じじぃの「気候変動と地球の未来・2500年の南極!南極の氷に何が」

Climate change: understanding the facts (Vostok ice core)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8BgD9xul16g

ボストークコアより復元された過去42万年の二酸化炭素濃度

縦軸は温度と塵、横軸は時間(年)

観測された影響と将来予測

●上昇する海面水位
海面水位の上昇も見逃せない変化です。世界の平均海面水位は、21 世紀末には、最も温暖化が進む「RCP8.5」シナリオで 45 ~ 82cm、最も温暖化を抑えた「RCP2.6」シナリオで26 ~ 55cm 上昇すると予測されています。
IPCCの第5次評価報告書は、第4次評価報告書と比べ、陸域の氷の寄与に関するモデリングが向上しており、この結果、第4次評価報告書よりも予測の確信度が高まっています。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/stop2015/stop2015_ch3.pdf

氷床コア

ウィキペディアWikipedia) より
氷床コア(ice core)は氷河や氷床から取り出された氷の試料のことで、古気候や古環境の研究に用いられる。
氷コア、雪氷コアとよばれることもある。氷床コアを用いることで、過去の季節変化や古気候・古環境、過去の気温や大気の成分などを推定・復元することができる。氷床コアはここ80万年の地球規模の気候変化の分析において重視されている。また氷床コアの氷は一般に下に向かうにつれて古くなる。
適切な場所から得られるコアは撹乱が少ないので、数十万年にさかのぼる詳細な気候変化の記録が得られる。その記録には、気温、海水量、蒸発量、化学物質や低層大気の成分、火山活動、太陽活動、海洋の生物生産量等様々な気候に関する指標が含まれる。これらの記録は同じ層では同じ年の状態を保存しており、氷床コアを古気候研究に非常に有用なものにしている。
●氷床コアの記録
氷床コアを構成する氷中に含まれる酸素などの安定同位体の分析は、気温と世界的な海水準の変化と対比することができる。
氷の気泡に含まれる含有大気を分析することによって、特に二酸化炭素等の大気組成を明らかにすることができる。火山の噴火によって同定できる特徴的な火山灰も記録されている。ベリリウム10の集積は、宇宙線の強度の変化と深い関係があり、それは太陽活動の指標となる。含まれる塵(風成塵)は砂漠化の度合いや風の強さと関係が深い。

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『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』

杉山慎/著 中公新書 2021年発行

はじめに より

少しぐらい温暖化が進んだところで、極寒の南極にある氷床が急激に融け始めることなどありえない――。ちょっと前まで、多くの研究者がそう信じていた。むしろ、温暖化で雪がたくさん降るようになって南極の氷が増える、そんな話を耳にした方もいるだろう。
現に、2001年に出版された国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第3次評価報告書では、今後の気温上昇にともなって降雪量が増え、氷が増加して海水準の上昇を抑える可能性が記されている。しかし、それから20年後、2021年に公開されたIPCC第6次評価報告書では、南極で失われる氷が主要因となって、21世紀末までに海水準が2メートル近く上昇する可能性も否定できない、という予測に改められた。
これまでの研究が何か間違っていたのだろうか? そうではない。21世紀に入ってから南極を観測する技術が飛躍的に向上して、それまでわからないことが多かった氷床の研究に大きな進歩をもたらしたのである。実際この分野では、10年前の教科書は古くてとても使えない。
最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる氷の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。

第5章 気候変動と地球の未来―一〇〇年後の氷床変動シミュレーション より

気候変動の80万年史

氷コアに刻まれた記録

南極氷床は、最も深い場所で4000メートルにも達する。その氷は数十万年、場所によっては100万年に達する長い時間をかけて成長したものである。すなうち、これまでに降り積もった雪が地層のように保存されている。
特殊なドリルを使えば、「氷コア」と呼ばれる直径10センチメートルほどの細長い氷サンプルを、氷床の奥深くから採取できる。この氷コアを分析することで、気温や大気成分など、過去の地球環境を復元することができるのだ。いわば、数十万年にわたる環境変動の記録装置である。
たとえば氷の中に含まれている不純物を分析すれば、その氷ができたころに大気中を舞っていた塵(微粒子)の量と成分がわかる。また、雪が圧縮されてできた氷には当時の空気が含まれているので、それを取り出して分析すれば二酸化炭素濃度が復元できる。さらに氷を形成する酸素原子と水素原子には、少し重さの違う「同位体」が含まれていて、その割合は雪が降ったときの気温で決める。その関係性を使えば、同位体の割合から当時の気温が推定できる。

