じじぃの「歴史・思想_528_老人支配国家・日本の危機・英米が世界をリード」

Who Are the 'Five Eyes' and Why Are They Focusing on China?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=oelTL4RTtWM

覇権からみた世界史の教訓 PHP研究所

中西輝政(著)
大英帝国アメリカ合衆国、次に世界を制するのは?
混迷する国際情勢を生き抜くヒントは歴史にあり!

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文春新書 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・トッド

本当の脅威は、「コロナ」でも「経済」でも「中国」でもない。「日本型家族」だ!
【目次】
日本の読者へ――同盟は不可欠でも「米国の危うさ」に注意せよ

Ⅰ 老人支配と日本の危機

1 コロナで犠牲になったのは誰か
2 日本は核を持つべきだ
3 「日本人になりたい外国人」は受け入れよ

Ⅱ アングロサクソンダイナミクス

4 トランプ以後の世界史を語ろう
5 それでも米国が世界史をリードする
6 それでも私はトランプ再選を望んでいた
7 それでもトランプは歴史的大統領だった

Ⅲ 「ドイツ帝国」と化したEU

8 ユーロが欧州のデモクラシーを破壊する
9 トッドが読む、ピケティ『21世紀の資本

ⅳ 「家族」という日本の病

10 「直系家族病」としての少子化磯田道史氏との対談)
11 トッドが語る、日本の天皇・女性・歴史(本郷和人氏との対談)

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『老人支配国家 日本の危機』

エマニュエル・トッド/著 文春新書 2021年発行

5 それでも米国が世界史をリードする より

世界をリードしてきた英米

――2016年は英国のEU離脱トランプ大統領の誕生と、歴史が大きく転換しつつあることを感じさせる出来事が続きました。これは米国の覇権の終わりを意味しているのでしょうか?
その問いに答えるために、まず長期的な視野に立って、世界史のなかで英国と米国が行ってきた「革命」について考えてみましょう。私の考えでは、17世紀末から世界史にリズムを与え、牽引してきたのは、英米です。このことをフランス、日本、ドイツ、ロシア、中国の人々は謙虚に受けとめなければなりません。
米国の政治経済学者であるアセモグルとロビンソンは『国家はなぜ衰退するのか』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)において、名誉革命によって自由主義的な君主製の成立した「1688年」を重要な世界史転換点と見ています。私はと言えば、クロムウェル清教徒革命を始めた「1642年」が重要だと考えています。
いずれにせよ、17世紀に英国が世界で最初に議会制民主主義を発明し、18世紀には最初に産業革命を成し遂げ、1914年の第一次世界大戦に先立つ時代には第一次グローバリゼ―ションを先導しました。
米国は18世紀の終わりに独立戦争(1775~1783年)の過程で民主主義を創始し、19世紀に目覚ましい経済発展を遂げ、1980年代からは、今まさに終わろうとしている第二次グローバリゼ―ションの先頭にいました。
その間、英米以外の国々は、英米から押し寄せてくる政治的経済的な近代化の波に反応し、適応し、またある時は抵抗し、拒否しながら、近代化を押し進めてきたにすぎません。1789年のフランス革命もまた、基本的には先進国だった英国を摸倣したのです。

なぜ英米が世界史を牽引するのか

――なぜ、英米は17世紀以降、世界史を牽引する存在になったのでしょうか? そして、今後もそうであり続けると考えるのはなぜですか?
その理由は、経済学者シュンペーターの「創造的破壊」という概念と深い関わりを持っています。彼は『経済発展の理論』(岩波文庫)で資本主義の本質を考察し、「創造的破壊」起こせなければ資本主義はダイナミックに動かない、という結論に至りました。「創造的破壊」とは、自分が作り出したものを自分自身で破壊し、新しいものを創ることです。英国人と米国人はそれに長(た)けているのです。しかし、それはフランス人、ドイツ人、日本人には難しい。
ではなぜ、英米は資本主義をうまく機能させる「創造的破壊」が得意なのか。その深い理由は、私の考えでは、英米の伝統的家族形態、すなわち「絶対核家族」にあります。絶対核家族においては、子供は大人になれば、親と同居せずに家を出て行かなければならない。しかも、別の場所で独立して、親とは別のことで生計を立てていかなければならない。これらのことが、英米の人々に、シュンペーターの言う「創造的破壊」を常に促していると考えられます。

日本は「アジアの英国」になれる

――トランプ大統領の出現によって、大きく変わり始めた国際情勢のなかで、日本はどのような進路を取ればいいのでしょうか?
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世界が今後ふたたび諸国家の独立を軸に再編されるとしても、英語圏の国々の存在は非常に巨大です。フランスには、米国はトランプ大統領孤立主義に向かうのではないかと言っている人もいますが、それはばかげていると思います。
米国は今後も強大な政治力を発揮して、その周辺環境を最大限コントロールしようとするでしょう。そして米国の周辺環境とは、つまるところ、この惑星全体です。すると、米国は同盟を必要とします。米国が「帝国的な段階」から「求心力のある普遍的支配の段階」へと移行しようとするならば、特定の国々と特別な関係を築こうとするはずです。トランプ大統領はそのような関係構築をすでに英国や他の英語圏の国々と始めています。今後も米国は、自らの力を補完するために同盟国を求めるでしょう。中国やドイツとの対立も辞さないような局面ではなおさらです。
日本は、そのような米国が求める特権的な同盟国になるのに、以前にも増して有利なポジションにいます。米国から見れば、日本との緊密な友好が得られれば、グローバルな同盟圏をつくれることになります。そうなれば、米国はドイツに対抗して、改めて国家を重視する自国と世界秩序の再建を進めつつ、非常に強大であり続けることができます。日本から見れば、米国を中心とした同盟圏への参入ですが、米国から見ても、日本と組むのに優る戦略はないでしょう。
もちろん、トランプは日本に軍事費の増額など、さまざまな要求をしてくるでしょう。しかも、彼の言動や立ち振る舞いは耐え難い。だがしかし、です。「トランプ革命」が成功すれば、おそらく日本は以前にも増して、特権的な同盟国になれます。そうなれば、相互に保護主義的な環境のなかで、テロ対策、経済、技術をめぐる合意に達することができるでしょう。

米国との関係において日本は、ヨーロッパにおける英国のような地位を占めるかもしれません。