じじぃの「巨大な氷・南極の氷の変化をどう知るか?南極の氷に何が」

Space lasers probe Antarctica, new lakes discovered!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=FgNTyOvTSUE

ICESat data swath over Antarctica

NASA Space Lasers Map Meltwater Lakes in Antarctica With Striking Precision

Jul 7, 2021 NASA
From above, the Antarctic Ice Sheet might look like a calm, perpetual ice blanket that has covered Antarctica for millions of years.
But the ice sheet can be thousands of meters deep at its thickest, and it hides hundreds of meltwater lakes where its base meets the continent’s bedrock. Deep below the surface, some of these lakes fill and drain continuously through a system of waterways that eventually drain into the ocean.
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2021/nasa-space-lasers-map-meltwater-lakes-in-antarctica-with-striking-precision

『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』

杉山慎/著 中公新書 2021年発行

はじめに より

少しぐらい温暖化が進んだところで、極寒の南極にある氷床が急激に融け始めることなどありえない――。ちょっと前まで、多くの研究者がそう信じていた。むしろ、温暖化で雪がたくさん降るようになって南極の氷が増える、そんな話を耳にした方もいるだろう。
現に、2001年に出版された国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第3次評価報告書では、今後の気温上昇にともなって降雪量が増え、氷が増加して海水準の上昇を抑える可能性が記されている。しかし、それから20年後、2021年に公開されたIPCC第6次評価報告書では、南極で失われる氷が主要因となって、21世紀末までに海水準が2メートル近く上昇する可能性も否定できない、という予測に改められた。
これまでの研究が何か間違っていたのだろうか? そうではない。21世紀に入ってから南極を観測する技術が飛躍的に向上して、それまでわからないことが多かった氷床の研究に大きな進歩をもたらしたのである。実際この分野では、10年前の教科書は古くてとても使えない。
最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる氷の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。

第2章 南極の氷の変化をどう知るか――IPCC報告書から最新の観測手法まで より

IPCC報告書の変遷

「2500ギガトン」のインパク

2019年にIPCC気候変動に関する政府間パネル)が公表した「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書」によれば、1992年から2016年までの24年間に、南極氷床は2500ギガトンの氷を失っている。いくつもの研究成果にもとづいたこの数字は、現在の南極氷床が縮小傾向にあることをはっきりと示している。「2500ギガトン」とは、果たしてどのくらいの量なのか。
「ギガトン」で示される氷・水の質量と、海水面の変化量、すなわち「海水準相当」のあいだには「360ギガトン=海水準相当1ミリメートル」という関係がある。360ギガトンの水が海に流れ込めば、世界中の海水面が1ミリメートル上昇する、という意味だ。
この関係式を使って計算すれば、最近24年間で失われた南極の氷によって、海水面が約7ミリメートル上昇したことになる。上昇の速さに直せば、年間0.3ミリメートル。といわれても、実感しずらい数字かもしれない。まずは、南極氷床の氷が減っているということを知ってほしい。第4章で、実際に観測されている海水準上昇、グリーンランド氷床や山岳氷河の影響、氷河氷床以外による影響などとあらためて比較する。
最近では世界中の研究グループが、さまざまな手法で氷床変動の解明に取り組んでいる。その結果、いつどれだけの氷が増減したか、ますます詳しいデータが報告されるようになった。ここからは最新の研究成果を紹介しながら、南極のどこで氷が減っているのか、失われる氷量の経年変化などを説明して、氷床変動の実態とそのメカニズムに迫っていく。

標高から氷の変化を知る

人工衛星による標高測定

観測手法のひとつ目は、表面標高の測定である。氷床表面の高さを繰り返し調べて比較すれば、氷の厚さの変化がわかる。これを南極全域で行うことができれば、氷床の体積変化を知ることができる。標高の測定は地図をつくるための基本技術なので、実績のある手法がたくさんある。しかしながら南極全域という広い範囲で、何度も繰り返して正確な測定を行うのは難しい。それを実現したのが、人工衛星に搭載された高度計である。
数百キロメートル上空を飛ぶ人工衛星から、どうやって地球表面の標高を測定するのか。使うのは、電磁波の反射を利用して距離をはかる高度計だ。山に向かって叫べば遅れてこだまが返ってくるように、人工衛星から地球に向けて電磁波を送れば、地表面までの距離が遠いほど遅れて反射波が戻ってくる。衛星の軌道位置が正確にわかっていれば、その遅れから逆算して直下の標高を知ることができる。
このような測定を連続して行えば、人工衛星の軌道に沿った標高が得られる(図.画像参照)。高度計には、レーザーが放つ可視光線、あるいは電子レンジにも応用されているマイクロ波が使われている。波長が異なるものの、いずれも電磁波の一種である。