じじぃの「崩壊する棚氷・加速する氷床融解?南極の氷に何が」

Antarctica Pine Island Glacier loses ice chunk 4X the size of Manhattan

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=y_cXigcvWgs

パイン・アイランド氷河盆地の氷が融け出している

崩壊を始めた南極西部の氷河

2014.05.15 ナショナルジオグラフィック日本版サイト
地球温暖化によって南極西部の巨大な氷河が崩壊を始めている。12日、大幅な海面上昇を招く可能性を警告する2つの重要な研究論文が発表された。
南極西部の厚さ3.2キロの氷河は、あと数千年は安定した状態を保つと考えられてきた。ところが実際は、数百年後には完全に消失する可能性が高いと論文は示唆している。 カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)とNASAの共同研究チームによれば、西南極氷床で急激に進む融解は不可逆的で、このままでは丸ごと海に沈んでしまうという。
パイン・アイランド氷河盆地(Pine Island Glacier Basin)などの氷河では、降雪を上回る速度で氷が溶け出しており、その影響で南極の氷が薄くなっている。スウェイツ氷河はいずれ海に沈み、一帯の氷が不安定な状態に陥る恐れがあるという。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9235/

棚氷

ウィキペディアWikipedia) より
棚氷(たなごおり、英: ice shelf)とは、陸上の氷河または氷床が海に押し出され、陸上から連結して洋上にある氷を指す。その上面は多くの場合、平坦な形状となっている。氷棚(ひょうほう)とも呼ぶ。
洋上にある氷という点では、海氷と似ているが棚氷は陸上で形成され、海氷よりもだいぶ厚くなることがある点が異なる。海氷は通常、数m程度の厚さであるが棚氷はもっと厚く数十mの厚さとなることがある。

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『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』

杉山慎/著 中公新書 2021年発行

はじめに より

少しぐらい温暖化が進んだところで、極寒の南極にある氷床が急激に融け始めることなどありえない――。ちょっと前まで、多くの研究者がそう信じていた。むしろ、温暖化で雪がたくさん降るようになって南極の氷が増える、そんな話を耳にした方もいるだろう。
現に、2001年に出版された国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第3次評価報告書では、今後の気温上昇にともなって降雪量が増え、氷が増加して海水準の上昇を抑える可能性が記されている。しかし、それから20年後、2021年に公開されたIPCC第6次評価報告書では、南極で失われる氷が主要因となって、21世紀末までに海水準が2メートル近く上昇する可能性も否定できない、という予測に改められた。
これまでの研究が何か間違っていたのだろうか? そうではない。21世紀に入ってから南極を観測する技術が飛躍的に向上して、それまでわからないことが多かった氷床の研究に大きな進歩をもたらしたのである。実際この分野では、10年前の教科書は古くてとても使えない。
最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる氷の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。

第3章 崩壊する棚氷、加速する氷河――いま「氷の大陸」で何が起きているか より

なぜ氷が失われているのか

パインアイランド氷河の異変

氷床変動の原因が氷の流動にあることは、早い段階から指摘されていた。西南極アムンゼン海と呼ばれる地域には、南極最大の氷流出量を持つパインアイランド氷河が流れ込んでいる。年間数キロメートルもの速度で氷を海に吐き出すこの大きな氷河は、2000年ごろからその急激な変動が注目されている。
パインアイランド氷河の表面標高変化、すなわち氷の厚さの変化を見てみよう。ICESatの高度計データによれば、2003~2019年のあいだに氷河の末端付近で、厚さにして40メートルの氷が失われた。ざっと10階建てのビルの高さである。
興味深いのは、このような氷の減少が、流れが速い氷河の上に集中している点である。もしこの変化が積雪の減少や氷の融解によるものであれば、この地域一帯にわたって同じような傾向が見られるはずだ。つまり速く流れる部分だけに起きた変化は、氷河から海へ流出する氷が増加して、氷河は痩せていることを示しているのだ(ちなみに、棚氷は海に浮いているので、氷が薄くなっても表面標高の変化は小さい)。
実際、パインアイランド氷河が流れる速度は、1996~2007年の11年間で40パーセントも速くなっている。降雪・融解量と、上流側から氷河に供給される氷の量に目立った変化はない。海に流れ出る氷だけが1.4倍になれば、氷河が氷を失って薄くなるのもうなずける。前章で紹介した通り、すでに2001年のIPCC評価報告書でもパインアイランド氷河の加速については言及されていた。その後の研究によって、この記述の重要性が確認されたわけである。
パインアイランド氷河に続いて、西南極南極半島のいくつもの氷河において、同じような変化が報じられた。このような地域的な現象は、氷床全域の標高変化からも明らかである。最近のデータを見ると西南極東南極に点在する流れの速い氷河に、氷の減少が集中している。その一方で、東南極を中心とした氷床内陸部における標高変化は小さい。

氷床は温暖化した大気にさらされてじわじわ融けているのではない。海へと流れる氷河に起きた異変によって、いわばダイナミックに氷を失っているのである。