じじぃの「はじめに・少しぐらい温暖化が進んだところで?南極の氷に何が」

【極地研公式】#95 南極氷床~地球最大の氷に何がおきているのか?~ 新学術領域研究 『熱ー水ー物質の巨大リザーバ 全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床』

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=zX6psshvTjY

図2:南極氷床と氷床底の基盤高度


地球科学の最前線・天変地異の秘密に迫る

2022年3月23日 NHK BS1
【語り】谷昌樹
地球が誕生して46億年。火山噴火・巨大地震・大型台風など、天変地異は繰り返されてきた。
今、その発生メカニズムの研究が進んでいる。そこから見えてきたのは、様々(さまざま)な自然現象が複雑に影響しあっていることだ。防災の観点からも注目を集める地球科学の最前線に迫る!
フランス・レンヌ大学のフィリップステアは地形学の専門家。
火山噴火×海流。
フランス国立科学研究センター・ディディエスィンゲドゥは大規模な噴火が地球環境に影響を及ぼしたと考えている。
大気の川×南極。
米国航空宇宙局・ドゥアンワリサーは人工衛星のデータを解析し大気の中に含まれる水蒸気の流れを追っている。
地球科学環境研究センター・ヴィンセントファヴィエは南極の氷の変化を研究している。
https://www.nhk.jp/p/ts/22LYVK59MV/episode/te/LPVLQ3KR9L/

20190420|学術ニュース&トピックス|東京大学大気海洋研究所

西南極タイプの氷床の融解には500年ほどしかかからない ~過去に起こった温暖化と北欧氷床の急激な融解、それに海洋循環との関係~
現在進行中の地球温暖化でもっとも危惧されている現象のひとつが、海水準の上昇です。
特に極域に存在する氷床の融解は、それらが融解するとメートル規模での変化を引き起こす可能性があります(図1)。その中でも特に脆弱性が指摘されているのが、西南極氷床の安定性です。というのも、この氷床は海底に直接着底しており、海水温の上昇や海流の変化により不安定化することが大いに考えられるからです(図2)。
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2020/20200421.html

『南極の氷に何が起きているか 気候変動と氷床の科学』

杉山慎/著 中公新書 2021年発行

はじめに より

南極といえば、カチコチに凍りついた低温の世界が思い浮かぶだろう。実際、内陸部では冬の気温がマイナス70度に達し、比較的寒さが緩む沿岸部ですら、雪や氷が融けるのは夏のわずかなひとときだけだ。この極寒環境にある南極を特徴づけるのが、大陸を覆う「氷床」である。
南極氷床の面積は日本の約40倍、地球最大の氷のかたまりである。氷の厚さは平均2000メートルで、場所によっては4000メートルを超える。もし全てが融けて海に流れ込めば、地球の「海水準」(陸地に対する海水面の高さ)は約60メートル上昇する。
この巨大な南極氷床床が、これまで考えられていたよりも、はるかに急激な変化を遂げていることが明らかになってきた。数万年の時間スケールで氷床が大きく変化することは以前から知られていたが、現代に暮らす私たちが影響を受ける数十年スケールでの振る舞いがわかってきたのは、つい最近のことである。

少しぐらい温暖化が進んだところで、極寒の南極にある氷床が急激に融け始めることなどありえない――。ちょっと前まで、多くの研究者がそう信じていた。むしろ、温暖化で雪がたくさん降るようになって南極の氷が増える、そんな話を耳にした方もいるだろう。

現に、2001年に出版された国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第3次評価報告書では、今後の気温上昇にともなって降雪量が増え、氷が増加して海水準の上昇を抑える可能性が記されている。しかし、それから20年後、2021年に公開されたIPCC第6次評価報告書では、南極で失われる氷が主要因となって、21世紀末までに海水準が2メートル近く上昇する可能性も否定できない、という予測に改められた。
これまでの研究が何か間違っていたのだろうか? そうではない。21世紀に入ってから南極を観測する技術が飛躍的に向上して、それまでわからないことが多かった氷床の研究に大きな進歩をもたらしたのである。実際この分野では、10年前の教科書は古くてとても使えない。
最大の異変は、氷と海の境界で起きている。海によって融かされる氷の量が増加し、海へと切り離される氷山の量が増えた結果、南極の氷が急速に減少していることが明らかになった。その背景には、気候変動に影響を受けた海の変化がある。この大きな変化の実態をさらに解明するために、私たち研究者は南極の沿岸部で氷と海を調べているのだ。
巨大な氷床が融解すれば、その影響は地球全体におよぶ。融けた水が海に流れ込めば、海水準が上昇するだけでなく、海水の塩分と密度が変化して海洋の循環が滞る。地球全体に熱を輸送する海洋循環が滞れば、気候と循環へのインパクトははかりしれない。もちろん、私たちの社会もその影響から逃れられない。
本書では、「南極氷床とは何か」の説明からスタートして、「なぜ氷床が変動するのか」「どうやって氷床の変化を調べるのか」「南極の氷が融けるとどうなるか」、そして「今、氷床に何が起きていて、この先どうなるのか」といった問いに対する、最新の知見を伝えたい。私たちが南極で行っている観測現場の様子も含めて、現在進行形のサイエンスを楽しんでほしい。
さあ、それでは「氷河と氷床」から始めよう。