じじぃの「歴史・思想_156_ホモ・デウス・無知の発見」

Leeuwenhoek and Microscopic Life

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=c_BiLl2v6OE

Cancer Discovery

ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来 2018/9/20 ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳) Amazon

世界1200万部突破の『サピエンス全史』著者が戦慄の未来を予言する! 『サピエンス全史』は私たちがどこからやってきたのかを示した。『ホモ・デウス』は私たちがどこへ向かうのかを示す。
全世界1200万部突破の『サピエンス全史』の著者が描く、衝撃の未来!
【下巻目次】
第6章 現代の契約
銀行家はなぜチスイコウモリと違うのか?/ミラクルパイ/方舟シンドローム/激しい生存競争

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『ホモ・デウス(下) テクノロジーとサピエンスの未来』

ユヴァル・ノア・ハラリ/著、柴田裕之/訳 河出書房新社 2018年発行

現代の契約 より

ラクルパイ

今日、ヒンドゥー教の信仰復興推進者や信心深いイスラム教徒、日本の国家主義者、中国の共産主義者は、まったく異なる価値観や目標を固守することを宣言しているかもしれないが、その誰もが、経済成長こそ、本質的に違うおのおの目標を実現するカギであると信じるに至っている。たとえば2014年、敬虔なヒンドゥー教徒であるナレンドラ・モディは、出身州のグジャラートで経済成長を促進するのに成功し、不振の国家経済を再び活気づけられるのは彼だけだと広く見られていたおかげで、インドの首相に選ばれた。同じような見方のおかげで、イスラム教徒のレジェップ・タイイップ・エルドアンは2003年以来、トルコで権力の座を占め続けている。公正発展党という彼の政党の名前は、この党が経済発展をどれほど重視しているかを物語っている。実際、エルドアン政権は10年以上にわたって毎年のように、目を見張るような成長率を維持している。
日本の首相で国家主義者の安倍晋三は、日本経済を20年に及ぶ不況から抜け出させることを約束して2012年に就任した。その約束を果たすために彼が採用した積極的でやや異例の措置は、「アベノミクス」と呼ばれてきた。その間、隣の中国では共産党は相変わらず伝統的なマルクス・レーニン主義の理想を口先では称えつつも実際に従っているのは鄧小平の2つの有名な原則、「発展こそ揺るぎない道理だ」「黒い猫であれ白い猫であれ、ネズミを捕るのが良い猫だ」で、端的に言えば、たとえマルクスレーニンなら喜ばなかったようなことでも、経済成長を促すためには必要なことは何でもやれというものだった。
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自由市場資本主義には断固とした答えがある。経済正統のためには家族の絆を緩めたり、親元から離れて暮らすことを奨励したり、地球の裏側から介護士を輸入したりせざるをえないのなら、そうするしかない。ただし、この答えには事実に関する言明ではなく倫理的な判断がかかわぅている。ソフトウェアエンジニアリングを専門とする人と高齢者の介護に時間を捧げる人の両方がいるときには、より多くのソフトウェアを作り、より多くの専門的介護を高齢者に提供できることは間違いない。とはいえ、経済成長は家族の絆よりも重要だろうか? 自由市場資本主義は大胆にもそのような倫理的判断を下すことによって、科学の領域から境界線を越えて宗教の領域へと足を踏み入れたのだ。
おそらくほとんどの資本主義者は宗教というレッテルを嫌うだろうが、資本主義は宗教と呼ばれてもけっして恥ずかしくない。天上の理想の世界を約束する他の宗教とは違い、資本主義はこの地上での奇跡を約束し、そのうえそれを実現させることさえある。飢饉と疫病を克服できたのは、資本主義が成長を熱烈に信奉していることに負うところが大きい。人間の暴力を減らし、寛容さを育み、協力を促進した手柄の一部さえ、資本主義に帰せられる。次章で説明するとおり、っこにはさらに他の要因も絡んでいるが、資本主義は、人々が経済を、あなたの得は私の損というゼロサムゲームと見なすのをやめて、あなたの得は私の得でもあるという、誰もが満足する状況と見るように促すことで、全世界の平和に重要な貢献をしたことに疑問の余地はない。この相互利益のアプローチはおそらく、汝(なんじ)隣人を愛せ、右の頬を打たれたら左の頬も向けよという、2000年近いキリスト教の教えよりもはるかに、全世界の平和に役立ってきただろう。

方舟シンドローム

成長へと続く科学の道は、何千年もの間、閉ざされていた。それは人々が、この世界が提供しうる重要な知識はもうすべて聖典や古代からの伝承の中に含まれていると信じていたからだ。もし、ある企業が世界中の油田はもうすべて発見されていると信じていたら、石油探査に時間とお金を浪費しないだろう。同様に、ある人間の変化が、知る価値のあることはもう何もかも知っていると信じていたら、わざわざ新しい知識を探し求めたりはしないだろう。これが近代以前、大半の人間の文明が採用していた立場だ。ところが、人類は科学革命によって、この素朴な思い込みから解放された。

最も偉大な科学的発見は、無知の発見だった。

人類は、自分たちが世界についてどれほどわずかしか知らないかに気づいた途端、新たな知識を追求するべきじつにもっともな根拠を突然手にし、それが進歩へ向かう科学の道を開いたのだった。
その後の各世代は科学の助けを借りて、新たなエネルギー源や新種の原材料、より優れた機械、斬新な生産手法を発見したり発明したりしてきた。その結果、2016年の人類は、これまでよりもはるかに多くのエネルギーと原材料を思いのままにしており、生産は急激に増えている。蒸気機関内燃機関やコンピューターなどの発明からは、前代未聞の産業がいぃつも誕生した。20年先の2036年に目をやるとき、私たちはいまよりもはるかに多くを生産し、消費しているだろうと、自信を持って予測できる。ナノテクノロジー遺伝子工学やAIがまたしても生産に大革命を起こし、果てしなく拡大を続ける私たちのスーパーマーケットに、新たなセクションをまるごといくつも開設させるのは確実だ。