じじぃの「科学・地球_241_生態学大図鑑・類人猿と人間の行動」

未来へのメッセージ: ジェーン・グドール

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ksCSReSobZw

Chimpanzee Thinking

Female Chimps More Likely Than Males to Hunt With Tools

April 15, 2015 Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/smart-news/female-chimps-more-likely-males-hunt-tools-180955004/

生態学大図鑑』

ジュリア・シュローダー/著、鷲谷いづみ/訳 三省堂 2021年発行

「道具」を定義しなおすか、「人間」を定義しなおすか、それともチンパンジーを人間と認めるか 動物モデルを使って人間の行動を理解する より

【主要人物】ジェーン・グドール(1934~)

ヒトと他の動物のゲノムをマッピングする近年の分子生物学は、19世紀中葉にチャールズ・ダーウィンが最初に示唆した――人間は類人猿と共通の祖先を持つという説の妥当性を示した。今日では、ナミチンパンジー(Pan troglodytes)とボノボ(Pan paniscus)がヒトと最も近縁の種であることに異を唱える科学者はほとんどいない。したがって、この2種の研究は、わたしたち自身とその行動の起源を学ぶ絶好の機会を提供する。しかし、科学界は長年、人類は自然界の他の生物とは異なるとしてきた。
チンパンジーとヒトの類似点について、わたしたちの目を開かせることになったのは、そのほとんどが霊長類学者ジェーン・グドールの仕事である。1961年に、指導者ルイス・リーキーとの刺激的な情報交換のなかで彼女が伝えたある観察事実が、科学界を揺るがすことになった。彼女はチンパンジーが道具を使っているところを見たのだ。初めて公式な記録に残されたチンパンジーのこの行動は、「ヒトという種が何を意味するのか」という、ヒトに生物としての特殊性を認める考えに挑戦するものだった。グドールの自然史に関する知識は1957年に初対面のリーキーを感動させ、彼はグドールにチンパンジーの行動研究の仕事を提案した。人類学者で古生物学者であったリーキーは進化論を信奉しており、人類と大型類人猿――チンパンジーボノボ、ゴリラ、オランウータン――は共通の祖先を持つと主張していた。

つなぎ合わせる

リーキーの野外調査は、人類とその共通祖先をつなぐ化石生物、「失われた環」を探すことに重点を置いていた。それまで野生のチンパンジーは本格的な研究対象とされたことがなかったので、リーキーはその研究が初期の人類の進化に光をあてることになると期待した。鋭い観察力を持ち、学界のしがらみに縛られていないグドールは、その仕事にとって理想的な選択であった。リーキーが望んだとおり、彼女は初期人類の進化説に新たな視点をもたらし、大胆にもチンパンジーとヒトは従来想像されていたよりもずっと類似していると述べた。このときまで、道具を考案し製作する能力こそが、人類と他の動物を分ける優れた特徴とするのが、科学的にも一般にも共通認識であった。グドールの発見により科学者は考えなおすことを余儀なくされた。
グドールの研究拠点はタンザニアのゴンベ渓流国立公園に設置され、タンガニーカ湖東岸のチンパンジーの群れを監察した。チンパンジーの真の自由な行動を自分の目で見るために、彼らのなかで暮らすことを選んだグドールは、動物行動学分野で野外調査をおこなう研究者の草分けだった。動物行動学では、生物学者は自然の生息環境における動物のモニタリングに基づき、自然の行動を理解することを試みる。タンザニアでの最初の数ヵ月間は、チンパンジーはグドールから身を隠そうとしたが、やがて彼女がいることを忘れるようになった。
グドールは何時間も座り込んでチンパンジーを監察し、距離を保ちながら静かに調査記録をとった。1961年11月のある朝、彼女はデイヴィッド・グレイビアードと名づけた年配の雄のチンパンジーがシロアリ塚の向こうに座っているのに気づいた。デイヴィッドは草をシロアリ塚に差し込み、それを引き出しては口のなかに入れた。グドールはチンパンジーがその場を離れるまで、その様子を見守った。そして、チンパンジーが少し前まで座っていたところに行ってみると、何本かの草の茎が地面に捨てられているのが見つかった。その一つを拾って塚に差し込むと、興奮したシロアリたちが噛みついてきた。彼女は、チンパンジーが草でシロアリを「釣り」、獲物を口のなかに入れているのだと悟った。リーキーとの対話によりグドールは、これが大発見であると知った。彼女はまた、チンパンジーが葉を取り除いて加工した細い小枝をシロアリ塚に差し込むところも見た。チンパンジーは道具を使うだけでなく、道具を作ることすらあるのだ。

遠い親類

ナミチンパンジーにおける食物不足と攻撃性の関係は、進化上同じように人間に近いボノボ(ピグミーチンパンジー)が平和をこよなく好む理由を説明する。小柄で穏やかなこのチンパンジーも雑食性だが、一年中、果実が豊かな環境にすむ。彼らは集団で食物を探し、社会的状況から生じる緊張をやわらげるためにセックスを利用する傾向もある。ボノボ社会は母権制で、雄支配のナミチンパンジーの群れとは異なり、めったに衝突は起こらない。
2017年に、ノースカロライナ州デューク大学の研究者がおこなった実験は、ボノボの利他性も明らかにした。実験では、2頭のボノボ(知らないどうし)を柵で仕切られた別々の部屋(AとB)に入れ、1個の果実を片方の部屋(B)の上にぶら下げた。Aにいるボノボはそれを落とすことができるが、自分のものにはできない。観察者はこのボノボがいつも果実を果実を落としては、もう一方のボノボが取れるようにしていることに気づいた。見返りもなく見知らぬ相手を助けているのだ。
また研究者は、知らないボノボがあくびをしたときに、その映像を見たボノボたちに、ぼのようにあくびの反応が誘起されるかを監察した。その結果から共感能力を持つことが示唆された。他の研究チームは、ボノボが苦しいときにどのように慰め合うかも示した。
ボノボのこれらの特性は、ヒトとナミチンパンジーに共通に見られる「否定的」行為とは異なり、賞賛に値する思いやりのようなヒトの特性によく似ている。ボノボのこのような行動の理解は、ヒトの社会行動がどのように発達したかにも光をあてるだろう。