じじぃの「科学・地球_224_ホワット・イズ・ライフ?細胞の記憶」

A Memory cell never forgets

Memory B-Cell

Ask A Biologist
●A Memory cell never forgets
Toward the end of each battle to stop an infection, some T-cells and B-cells turn into Memory T-cells and Memory B-cells.
As you would expect from their names, these cells remember the virus or bacteria they just fought. These cells live in the body for a long time, even after all the viruses from the first infection have been destroyed. They stay in the ready-mode to quickly recognize and attack any returning viruses or bacteria.
https://askabiologist.asu.edu/memory-b-cell

京大、記憶が消える仕組みの一端を解明 光とイソギンチャク由来の成分でマウスの記憶を消去

2021年11月17日 ITmedia NEWS
京都大学の研究チームは11月15日、光を使ってマウスの記憶を消すことに成功し、記憶が消える仕組みの一端を解明したと発表した。
イソギンチャク由来のタンパク質をマウスの脳に埋め込み、光を当てたところ、マウスの記憶が消えていることが確認できたという。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2111/17/news143.html

WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か

ポール・ナース (著) / 竹内薫 (訳)
生きているとはどういうことか?生命とは何なのだろう?人類の永遠の疑問にノーベル賞生物学者が答える。
まえがき
1 細胞―細胞は生物学の「原子」だ
2 遺伝子―時の試練をへて
3 自然淘汰による進化―偶然と必然
4 化学としての生命―カオスからの秩序
5 情報としての生命―全体として機能するということ
世界を変える
生命とは何か?

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『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』

ポール・ナース/著、竹内薫/訳 ダイヤモンド社 2021年発行

5 情報としての生命―全体として機能するということ より

細胞の究極の目的

目的行動は、生命の決定的な特徴の1つで、生命のシステム全体がまとまって稼働したのみ可能となる。生物のこのような際立った特徴を最初に理解した人物の一人が、哲学者のイマヌエル・カントだった。
19世紀の始まりごろ、著書『判断力批判(Critique of Judgment)』の中で。カントは「生きている身体の各部位は、全体のために存在している。そして、全体は各部位のために存在している」と主張した。生命体は、自らの運命をコントロールする、組織化され、結束した、自己制御力のある存在だと、彼は唱えた。
これを細胞レベルで考えてみよう。それぞれの細胞では、おびただしい数の化学反応と物理的活動が起きている。こうしたさまざまなプロセスがすべて無秩序に行われたり、互いに競合していたりすると、すぐに崩壊してしまう。情報を管理することでのみ、細胞はその極度に複雑な働きに指示を課すことができ、ひいては、生き延びて増殖し続けるという究極の目的を達成することができるんだ。
この仕組みを理解するために、細胞が全体として機能する。化学的かつ物理的な機械であることを思い出そう。個々の構成要素を調べることで、細胞についてよく理解することができる。でも、生きている細胞内で行われている数多くの化学反応、正常に機能するために、互いに連絡しあって団結して働かなくてはならない。
そうすることによってのみ、細胞の糖が欠乏したり、毒物に遭遇したり、環境や内部の状態が変化したときに、その変化を感知し、なすべきことを調整し、ひいてはシステム全体を可能な限り最適に機能させ続けることができる。
蝶が、周りの世界の情報を集め、行動を修正するためにその知識を利用するのと同じように、細胞は、内と外の化学的かつ物理的な環境を常に評価し、その情報を利用して、自分自身の状態を制御している。
情報を利用することが、細胞にとってどんな意味を持つのか、もっとよく考えてみよう。まずは、人間が設計したもっと分かりやすい機械で検討するのがよいだろう。
たとえば、遠心調速機を見てみよう。最初は石臼とともに使用するために、オランダ人の博学家クリスティアーン・ホイヘンスによって開発されたが、1788年にスコットランド人の技術者で科学者ジェームズ・ワットによって、ものすごく上手く改良された。
この装置を蒸気エンジンに取り付けると、エンジンが速くなりすぎて壊れないよう、一定速度を保つことができた。
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ワットの遠心調速機は、情報という観点から見ると、とても分かりやすい。球の位置は、エンジンのスピード情報を読み出す役目を担っている。スピードが望ましいレベルを越えると、蒸気バルブというスイッチが作動して減速する。
つまり、人間のオペレーターからの入力を必要とせずに、機械が自分自身を調節するために利用できる、情報処理装置なんだ。ワットは、目的を持ってふるまう、単純ま機械装置を作ったわけだ。その目的は、「蒸気エンジンを一定速度に保って稼働させる」こと。遠心調速機ははその目的を達成した。
生きている細胞の中では、はるかに複雑で微調節が必要なメカニズムを通じてだけれど、遠心調速機と同じように機能するシステムが広く使われている。こうしたメカニズムは「恒常性」(ホメオスタシス)を保つための効率的な手段となる。恒常性は、生存へとなつがる状態を維持するために、常に働き続けるプロセスだ。あなたの身体が、体温や体液量や血糖値を一定に保つように働いているのは、この恒常性のおかげなんだ。

細胞の記録

ハードウェアとソフトウェアの喩えは、すぐに無理が出始める。そこで、システム生物学者のデニス・ブレイは、生命という「柔軟性のあるコンピューター材料」を「ウェットウェア」と呼ぶことにした。言い得て妙ではないか。細胞は、湿った(ウェットな)化学を媒介にして、パーツ同士がつながっている。
このことは脳にもあてはまる。脳は典型的な、きわめて複雑な生物コンピューターだ。あなたの一生を通じて、神経細胞は成長し、収縮し、他の神経細胞との結合を築いたり壊したりしている。
複雑なシステムが、目的に向かって、まとまって行動するためには、システムのさまざまな構成要素と外部環境のあいだで、効果的なやりとりが必要だ。生物学では、こうしたやり取りを実行を実行する一連のモジュールを「シグナル伝達経路」と呼ぶ。あなたの血糖を調整するインスリンみたいに、血液に放出されるホルモンは、シグナル伝達経路の一例だが、他にもたくさんある。
シグナル伝達経路は、細胞内、細胞と細胞のあいだ、器官と器官のあいだ、生物と生物の間、生物の集団と集団のあいだ、さらには生態系全体のさまざまな種のあいだでさえ情報を伝達する。
シグナル伝達経路は、情報を伝達する方法を調整して、さまざまな結果を出すことができる。電気のスイッチみたいに、信号を送って単純に出力をオンやオフにすることもできるが、信号はもっと微妙に作用することもできる。
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というわけで、細胞には、空間を通して信号を送ることに加え、時間を通して信号を送る方法が必要だ。そのためには、生体システムは情報を「記憶」できなければいけない。つまり、細胞は過去の経験の化学的な痕跡を持ち歩けるということだ。今は細胞の話をしているのだけれど、ちょうど、脳が形作る記憶のようなものと想像してもらってかまわない。細胞の記憶は、ついさっき起きた出来事に対する儚(はかな)い印象から、DNAによって保持される長期的で安定した記憶まで、多種多様だ。
細胞は、細胞期間中、短期の過去の情報を利用する。細胞周期の初期に発生した事象が「記憶され」、その後の周期で起きる事象へと申し送りされる。たとえば、DNAをコピーする過程がまだ完了していないか、上手くいかなかった場合、その事実を登録し、細胞分裂を引き起こすメカニズムに「ちょっと待ちな!」と知らせる必要がある。
そうしなければ、細胞は全ゲノムがちゃんとコピーされる前に分裂しようとして、遺伝情報の欠落や細胞の死をもたらしかねない。