じじぃの「秦の始皇帝・円周率・10万桁まで求めよ!中国・短編小説集『円』」

The History of the Number Pi | OpenMind

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https://www.youtube.com/watch?v=sb6pq8MWgEE

   

円 劉慈欣短篇集 Amazon

劉慈欣(著)
円周率の中に不老不死の秘密がある――10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻(けいか)は300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した!
第50回星雲賞に輝く「円」。麻薬密輸のために驚愕の秘密兵器を投入するデビュー短篇「鯨歌」。貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の“最後の授業"が信じられない結果をもたらす「郷村教師」。漢詩に魅せられた超高度な異星種属が、李白を超えるべく、あまりにも壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」。その他、もうひとつの五輪を描く「栄光と夢」、少女の夢が世界を変える「円円のシャボン玉」など、全13篇。中国SF界の至宝・劉慈欣の精髄を集める、日本初の短篇集。

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円周率πが現われる世界(4)-3月14日は円周率(π)の日-

2017年11月20日 ニッセイ基礎研究所
世界的に3月14日は円周率πの日であると述べたが、世界では、その他に「円周率の日」または「円周率近似値の日」と呼ばれる日が存在している。

中国では、12月21日が「円周率の日」となっている。

この日は新年から数えて355日目になっているが、中国の南北朝時代の数学者である祖 冲之(そ ちゅうし)がπの値を 3.1415926 と 3.1415927 の間であるとして、その率を 355/113 (=3.141592 …)と定めたことに由来している。因みに、分母にあたる1時13分にお祝いが行われるとのことである。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=57204?site=nli#:~:text=%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%8112%E6%9C%8821,%E3%81%AB%E7%94%B1%E6%9D%A5%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

短編小説集『円』

劉慈欣/著、大森望、泊功、その他/訳 早川書房 2021年発行

円   秦の首都・咸陽、紀元前227年 より

荊軻(けいか)は、長机に置いた絹の巻物を広げた。秦の始皇帝は、絹の地図の上にゆっくりと現れる敵国の山河を見て、安堵を覚えた。地図に描かれている山河は、容易に把握できる。しかし、実際の土地に立つと、無力感を抱かずにはいられない。
荊軻は、燕王の降伏のしるしを献上するための使者として咸陽宮を訪れていた。
荊軻が地図が最期まで開き終えたとき、冷たい光がきらりと輝いて、鋭利な短刀が出現した。咸陽宮の大広間の空気が一瞬にして凍りついた。
大臣たちは、始皇帝から3丈(約10メートル)離れたところに立ち、だれひとり身に寸鉄も帯びていない。武装した衛兵はさらに遠く、正殿の階段下に控えている。
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秦の始皇帝荊軻が外に出てみると、その日も快晴だった。青い空に太陽と月が同時に出ている。
「太陽と満月はどちらも真円です」荊軻は空を指差して、「地上世界には存在しない真円を、天はひとつならず2つまで空に配置し、それらが空でもっとも目立つ存在となって、きわめて明解に天のことわりを伝えています。すなわち、天の神秘は縁の中にある、と」
「しかし、円は直線を除けばもっとも単純なかたちであろう」秦の始皇帝はそう言いながら、正殿に戻ろうときびすを返した。
「しかし陛下、この単純なかたちの中に、目に見えない深い謎があります」荊軻は皇帝のあとを追いながらそう言った。長机に戻ると、また筆をとって、今度は絹布に長方形を描いた。「この長方形をごらんください。長辺が4寸、短寸が2寸です。天の言葉は、このかたちの中にもあります」
「どんな言葉だ?」
「天は、この長方形の長辺と短辺の比が2である、と言っております」
「朕を愚弄するのか?」
「めっそうもありません。いまのは単純な例です。次にもうひとつ」
荊軻は新たな長方形を描いた。
「この四角の長辺は9寸、短辺は7寸で、このかたちにはより豊かな天の言葉が込められています」
「これもまた、じつに単純に見えるが」
「そうではありません、陛下。この長方形の長辺と短辺の比率は、1.285714285714285714……となります。”285714”という数字列が何度もくりかえされるのです。どこまでも計算することはできますが、終わりがありません。単純に見えて、そこには豊かな意味があります」
秦の始皇帝はうなずいた。「おもしろい」
「では、天が与えたもっともすばらしいかたちである”円”を見てみましょう」荊軻は先ほど描いた縁の中に、中心点を通過する1本の直線を引いた。「陛下、円周とこの直径の比、すなわち円周率は、無限に長い数列となります。3.1415926……とはじまって無限につづき、しかもどこまで行っても、先ほどのようなくりかえしはありません」
「くりかえしがない、と?」
「はい。この世界と同じくらい大きな布をご想像ください。この数字の列は、蠅の頭ほど小さな文字で空の端から端まで書き、また次の行へと書きつづけ、そうやって世界を覆う布のすべてを数字で埋めつくしたとしても、数字に終わりはありませんし、くりかえしもありません。陛下、この無限に長い数字の中に、天の神秘があるのです!」
秦の始皇帝は表情を変えなかったが、その日が輝いていることが荊軻にはわかった。「その数字を手に入れたとして、天の言葉をそこからどうやって読み解く?」
「いろいろな方法があります。ひとつは、数字を座標として使うことで、図を描けます」
「どんな図になる?」
「わかりません。宇宙の謎を示す大きな絵かもしれませんし、ひとつの文章かもしれませんし、もしかしたら本かもしれません。しかし、重要なのは、内容を解読するのにじゅうぶんな桁まで円周率を計算することです。そのためには数万から数十万桁が必要になると思いますが、いまはまだ100桁ほどしか計算できておらず、隠れた意味はほとんどわかりません」
「たったそれだけか?」
「たったそれだけを計算するのに、わたくしは10年を費やしたのです。陛下、円周率は、円に内接する多角形と外接する多角形の外周の長さを求めることで近似値が得られます。多角形の辺の数が多いほど精度がたかくなり、桁数が増えますが、計算量は人間の力を超えるほど飛躍的に増大します」
秦の始皇帝は、円とその中心を横断する直線を見つめながらたずねた。「不老不死の謎もこの中に見つかるのか?」
「陛下、きっと見つかるはずです!」荊軻は興奮した口調で言った。「生と死は天が世界に定めたもっとも基本的な法則です。ですから、生と死の謎の答えはこの中にあるはずですし、もちろん不老不死の謎の答えもこの中にあるでしょう」
「では、円周率を計算し、2年後には1万桁、5年後には10万桁まで求めよ」
「陛下、それは……まったく不可能です!」
秦の始皇帝が机に向かって長い袖を振ると、図が描かれた絹の布と筆と墨壺が床に落ちた。「必要なだけの人手と資源を要求するがよい」皇帝は鋭い視線を荊軻に向けた。「ただし、期限までに計算を完了せよ」