地球規模で起こる複雑な連鎖反応

この先100年の氷床変動を考える助けになれば、と思って示した過去の環境変動データだが、これ自体があまりにも刺激的で、興味深い疑問に満ち溢れている。
地球科学を目指す若者はこれらのノコギリ歯(画像参照・グラフ)に魅せられる人も多く、古環境の復元は人気の高い研究分野である。無秩序にも見える氷河の短期的な変動に取り込む私にとっては、地球環境がこれほど整った規則正しい変化を示すことに驚かされる。さらにもうひとつ、私自身がとても強く興味を掻き立てられるのは、別々の理屈で変動しているように見える地球環境の各要素が、実はお互いにとても強い影響を与え合っており、一筋縄では説明できない因果関係を持っているという点だ。
たとえば、懸案であった気温と二酸化炭素のよく似た変動には、次のようなメカニズムが有力な仮説として挙げられている。
まず、規則正しい気候変動のきっかけになるのは、地球の公転と自転に関わる周期的な変動で、ミランコビッチ・サイクルと呼ばれる。自転軸の傾きと太陽の周期をまわる公転軌道の具合で、ある時期に北半球における夏の日射が強くなる。その結果、氷床の一部が大きく融解して北大西洋に淡水を流し込む。海水が薄まると沈み込みが弱まって、熱帯から北半球への熱の供給が止まる。行き場を失った熱は反対方向の南半球に選ばれて、南極と南大洋では温暖化が始まる。
この変化は大気中の二酸化炭素を増加させる。なぜならば、南極周辺で気温が上がれば、海水が凍りづらくなる。すると南極低層水の沈み込みが弱まって、深海に運ばれる二酸化炭素が減少するからだ。また水温が上がった海水からは、温めた炭酸飲料が盛んに泡立つように、溶け込んでいた二酸化炭素が大気中に放出される。濃度が上がった大気中の二酸化炭素によって温室効果が強まり、気温はますます上昇する。その結果、氷床がさらに崩壊・融解して淡水が海に流入し、いわゆる「正のフィードバック」がかかる――。こうした地球規模の連鎖反応がイメージできるだろうか。
二酸化炭素と気温を結びつける相互作用は、他にも仮説がある。たとえば、氷期には空気中を舞う塵が増える(画像参照)。この塵が海に落ちると、そこに含まれる成分を栄養源として生物活動が盛んになる。その結果、生物の遺骸に含まれる炭素が海の底に沈んで固定され、海の表面ではそれを補うように大気中の二酸化炭素が吸収される。すなわち、寒くなると大気の二酸化炭素濃度が下がる、という関係とつじつまが合う。

南極を覆う「不穏なシナリオ」

2500年の南極

温室効果ガスを減らすよう最大限の努力が行われた場合(RCP2.6 シナリオ)、2500年までに生じる氷床融解は海水準に直して25センチメートル。2100年の段階で12センチメートルまで上昇した後、その変化は比較的ゆっくりとしている。
これが温室効果ガスの排出が十分に抑えられたときに期待できる最善の値、と理解してほしい。この程度の変化であれば、南極氷床の見た目は今とそれほど変わらない。
一方で、今後ますます排出量が増えれば(RCP8.5 シナリオ)、氷床融解によって起きる海水面上昇は15メートルを超える。前章で日本国土への影響を見積もった5メートルの3倍である。
全質量の4分の1に相当する氷を失った南極は、見るも無残な形となる。棚氷を失った氷床は陸の上まで後退し、沿岸には陸地が現れる。西南極の氷はほとんど消えて、南極半島は細長い島となってしまう。

あくまでここで示した結果は、ある氷床のモデルによる、ふたつの極端な気候状態を仮定したシミュレーション結果である。とはいえ、その予測値が持つ広い幅と、上限値(海水準相当15メートル)の大きさには驚かされる。