じじぃの「科学・地球_256_生態学大図鑑・魚の乱獲」

Happening Now: Dead Zone in the Gulf 2020

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=PKGpMJ707wA

The dead zone in the Gulf of Mexico

Dead zone

National Geographic Society
Dead zones are low-oxygen, or hypoxic, areas in the world’s oceans and lakes.
Because most organisms need oxygen to live, few organisms can survive in hypoxic conditions. That is why these areas are called dead zones.
https://www.nationalgeographic.org/encyclopedia/dead-zone/

生態学大図鑑』

ジュリア・シュローダー/著、鷲谷いづみ/訳 三省堂 2021年発行

船を大きくすればするほど追いかける魚は小さくなる 魚の乱獲 より

【主要人物】ジョン・クロスビー(1931年~)

1992年に、一つの法的措置がカナダ大西洋沿岸地域の生態的、社会経済的、文化的構造を一変させた。当時の漁業海洋相ジョン・クロスビーが、大西洋のタラ漁にモラトリアム(一時的禁漁)を課したのである。その措置は必然だった。タイセイヨウタラの漁獲量はかつての1%に落ち込んでいた。この海域では乱獲が進み、これ以上漁業を続ければ回復が難しいところまできていた。クロスビーは政治家として最も苦しい決断だったと振り返る。モラトリアムの決定によって何千人のものカナダ人が職を失った。500年間、タラ漁は大西洋沿岸地域の、ことにニューファンドランド島住民の生活を支えてきた。
1992年のモラトリアムは、最初は2年程度と予想されたが、資源の回復は見られず、ほぼそのまま継続された。
およそ2005年から2015年までの間に、ニューファンドランド島北東沿岸のタラ資源は、毎年約30%ずつ増加したが、それより南の沿岸ではそれほど速くは回復しなかった。2017年と2018年にはタラの数は再び急激に落ち込み、資源量は全体に依然としてあまりに小さいままで、大規模漁業を支えることはできない。気候変動も影響しており、高い水温が、タラにもタラの食物源にも生きるのが難しい条件となっている。
ニューファンドランド島の漁民はエビ・カニ漁に切り替えたが、さらなる打撃となったのは、タラの個体数が回復した海域で、タラがエビを食べ始めたことだった。この生態系は、大規模なエビや他の甲殻類の漁業と大規模なタラ漁の両方を支えることはできない。

世界的な危機

魚の乱獲はいまや地球規模の問題である。世界の30%以上の漁業が生物的限界を超えた魚を獲っており、現在では、漁業資源の90%が制限ぎりぎりであるが、それを超えて乱獲されている。雇用を維持し、消費者の需要に応え続けるためには、持続可能な管理が不可欠だ。採用されるべき管理戦略は、問題の性質に応じて異なる。魚が成熟する前に獲ってしまえば、将来、最大水準で繁殖することによって個体数を維持するのを制限する。このタイプの乱獲には、獲る魚の最小サイズの制限を設けることでコントロールできる。
もし、あまりに多くの成熟した魚を獲られれば、繁殖で個体数を維持するには不十分な数しか残らない。このような場合には、モラトリアムと漁業割り当てが有効な手法になりうる。最終的に魚類資源があまりに枯渇して生態系じたいが変わり、もはや魚類資源を持続可能な水準に維持できない状態になっているときには、「生態系規模の乱獲」が起こっている。一般に、大きな捕食魚が乱獲され、より小さな捕食魚の個体数が増加すると、生態系全体を変えてしまう。北大西洋沿岸のタラ漁は、まさにこの状態に陥った。タラの餌生物の個体数が制御されなくなり、主要な3種の餌生物、エビ、カニ、カラフトシシャモすべての個体数が増加したのである。
乱獲問題は、今では海洋の生態系に影響を及ぼす気候変動や汚染と複合する。その帰結は深刻なものである。もし地球温暖化がこのまま続けば、海水温はさらに上昇し、海氷が今以上に溶け出し、風と海流のパターンが変化するだろう。その結果として、上層の栄養分が深層に移り、海洋の生態系は飢餓にさらされて、海の植物連鎖を底辺で支える植物プランクトン光合成量が減少する。
今から3世紀以内、2300年までには、世界の漁獲量が20%減少し、北大西洋と西太平洋では50~60%も減少すると推測される。この推定は2018年に、カリフォルニア大学アーバイン校の科学者たちが、極端な温暖化として9.6℃の気温上昇の仮定に基づいて推算したものだが、彼らのモデルは、一つの可能性を示している。

汚染の影響

海洋生態系を損なう汚染のタイプは、主に2つある。広く共通するのは化学肥料の流出である。化学肥料に多く含まれる窒素とリンが赤潮(藻類などの植物プランクトンの異常増殖)の原因になる。それらが死んで分解されるとき、酸素を消費し、水域には酸素欠乏で生物がすめない「デッド・ゾーン」ができる。魚はそこから逃れるか、死ぬしかなく、海岸近くに生息する稚魚が外洋に出る前に危険にさらされる。
2017年には、メキシコ湾のこの年のデッド・ゾーンは2万2000km2を超えて広がっていた。プラスチックによる汚染はもう1つの脅威である。魚はプラスチックを食べ、プラスチックの網やその堆積物のなかで身動きがとれなくなる。現在、海洋には5兆トン以上のプラスチックごみがあり、毎年800万トンを超える量が追加されつつあると見積もられている。それが放置されれば、2050年までには、海洋におけるプラスチックごみの総量が、魚の総量を上回ると予測されている。

植物プランクトンによる赤潮

植物プランクトンによる高密度の赤潮が、メキシコ湾の衛星画像には赤で示されている。死んだ藻類を分解する細菌はCO2を放出し、生物に不可欠な酸素を吸収する。