じじぃの「科学・地球_244_生態学大図鑑・市民科学」

Monarch butterflies amazing migration to Mexico

動画 YouTube
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Danaus Plexippus

Monarch (Danaus Plexippus) Butterfly Cluster, Michoacan,

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生態学大図鑑』

ジュリア・シュローダー/著、鷲谷いづみ/訳 三省堂 2021年発行

市民ネットワークはボランティアに頼る 市民科学 より

【主要人物】フレッド・アーカート(1911~2002年)、ノラ・アーカート(1918~2009年)

市民科学とは専門家ではない個人やチーム、あるいはボランティアネットワークによる調査や観察であり、多くの場合、専門の科学者とパートナシップで進められる。それは、科学界は全体として環境に対する社会の関心に応えるべきだという認識と、市民は科学的な知識の蓄積につながる信頼に足る科学的証拠を提供できることへの理解とに基づくものである。一般の人々の参加は、研究機関にとって他のやり方ではあまりに費用と時間がかかりすぎるプロジェクトの実施を可能にする。

オオカバマダラを求めて

市民科学の最も有名な実践例の一つは、渡りをするチョウのオオカバマダラがどこで越冬するかの謎を解明しようとしたものである。1952年に、オオカバマダラにずっと以前から魅せられていたカナダの動物学者フレッド・アーカートとその妻のノラは、この渡りチョウが秋にカナダ南部と米国北部の州を発ったあと、どこまで旅をするのか突き止めようと標識調査を始めた。
2人は「市民科学者」の小さなグループに、翅(はね)に標識のマークをつけることと目撃報告への協力を求めた。十数名程度の協力者から始まった「昆虫渡り協会」は、その活動が知られると何百人ものボランティアが集まるまでに成長した。何年間にも渡ってボランティアたちが翅に「トロント大学動物学に送れ」とのメッセージを記したオオカバマダラの数は数十万にのぼった。
このアーカート夫妻の最大限の努力にかかわらず、追跡はテキサスで途絶えた。1975年1月2日、ついに2人のアマチェアナチュリストのケン・ブラガーとカテリーナ・アグアドーが、メキシコシティ北部の山地林でオオカバマダラの越冬場所を発見したのである。しかし、標識されたオオカバマダラは見つからなかった。翌年の1月に、ようやくアーカート夫妻は前年8月にミネソタ州で2人の学生が標識したオオカバマダラを見つけた。市民科学が、オオカバマダラが北アメリカからメキシコへ渡りをするという動かぬ証拠を提供したのだ。今では、何百万ものオオカバマダラの越冬場所が知られており、春と秋の移動経路を追うことに重点が移されているが、メキシコ、米国、カナダの何千人もの人々が、オオカバマダラがどのいうな経路をたどり、気候パターンの変化がどう影響しているか、より明白な全体像を把握するために助力している。

市民の前進

1960年代から1970年代にかけて、北米繁殖鳥調査やイギリス営巣記録カードプロジェクト、日本で産卵するウミガメの調査など、ボランティアが活躍するプロジェクトが、続々と立ち上げられた。1979年に王立鳥類保護協会(RSPB)は、人々が自宅に居ながらにして気軽に家の庭や裏庭、あるいは道で見かけた鳥を報告する「ビッグ・ガーデン・バードウォッチ」を開始した。2018年までに50万人以上が参加し、記録された鳥は700万件にのぼる。この膨大なデータ、を今では1979年から年ごとに比較できる。それは、市民の協力なしには不可能である。
「市民科学」という言葉は、1989年に『アメリカの鳥』誌に初めて活字として登場した。それは、オーデュポン協会後援の、酸性度を測るための雨水サンプルを集めるボランティア・プロジェクトの記述に使われた。そのプロジェクトの目的は、魚類や無脊椎動物を死なせ、間接的にそれらを餌とする鳥類に影響する、河川や湖沼の酸性化への関心を高めることであった。また、米国政府に圧力をかける意図もあり、この直後の1990年に、政府は大気浄化法を導入した。

限界と可能性

生態学調査プロジェクトのなかには、求められる技能があまりに高度であったり、必要なテクノロジーが複雑であったり高価すぎたりして、訓練を受けていないアマチュアの参加が難しいものもある。また、科学的手法に不慣れな人々が、同定できない種を省くなどして、記録に隔たりをもたらすかもしれない。
しかし、大部分の市民科学のそれほど煩雑ではない作業は訓練を必要とはせず、より複雑な手順の作業は、基本の手ほどきを受けてから取り込むことができる。人々が市民科学にしばしば惹きつけられるのは、まさにその過程で新たな技能を習得できるからである。地球の自然環境と資源への圧力ぼ増大は、種やそのハビタットが存在するかしないか、またより広い生態系を含めて、その変化を記録するデータの必要性をますます高めている。世界最大の市民科学プラットフォームである「ズーニバース」のようなプロジェクトは、この必要性を満たすのに役立っており、全世界の170万人のボランティアによってデータが蓄積されている。このようなプロジェクトは、保全団体、研究機関、非政府機関および各国の政府にとって、現在もこの先も重要な資産であり続けるだろう。