その周囲の家には手をつけなかった。彼らはムスリムの経営ではあるが、ヒンドゥー教徒の共同経営者をもち、店先にはヒンドゥーの名前を掲げて用心していた商店を特定することもできた。ムスリム経営の数百の店舗が破壊された。この効率のよさを考えると、ある程度の下調べが行なわれていたとしか思えない」
https://diamond.jp/articles/-/135828?page=2
『ディープフェイク ニセ情報の拡散者たち』
ニーナ・シック/著、片山美佳子/訳 ナショナル ジオグラフィック 2021年発行
第4章 翻弄される発展途上国の市民 より
ディープフェイクと人種
現在一般化している唯一のディープフェイク動画である同意のないポルノは、女性を黙らせ、脅す手段としてすでに利用されている。
インドで働くイスラム教徒の女性ラナ・アイユーブは、取材熱心なジャーナリストで執筆家だ。主に、イスラム教徒とヒンドゥー教徒の対立が絶えない南アジアにおける、醜い宗教対立による暴力に焦点を当てた仕事をしてきた。例えば、群集が暴徒化し、790人のイスラム教徒と253人のヒンドゥー教徒が虐殺された2002年のグジャラート暴動について、政治家と警察が加担していたことを本に書いている。この暴動は、非常に恐ろしい出来事としてインドの人々の記憶の中に刻み込まれた。作家のパンカジ・ミシュラは後に、「大虐殺の様子は、インドの数えきれないほどの(中略)テレビチャネルで、大々的に放映された。多くの中流階級のインド人は、幼い子供さえも殺害されたことに衝撃を受けた。イスラム教徒の暴徒が、子供たちの頭を岩にたたきつけている様子が映っていたのだ」と記している。
当時のグジャラート州首相ナレンドラ・モディは、公務員や警察に暴徒を制止しないよう指示したとして後に責任を追及された。しかし今ではインドの首相であり、与党であるヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)の党首だ。虐殺への関与の否定と、暴動に対する非難を続けている(後に、インドの最高裁判所が任命した特別調査団によって、暴力への関与の疑いは晴れた)。
ラナは、少し違う見方をしていた。インド人民党を公然と厳しく批判する彼女は、これまでも最も危険な暗部に切り込んでいた。そして明らかにそれが理由で、インターネット上で脅迫を受けていた。ラナは『ハフィントン・ポスト(ハフポスト)』に「たかがインターネット上の嫌がらせであり、それが現実の嫌がらせにつながるわけではないと自分に言い聞かせて、無視するようにしています」と話していた。
ところが2018年4月、事態は一変する。6歳のイスラム教徒の少女がレイプされる事件が起き、インドは怒りに包まれた。与党であるインド人民党は、この凶悪事件の犯人として起された訴ヒンドゥー教徒の男を支援するデモの準備をしていた。一方、ラナは事件について話をするためBBCとアルジャジーラ(カタールの衛星テレビ局)に出演する予定だった。彼女自身の言葉を借りると「インドが、子供に性的虐待を加えた犯罪者を守る恥知らずな国であること」を語るためだ。翌日、ラナは自分自身がニセ情報作戦の標的になっていることを知る。
まず、ラナが発信したように見せかけたニセのツイートが、次々とソーシャルメディアで拡散され始めた。インドとパキスタンの間のヒンドゥー教徒とイスラム教徒の分断を刺激する内容のツイートを、ラナが自分の公式アカウントに投稿したかのように見えるスクリーンショットが投稿されたのだ。「私はインドを憎んでいる」、「私はインド人を憎んでいる」「私はパキスタンを愛している」という文面だった。ラナはすぐにそのツイートが偽物だと弁明した。だが、攻撃はエスカレートする。翌日ラナは、インド人民党の内部の人物から警告を受け取った。彼女の動画がワッツアップで出回っていると言い、送ってきたのだ。動画を開いたラナは嘔吐した。それはラナを「ポルノ女優」にい仕立てた、フェイクポルノ動画だったのだ。後にラナはこのときのことを詳しく語っている。「どうしたらよいかまったくわかりませんでした。インドのような国では、あれは一大事だったのです。どう対処したら良いかわからず、ただ泣き出してしまいました」。ラナのスマートフォンの通知音が鳴り続けた。ピーン。ピーン、ピーンと、何百件ものツイッター、フェイスブック、インスタグラムの通知が画面に続々と表示される。ソーシャルメディアのアカウントは動画のスクリーンショットで埋め尽され、彼女の「体」についての身の毛もよだつようなプライベートメッセージも届いた。そして動画は、インド人民党の熱心な支持者のページでシェアされ、拡散された。
翌日ラナは、インターネット上で「さらされた」。個人情報をインターネット上で公開するというあくいに満ちた嫌がらせだ。ディープフェイク・ポルノのスクリーンショットとともに個人番号が載せられていた。ラナのワッツアップには、売春の料金を問うメッセージや、レイプする、殺すといった脅迫が殺到した。結局、ラナは数日間家から出られなくなり、執筆活動も停止した。「あのことは私の中でまだ尾を引いています。あの動画が公開されたときから、私はもう以前の私ではなくなりました。それまでは自分の意見をはっきりというタイプでしたが、今ではインターネットに投稿する内容には非常に慎重になっています。自分の書いた文を念入りにチェックせずにはいられません」
もし動画公開の目的が、ラナを黙らせることだったら、まさに大成功だったと言える。これを皮切りに、政治的な反対意見を封殺するためのディープフェイクが今後増えていくだろう。