じじぃの「はじめに・世界はニセ情報であふれている!ディープフェイク」

You Won’t Believe What Obama Says In This Video!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=cQ54GDm1eL0

【2014年/解説】ウクライナ上空での 旅客機撃墜

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=lSjTBwBewtI

マレーシア航空17便 撃墜事故

ディープフェイク ニセ情報の拡散者たち ニーナ・シック著

2021年11月28日 東京新聞 TOKYO Web
実在しない人の顔の画像をAI(人工知能)で作り出すウェブサイトが本書で紹介されている。
こうした合成メディアのうち、悪意をもってニセ情報や誤情報として使われるものを「ディープフェイク」と本書は定義する。また、そのような信用できない情報が蔓延(まんえん)した危うい世界は「インフォカリプス」と呼ばれるという。
ともにまだ新しい言葉だが、ディープフェイクはすでにポルノなどの世界で少なからぬ被害者を生み出している。一方、ニセ情報で国際情勢をかく乱するロシアの戦略や、トランプ元大統領が数々の虚言によって社会を分断していった様は、まさに私たちがいま、インフォカリプスの中を生きていることを示している。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/145063

『ディープフェイク ニセ情報の拡散者たち』

ニーナ・シック/著、片山美佳子/訳 ナショナル ジオグラフィック 2021年発行

はじめに より

世界はニセ情報であふれている

ユーチューブに再生回数が750万回に迫るオバマ大統領の話題の動画がある。「オバマ大統領、まさかの発言(You Won’t Believe What Obama Says In This Video!)」というタイトルが、視聴者の好奇心をそそる。まっすうにカメラを見つめるオバマ大統領。濃褐色のマホガニーの椅子に腰かけており、大統領執務室にいるようだ。白髪交じりの頭が年齢を物語っているが、自身に満ち、余裕が漂う。右肩の後方には星条旗が見えている。プレスのきいたワイシャツに青いネクタイという、いつも通りのきちんとした身なりで、左襟には星条旗のピンを着けている。動画が再生されると話し始める。「誰が何をいつ話したかを、敵が自在にねつ造できる時代になりました」。そして手振りを交えながら説明する。
「あり得ないような発言を、誰かがしたことにできるのです。例えば、トランプ大統領は本当に大バカ者だとオバマが言ったというようなこともでっち上げられます」。目にかすかな笑みとやわらかい光をたたえ、さらに続ける。「おわかりだと思いますが、私がそんな発言をするはずがありません。少なくとも公の場ではね」
実際、この動画で話しているのは、オバマ本人ではない。これはAI(人工知能)を用いて作ったディープフェイクと呼ばれるニセ動画だ。未来世界へようこそ。AIが進化を遂げ、人々が言っていないことを言ったかのように、やっていないことをやったかのように、仕立て上げることができる時代に突入したのだ。誰もが標的になり、誰もが万事を否定できる。誤情報とニセ情報が氾濫し、情報のエコシステム(情報とそれを取り巻く環境)の破壊が進む今、進化を続けるAIとディープフェイクが新たな脅威として浮上してきた。

ディープフェイクとは?

ディープフェイクは、AIを使用して改ざんもしくは生成されたメディア(写真、音声、動画など)のことだ。技術の進歩により、フォトショップなどの画像編集ソフトウェアやインスタグラムのフィルターを使うことで、誰でも簡単にメディアを加工することができるようになった。
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インフォカリプス(Infocalypse)は2016年に米国の科学技術者アビブ・オバディアが作った、情報(infomation)と世界の終焉(apocalypse)を組み合わせた言葉だ。オバディアは、社会に有害な情報がまん延していると警告し、この社会がもはや対処できない危機の入口に差し掛かっているのではないかと問いかけている。

インフォカリプスの始まり

2014年、ウエストミンスターにあるEU欧州連合)の政策シンクタンクで働いていた私は、ロシアによるクリミア併合と、起きたばかりのウクライナ東部への侵攻に関するEUの対応を分析していた。国際ニュースを伝える番組から次々出演依頼が舞い込み、大忙しだった。EUがどのような立場をとるか苦慮する中、ロシア政府には確固たる戦略があることが明らかになる。ウクライナを侵略したことを真っ向から否定し、西側の政治家やコメンテーターがロシアに対して不当な中傷合戦を展開していると主張したのだ。
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数ヵ月間、私はクリミア危機に関する仕事にかかりきりだった。やがてこの問題は、現実とは思えない悲惨な転換点を迎える。東ウクライナの分離独立派が、ウクライナの軍用機と誤認して民間機を撃墜したのだ。マレーシア航空17便に搭載していた283人の乗客と15人の乗組員全員の命が奪われた。私はロンドン各地のニューススタジオで西側の対応について解説していたが、報告者に添付された映像が脳裏から離れなかった。ウクライナ東部の野原に散らばる、機体の残骸だ。
その後の調査で、マレーシア航空17便の撃墜にロシア軍が関与していたことが明らかになった。ミサイル発射装置が国境を越えてロシアからウクライナに運ばれ、持ち帰られた経路も突きとめられた。だがロシア政府は、見え透いた嘘をついて、現在まで関与を否定し続けている。2017年、英国下院の情報安全保障委員会は次のように結論づけた。

ロシアは大規模な情報戦を行っている。(中略)手始めに、マレーシア航空17便の撃墜

に関与していないと世界にアピールするため、さまざまな手段を駆使して、徹底した宣伝活動を行った(中身はもちろん真っ赤な嘘だ。ロシア軍がミサイル発射装置を提供し、後に回収したことは疑う余地がない)。
この発表で特に衝撃的だったのは、ロシア政府がソーシャルメディアをはじめとする新しいコミュニケーションツールをフル活用して、独自の筋書きを拡散したことだ。ロシア政府が出資し、国際放送を提供するテレビ局ロシア・トゥデイ(RT)は、ユーチューブで無料の番組を配信している。当時はマレーシア航空17便とウクライナ紛争について、ロシア政府に都合の良い内容を拡散していた。
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ロシア政府が利用しているソーシャルメディアはユーチューブだけではない。2013年には諜報機関の一部門として、インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)を立ち上げている。ソーシャルメディアを利用して、公開されている他国の人々のグループに潜入し、ロシア政府の方針通りにメンバーを洗脳するのが任務だ。IRAの最初の標的はウクライナだったが、やがて西側諸国に矛先を転じた。2016年の米国大統領選挙を標的にしたことはよく知られている。そして、実はそれ以前にヨーロッパを標的にしてことを、私は仕事を通じて目の当たりにしていた。