じじぃの「歴史・思想_531_老人支配国家・日本の危機・英国のEU離脱」

Brexit explained: what happens when the UK leaves the EU?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=7eoDwvl0QGk

Europe indeed appears to be in bad shape.

Who is really ‘wrecking’ Europe?

1 Feb 2019
Europe indeed appears to be in bad shape.
An Italian-Austrian-Hungarian-Polish axis of xenophobic populism is coalescing in the heart of the continent, Swedish Democrats are threatening to derail what’s left of the quintessential European liberal welfare state in the north, and a powerful far right is tearing apart the centrist German political establishment. To the west, Brexit UK and Trumpian US are a cause of much anxiety, to the east, scheming Russia and an increasingly authoritarian Turkey are a constant source of tension. And from the south, millions of forced migrants are on the move seeking safe haven on European shores.
https://www.aljazeera.com/opinions/2019/2/1/who-is-really-wrecking-europe

文春新書 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。「日本型家族」だ!
【目次】
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
2 日本は核を持つべきだ
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ

Ⅱ アングロサクソンダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
5 それでも米国が世界史をリードする
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
7 それでもトランプは歴史的大統領だった

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本

ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化磯田道史氏との対談)
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)

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『老人支配国家 日本の危機』

エマニュエル・トッド/著 文春新書 2021年発行

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する より

欧州はユーロとともに死滅しつつある

諸悪(反EUカタルーニャの分離独立運動など)の根源は、通貨ユーロです。現在のヨーロッパの問題が、すべてユーロに起因していると言っても過言ではない。ヨーロッパは、今、ユーロとともに死滅しつつあります。
ユーロは、1999年に決済用仮想通貨として、2002年に現金通貨として導入されましたが、もともと1991年のマーストリヒト条約でお「単一通貨を遅くとも1999年までに導入する」という合意に基づくものでした。
この条約は、1992年にフランスでも国民投票で僅差(賛成51%)で批准されましたが、私は反対票を投じました。私自身の人類学的・歴史学的知見から、単一通貨構想は、あまりにも経済至上主義的で、あまりに現実無視の企てに見えたからです。ユーロは、ヨーロッパの歴史や現実の生活を知らない”傲慢な無知の産物””机上の空論”です。政治的選択という以前に、ヨーロッパの歴史と現実の厚みを知る学者として、反対せざるを得ませんでした。
1996年に拙著『新ヨーロッパ大全』(藤原書店)がフランスで文庫化された際、私は序文に「もし今後、通貨ユーロが万が一にも実現してしまうようなことがあれば、この本は、20年後に、集団意識が存在しないなかで強引に進められた国家統合が、なにゆえに『社会』ではなく『無法地帯』しか生み出さなかったかを人々に理解させるだろう」と記しました。「ユーロは必ず失敗する」と、歴史家として、導入以前から断言していたのです。
遠い日本から見れば、ヨーロッパは一枚岩に見えるかもしれませんが、家族形態、言語、宗教、文化などは地域ごとに相当異なります。これほど多様な社会に単一通貨を導入しても、絶対に機能しません。マーストリヒト条約の間違いの元は、その「貨幣信仰」にあります。
EUのエリートたちは、単一通貨によってEU諸国の統合を加速しようとしたのです。これは、1000年にもわたるヨーロッパ史のなかで培われてきたそれぞれの共同体を単一通貨によって数年のうちに融合してしまおう、という急進的なユートピア的夢想です。貨幣そのものに「世界を変える力」まで与えるという無謀な試みなのです。ところが、1980年代半ば以降、EUのエリートに拡がった「アンチ国家」の安易な風潮が「単一通貨ユートピア」を生み出してしまいました。
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しかし、それぞれの国民経済は、通貨管理に関して独自の必要を抱えています。各国は、独自の金融政策、通貨政策をもち、インフレ率をコントロールして失業率を改善するなど自国経済を善導しなければなりません。また「独自の通貨政策」に「独自の財政政策」が伴わねばならない。
ユーロの根本的な欠陥は、各国が、経済上、人口動態上、多様化しているまさにその時に、通貨による強引な統合を強制したことにあります。

英語圏VS.「ドイツ帝国」としてのEU

英国のEU離脱に関しては、「EU離脱に投票して後悔している人がいる」とか「EUとの交渉がうまくいっていない」として、これを否定的に論じる報道が世界中に一般的です。しかし、この見方は浅薄です。
英国との交渉において、EUは強硬姿勢を取っていて、EU離脱の代償としてかなり厳しい条件を英国に課そうとしています。
私の目には、これは、現在的な形態をとった権力闘争、もっと直截(ちょくせつ)に言えば、一種の戦争に見えます。
英国のEU離脱をめぐる対立は、一般に思われている以上に重大な意味を持っています。英国の背後には、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの英語圏が控えています。つまり、「ドイツを中心とするEU」と「英語圏」との対決が生じようとしているのです。

EU側は、「英国には力はない」と英国を過小評価していますが、英国を侮ってはいけません。

議会制民主主義の発祥の地で、国内に対立があり、議論がある。そのため、決断に時間がかかります。戦争を始めるのも簡単ではない。しかし、いったん決断をして、戦争を始めれば、負けたことがない。占領されたことも一度もありません。英国は、世界でも稀な「不敗の国」なのです。さらに英国の背後には、米国を始めとする英語圏の諸国が存在します。この英語圏の諸国の人口は、すでにEU諸国の人口を上回っています。
戦争とは、一方が自分の力を過信する時に起こるものです。今はEUの側が実力以上に自分を強いと思い込んでいる。もし本当に戦いになれば、英国人は本気で戦い、かつてナポレオンを打ち破ったように、ヨーロッパを打ち破るでしょう。
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現在は、EU離脱やユーロ離脱を唱える勢力は強くありませんが、そう主張し始めている人も皆無ではない。マクロンも急激に支持率を下げていますし、1年後にどうなっているかは分かりません。かつてのソビエト崩壊のように、「ユーロ信仰」も、一挙に崩壊する可能性があります。