じじぃの「最悪のシナリオ・私たちは何をすべきか!南極の氷に何が」

研究は50年前の“好奇心”から ノーベル物理学賞・真鍋淑郎さんnews23に語った喜びの声【ノーカット】

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=k5ixEvfYC5E

真鍋淑郎氏にノーベル物理学賞 気候変動のモデルを開発

ノーベル賞受賞・真鍋淑郎氏が20年前に語った「温暖化問題への処方箋」

2021.10.7 週刊ダイヤモンド
真鍋淑郎 まなべ・しゅくろう/1931年、愛媛県生まれ。
53年東京大学理学部地球物理学科卒、58年同大学院博士課程修了後、米国気象局に入る。67年地球温暖化のメカニズムを解明した理論を発表し、温暖化予測の先鞭をつけた。68年米国海洋大気庁(NOAA)地球流体力学研究所 上席気象研究員兼プリンストン大学客員教授。97年より地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長。01年に同領域長辞任、プリンストン大学上席研究員に。
https://diamond.jp/articles/-/284160

『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』

杉山慎/著 中公新書 2021年発行

はじめに より

少しぐらい温暖化が進んだところで、極寒の南極にある氷床が急激に融け始めることなどありえない――。ちょっと前まで、多くの研究者がそう信じていた。むしろ、温暖化で雪がたくさん降るようになって南極の氷が増える、そんな話を耳にした方もいるだろう。
現に、2001年に出版された国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第3次評価報告書では、今後の気温上昇にともなって降雪量が増え、氷が増加して海水準の上昇を抑える可能性が記されている。しかし、それから20年後、2021年に公開されたIPCC第6次評価報告書では、南極で失われる氷が主要因となって、21世紀末までに海水準が2メートル近く上昇する可能性も否定できない、という予測に改められた。
これまでの研究が何か間違っていたのだろうか? そうではない。21世紀に入ってから南極を観測する技術が飛躍的に向上して、それまでわからないことが多かった氷床の研究に大きな進歩をもたらしたのである。実際この分野では、10年前の教科書は古くてとても使えない。
最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる氷の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。

終章 そして、私たちは何をすべきか―一“最悪のシナリオ”vs.科学と社会の力 より

IPCC第6次評価報告が示す未来

人間活動が気候変動の原因

IPCCが出版する報告書の冒頭には、「政策決定者に向けた要約」という別冊が付される。気候変動の専門家でなくても、膨大な本文のエッセンスを理解できるように工夫された、短くインパクトのある総集編である。現在の気候変動について、最も大切なメッセージを凝縮したこの要約を読んで、私が感じたふたつのポイントを紹介したい。
ひとつ目は、今起きている急激な気候変動の原因が「人間活動」にあることを明言している点である。要約は次の一文で始まる。「人間活動の影響で、大気、海洋、陸地が温暖化したことに疑う余地はない」。ちなみに第5次評価報告の要約は、「気候システムの温暖化は疑う余地はない」で始まっていた。もちろん8年前も「人間活動の気候への影響は明瞭」とされていたが、今回最初の一文で強く記されるようになったのは印象的である。
現在の気温を19世紀と比較すると、温室効果ガスの増加によって1.5度温暖化している。またその一方で、大気汚染によって空気中に微粒子が増え、太陽光がさえぎられるようになった結果、気温が0.4度低下したこともわかっている。温室効果ガスも微粒子も、その変化の原因は人間活動である。すなわち、差し引き1.1度が人間活動による気温上昇といえる。

現在の気候変動がいかに異常か

ふたつ目のポイントは、いまの地球に起きている気候と環境の変化がどのくらい異常か、過去と比較しながらより具体的に示している点である。
現在の空気に含まれる二酸化炭素の濃度は、過去200万年のあいだ記録されたことのない高い値を示している。気温は、6500年前に起きた温暖化イベントを超えており、今と同じくらい気温の高い時期を探すには、12万5000年前までさかのぼる必要がある。北極海の海氷は過去1000年にわたって例のないほど小さくなっており、氷河は過去2000年で最大のスピードで縮小している。
このような記述するためには、過去の気候と循環について正確な理解が必要だ。すなわち、氷コアの分析に代表される、古環境の研究が進んでいることの現れである。何千年も何万年も経験したことがない変化だと知れば、私たちが今経験している気候がいかに異常か実感することができる。

おわりに より

2020年2月に本書執筆の打診を受け取り、その直後に南米パタゴニアの氷河へ調査に出かけた。滞在先のアルゼンチンで国境が封鎖され、逃げるように帰国したのが3月末。以来、世界は新型コロナウイルスにもてあそばれている。そんな想定外の状況にあっても、気候変動に対する社会の危機感は薄れることがない。絶え間なく報じられる異常気象と自然災害の数々。温暖化対策を求める声は明らかに強まっている。
2021年の夏、国内では九州を中心とした広い範囲で豪雨が続き、「線上降水帯」という聞き慣れない言葉が日常的に使われるようになった。一方、北海道では7月と8月の気温が過去最高を更新し、札幌で開催されたオリンピックマラソンも厳しい暑さに見舞われた。北米では6~7月に摂氏50度に達する気温が記録され、1000年に一度の熱波と報じられている。8月にはグリーンランド氷床の最高地点で、観測史上初めて(雪ではなく)雨が降ったという。

さらに2021年10月、今度は嬉しいニュースであるが、ノーベル物理学賞が気候変動の研究者に贈られることが決まった。受賞者の一人、真鍋淑郎(まなべしゅくろう)氏は気候モデル開発の先駆者として、温室効果ガスが地球に与える影響の理解に決定的な役割を果たした。

また、共同で受賞したクラウス・ハッセルマン氏は、最新のIPCC評価報告書が強調した「人間活動と気候変動の関係性」を明らかにした立役者である。地球科学がノーベル賞の対象となるのは非常に珍しい。それはすなわち、気候変動が人類にとって最も緊急かつ重要な問題のひとつであるという強い訴えかけでもあるのだろう。
気候変動の影響拡大が止まらない今、地球最大の氷に何が起きているのか、またこの先何が起きるのか。南極氷床を正しく理解することが急務となっている。