じじぃの「科学・地球_220_ホワット・イズ・ライフ?細胞・生命の基本単位」

The Life Cycle Of A Butterfly

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=3kZD6rlSLUw

Butterfly Life Cycle

Butterfly Life Cycle - Metamorphosis

⇒ What causes the radical transformation from caterpillar to butterfly?
⇒ How does a caterpillar rearrange itself into a butterfly?
⇒ What happens inside a chrysalis or cocoon?
https://wisconsinpollinators.com/BU/BA_ButterflyMetamorphosis.aspx

WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か

ポール・ナース (著) / 竹内薫 (訳)
生きているとはどういうことか?生命とは何なのだろう?人類の永遠の疑問にノーベル賞生物学者が答える。
まえがき
1 細胞―細胞は生物学の「原子」だ
2 遺伝子―時の試練をへて
3 自然淘汰による進化―偶然と必然
4 化学としての生命―カオスからの秩序
5 情報としての生命―全体として機能するということ
世界を変える
生命とは何か?

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『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』

ポール・ナース/著、竹内薫/訳 ダイヤモンド社 2021年発行

1 細胞―細胞は生物学の「原子」だ より

生命の基本単位

私が授業で初めて細胞を見たのは、黄色い蝶に出くわしてから間もなくのことだった。発芽した玉ねぎの種子が配られ、その根を顕微鏡スライドの下に押しつぶして、何でできているかを見た。生物学のキース・ニール先生は、生徒にインスピレーションを与えてくれる。
「生命の基本単位である細胞が見えるんだよ」
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巨大な細胞もある。たとえば朝食のお皿にのっている卵。その黄身全体がたった1つの細胞だなんて驚きだ。われわれの身体の細胞にも巨大なものがある。たとえば、背骨のつけねから、はるか足の爪先まで届く神経細胞。たった1個なのに、この細胞は長さが1メートルもあるんだ!
こうした多様性は驚くべきことだが、最も興味深いのは、あらゆる細胞に共通する部分だ。科学者は常に基本的な単位をつきとめることに関心がある。
基本的な単位の最たる例が、物質の基本単位である原子だ。で、生物学の「原子」は細胞なんだ。細胞はあらゆる生命体の基本的な構造単位であるだけでなく、生命の基本的な機能単位である。つまり、細胞は生命の中核をなす特徴を備えた、いちばん小さな存在というわけ。生物学者はこれを「細胞説」と呼んでいる。人類が知る限り、地球の生きとし生けるものは、1個の細胞か、あるいは、たくさんの細胞からできている。細胞は、誰が考えたって、生きているいちばん単純な物体だ。
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現在では、地球の生命体のほとんどは、細菌やその他の微生物細胞(「微生物」はたった1つの細胞で生きることができる微小生命体の総称)であることが分かっている。微生物は、上は大気の上層部から下は地殻にいたるまで、あらゆる環境に生息している。微生物ぬきでは、生命の営みが停止してしまう。
微生物はゴミを分解し、土を作り、動植物が成長するために必要な栄養素や、空気中から得た窒素を再循環させる。ひるがえって、科学者がわれわれの人体を調べれば、人の30億個ともいわれる細胞すべてに、最低1つは微生物が棲んでいる。誰もが微生物の細胞を抱え込んでいる。

人は誰しも、孤立して切り離された存在ではなく、人の細胞と微生物細胞がからみあい、絶え間なく変化し続ける。巨大なコロニーなんだ。

こうした微小な細菌やカビの仲間の細胞は、人体の中で、われわれとともに生きており、食べ物の消化や病気との戦いに影響を与えている。
しかし、17世紀になるまで、こうした目に見えない細胞が存在していることなど、誰も想像だにしなかった。ましてや、それらが目に見える他のすべての生命体と同じ基本原理にしたがって機能しているなんて。

生命の2つの大きな枝

細胞は生命の基本単位だ。その1つひとつが生き物で、脂質でできた細胞膜に包まれている。でも、原子が電子や陽子などからできているのと同じように、細胞もさらに小さな小さな部分からできている。現代の顕微鏡は非常に強力なので、生物学者はそれを使って、複雑でときにとても美しい細胞内の構造を明らかにする。
構造物の中でいちばん大きいのは「細胞小器官」で、それぞれ別々の細胞膜の層で覆われている。なかでも「核」は、染色体に記された遺伝命令を含む、細胞の指令センターだ。一方、細胞によって何百個の含まれている「ミトコンドリア」は、ミニチュアの発電所の役割を果たし、細胞が増殖して生き延びるために必要なエネルギーを供給してくれる。他にも細胞内のさまざまな器官や区画が、材料を細胞から出し入れして、それを細胞の内部で運び回るだけでなく、細胞のパーツを組み立てたり、壊したり、再生したりするなど、高度な生産・物流機能を果たしている。
もっとも、すべての生物が、こうした膜で包まれた細胞小器官や複雑な内部構造を備えているわけじゃない。核があるかないかで、生命は2つの大きな枝に分けられる。細胞に核を含んでいる生命体、たとえば動物、植物、菌類などは「真核細胞」と呼ばれる。核がない生命体は「原核生物」と呼ばれ、ようするに細菌か古細菌だ。古細菌は、大きさや構造からすると細菌と似ているが、実際にはとても遠い親戚だ。いくつかの点で、古細菌の分子の働きは、細菌よりも、われわれのような真核生物に近い。

あの蝶のように……

すべての細胞は、内部状態と周りの世界の状態の変化を検出して反応することができる。自分たちが棲んでいる通常の環境から隔てられても、周囲とは密接に連絡をとりあっている。さらに細胞は、自分たちが生き残って繁栄できるような内部状態を維持するために、常に活性化して働いている。このような性質は、子どものころに私が見たあの蝶や、それこそ人間のように、目に見える大きさの生物のふるまいと共通している。
事実、細胞は、あらゆる種類の動植物や菌類と、たくさんの特徴を共有している。細胞は成長し、繁殖し、自らを維持しており、これらすべてを行うことによって目的に向かっているように見える。とことん存続し、生き残り、繁殖するのだ。
レーウェンフック(オランダの博物学者。単レンズの光学顕微鏡を作製。繊毛虫類、動物の精子、細菌を発見。また、筋肉の横紋や昆虫の複眼なども観察した)が自分の歯の間から見つけた細菌から、あなたが今この言葉を読むことを可能にしているニューロンにいたるまで、すべての細胞は、すべての生き物と共通点がある。細胞がどのように機能するかを理解することで、生命の仕組みの理解へと近づく。
細胞の存在の中核をなすのが遺伝子だ。次にそれについて見ていこう。遺伝子は、細胞が自分を作って編成するために必要な命令を「暗号」にする。そしてその命令は、細胞や生物が繁殖する際に、新しい世代に引き継がれなければならない。