じじぃの「介護のある暮らし・生の営み・命と対峙する人たちを描く!倫風」

最後の瞽女 小林ハル 津軽三味線の源流 The Last Goze, a blind female strolling musician,Kobayashi Haru

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5J_6izRbZxk

『ゴゼ小林ハル像』 1983年

最後の瞽女(ごぜ)小林ハルさんとの日々で掴んだもの 美術家・木下晋

2020年09月09日 致知出版社
盲目の旅芸人・瞽女(ごぜ)として105年の天寿を全うした小林ハルさん、元ハンセン病患者の櫻井哲夫さん、谷崎潤一郎の代表作『痴人の愛』のヒロイン・ナオミのモデルとされた和嶋せいさん……。
実に多様な人物たちの顔や姿を、10Bから10Hまでの鉛筆を使い分け緻密に、濃密に描き込んでいく。鉛筆画の第一人者と呼ばれる、木下晋さんの制作スタイルです。
https://www.chichi.co.jp/web/20200909_kinoshita_susumu/

『倫風』 2022年1月号

実践倫理宏正会

介護のある暮らし 木下晋さん 闘病する妻の姿を描くということ(下) より

命と対峙する人たちを描く

今、僕はパーキンソン病で闘病する妻を介護しながら、その姿を描き続けています。これまでモデルにしてきたのは、「最後の瞽女(ごぜ)」と言われた小林ハルさん、元ハンセン病患者で詩人の桜井哲夫さん、そして母の姿も描きました。
それゆえ、よく「老い」や「病(やまい)」をテーマにしていると言われるけれど、そうではありません。僕にとってはすべて運命的な出会いだったのです。想像もつかないような壮絶な人生を歩み、命と真摯(しんし)に向き合う人たちのことを、「もっと知りたい」という一心で描き続けてきました。
僕はもともとヨーロッパの伝統美術に影響を受け、油絵を描いていました。30代半ばには現代アートのメッカであるニューヨークへ。しかし、日本から持ち込んだ作品は「オリジナリティがない」と相手にされず、打ちのめされてしまう。そこで世界的な名声を博する現代美術家荒川修作さんと出会い、「君のアイデンティティは?」と問われたのです。
僕は極貧と災難続きの絶望的な生い立ちを一気に語り、放浪癖のある母との葛藤を打ち明けました。母は家庭を守る資格が欠落し、僕は母親の温もりを知らずに育った。「母のせいで人生を狂わされた」という恨みがつのり、精神的に追い詰められていたのです。すると荒川さんは「君は芸術家として最高の環境に生まれたのだ」と。その瞬間、僕の中にあったコンプレックスが吹き飛び、人生観も逆転してしまった。人を描くということの意味を考えさせられたのです。

身体の奥に覗(のぞ)く、生きようとする人間の姿

女房がパーキンソン病とわかったのは2015年、そこから鶴瓶(つるべ)落としのように身体の機能が落ちていきました。僕も絵を描きながら介護するのは厳しいです。まともに介護していたら何もできなくなる可能性があり、自分の寿命も考えてしまう。葛藤はありました。
それでも描いている時は無心で没頭します。すると今まで自分の中にあった老いや病に関わる常識や価値観のようなものが一掃されるのです。女房はだんだん身体の機能が失われ、自分でベッドから起きることもできなくなっていく。身体は壊れていくけれど、そのひび割れの奥にある命というか、生きようとする人間の本当の姿が見えてきたのです。
2021年9月に開いた展覧会のテーマは「生の脱皮の証し」でした。一昨年の夏、僕は久しぶりに蝉(せみ)が脱皮するところを見ました。最初は真っ白なのに、3、4時間後には褐色になる。あの変わりようが美しいのです。ところが、1週間くらい盛んに鳴いていたその蝉も、地面に落ちて終末の時を迎える。それを見ていたら、女房が脱皮する後ろ姿と重なりました。
手足がきかない彼女は20分、30分もかかって、もがきながら衣類を脱いでいく。その姿はまさに脱皮でした。脱皮とは「生」に向かって羽ばたくというイメージがあったけれど、これは「死」に向かって脱皮しているのではないか。女房も脱皮を繰り返しながら、死に向かうのではないかと考えながら、僕はその裸身を描いた。それも「生」の証なのです。

生の営みは続いていく

いくら仲のいい夫婦でも30年、40年過ごしていると倦怠期といいますか、他人同士よりもっと悪い関係になることもあるわけです。わが家でもそういうことはいくらでもあったけれど、だんだん不平も言っていられなくなった。介護することで、また違った関係性ができていますね。
一刻一刻と妻の症状は選んでも、人間の生の営みはなお続いていく。僕は描くことでその本質に迫っていき、今はそれがライフワークになっているのです。(談)

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どうでもいい、じじぃの日記。
「ピンポーン!」
「また、雑誌持ってきました」
小太りのおばちゃんが、今年の暮れになってもやってきた。
「これ、いいでしょ」
正月飾り用の銀メッキした松ボックリ。小ぶりだが見た目がかわいい。
「黒豆とクルミ入りの佃煮、食べてね」
パラパラと『倫風』 1月号を読んでみた。

「命と対峙する人たちを描く」

「今、僕はパーキンソン病で闘病する妻を介護しながら、その姿を描き続けています」

「最後の瞽女(ごぜ)」
作品の「小林ハル」さんは、三味線を弾き唄を歌いながら旅を続けた盲目の女旅芸人であった。
描かれた彼女の顔はなんとも深い「生きざま」を表現している。
少し、「生」の重みについて考えさせられた。