じじぃの「科学・地球_201_新型コロナ本当の真実・嫌ワクチン本を検証する」

こわいほどよくわかる 新型コロナとワクチンのひみつ 2021/3 Amazon

近藤誠 (著)
本書では、新型コロナウイルスの特徴から、免疫のしくみ、治療とクスリ、ついに接種が始まったワクチンまで、最新の研究論文を中心に重要テーマをわかりやすく解説しました。
さまざまな情報が飛び交うなか、どのように日常生活を送ればいいのか。
ぜひ、この本を役立ててください――近藤誠

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新型コロナワクチン 本当の「真実」

宮坂昌之【著】
免疫学の第一人者として絶大な信頼を得ている著者が、最新の科学的エビデンスをもとに新型コロナワクチンの有効性と安全性を徹底分析。
これ1冊読めば、ワクチンに対する疑問と不安がすべて解消する新型コロナワクチン本の決定版!
序文
プロローグ 新型コロナウイルスはただの風邪ではない
第1章 ワクチンは本当に効くのか?
第2章 ワクチンは本当に安全か?
第3章 ワクチンはなぜ効くのか?
第4章 ワクチン接種で将来不利益を被ることはないのか?
第5章 ワクチン接種で平穏な日常はいつ戻ってくるのか?
第6章 新型コロナウイルス情報リテラシー
第7章 「嫌ワクチン本」を検証する
第8章 新型コロナウイルス感染症の新たな治療法、そして未来

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『新型コロナワクチン 本当の「真実」』

宮坂昌之/著 講談社現代新書 2021年8月発行

第7章 「嫌ワクチン本」を検証する より

新型コロナワクチンの接種が本格化するタイミングに合わせて、ワクチンの危険性を煽り立てる「嫌ワクチン本」が相次いで刊行されて、話題になっています。残念なことに、こうした本は、新型コロナワクチンについてまっとうに解説した良書をしのぐ売れ行きです。
現在、接種が進められている、新型コロナワクチン向けのmRNAワクチンは、従来とはまったく違ったしくみで働くワクチンであり、副反応の頻度もインフルエンザワクチンに比べて少し高いため、なんとなく不安を覚える人が多いのもある程度は理解できます。しかし、だからといって、こうした「嫌ワクチン本」に頼り、その内容を鵜呑みにするというのは危険です。 大変な不利益を被りかねません。
ワクチン接種を受けるか否かの判断は、個人に委ねられていますが、できることなら正しい情報を知り、リスクとベネフィット(利益)を比べたうえで最終的な判断をしていただければと思います。
そこで、本章では、「嫌ワクチン本」の内容を詳細に』検証して、どのような問題があるかを具体的に指摘していきます。くれぐれも「嫌ワクチン」という情報の”ウイルス”に感染しないようにご注意ください。

反ワクチン派の急先鋒、近藤誠氏

近藤誠氏は、元慶応義塾大学医学部専任講師で、『患者よ、がんと闘うな』『がん放置療法のすすめ』など、がんの標準治療に対して批判的な著作で話題になった医師です。ワクチンについても批判的な考えの持ち主で『ワクチン副作用の恐怖』などの著作があります。この近藤氏が新型コロナウイルスワクチン接種の恐怖を煽り立てたのが『こわいほどよくわかる 新型コロナとワクチンのひみつ』(ビジネス社)という作品です。近藤氏のHPには、当初、日本文芸社で2月2日刊行予定だった作品が突如刊行中止になった経緯が記されています。
《本書は、専門家たちが世界に発信しているデータ(科学的エビデンス)を、ひとつひとつ慎重に積み重ねて真実をあぶりだしているので、どこにも欠陥がないと自負しています。
ところが、その本書で前代未聞の出版中止事件がおきるほど、新型コロナとワクチンをめぐる「言ってはいけないこと」の闇が大きく深く、忖度がはびこっていることが白日のもとに晒されたのだと思います。
それは、医療・製薬ワールドが関係する他の事柄全般に言えることです。
だからこそ一般の方がたは、ご自身の知性と理性で健康や命を守ることが大事である、と改めて知っていただきたいと思います》
近藤氏は自信たっぷりですが、同書を読んだ私には、同氏の主張は偏見に満ちており、ワクチンの予防効果に関する最新のデータが収録されていないうえ、なおかつその解釈は非常に恣意的に感じされました。また、なぜそのような結論にいたるのか理解に苦しむ記述がいたるところにありました。私には「どこに欠陥がない」どころか「欠陥」だらけの頻であるように感じられました。どのような問題があるのかは、後ほど詳しく説明していきますが、唖然としたのは、同書の巻末に記載された結論です。
近藤氏はワクチン接種の危険性を強調した後で、
《新型コロナは、その伝染力の強さから見て、どんな人も一生に一度は感染することを覚悟しなければならないでしょう(交差免疫があれば別)。
すると感染対策が成功すればするほど、感染する時期は先に延びます。
そのまま別の病気で死ぬ(死ねる)ことができれば(一面)大成功ですが、(他面)亡くなるまで何年も自粛生活をつづけることになります。自粛をつづけることによる、人生の味気なさはどうするのでしょうか。
また高齢者は、年をとるほど確実に身体機能が落ちていき、新型コロナへの抵抗力も低下します。つまり感染対象に成功するほど、先に行って感染したときに重症化し死亡しやすくなるわけです。
そのように考えてみると、(高齢者を含め)なるべく早くに感染してしまう、という方針もあり得るのではないでしょうか。
僕はそう考えるので、「むしろ、早くコロナに感染して、自然の免疫を獲得したいなぁ」と願っています。もしも重症化してお陀仏になるならば、それも高齢者としての運命でしょう。甘受するつもりです》

近藤氏の論に従えば、「危険なワクチン接種を控えて、感染予防策もとらず、できるだけ早く感染する」のが最善手となります。

しかし、第6章でも使用したデータですが、年代別死亡率を見ると、70歳代は4.5%、80歳代は12.3%ときわめて高率です。80歳代男性にいたっては、死亡率は17%。感染者の6人に1人以上が亡くなるのです。インフルエンザと比べても、はるかに高い死亡率です。「早く感染して、自然の免疫を獲得したいなぁ」などと軽く言える話ではありません。
呆れたことに、近藤氏の本には、新型コロナウイルス感染症になったときの重症化・死亡リスクについての記述がほとんどないのです。
それに、新型コロナウイルスに感染しても、それによって得られる免疫は大して強くなく、同じ株に再感染したり、感染性が高い変異株だとかなりの率で感染したりしてしまいます。つまり、はしかやおたふく風邪とは異なり、新型コロナウイルス感染症では終生免疫(=終生持続する強い免疫)はできないのです。それどころか1年ぐらいの短い免疫である可能性はあります。これに対してmRNAワクチンの場合、2回接種をすると、感染をするのは1000人に数人以下となり、非常に強い防御免疫が付与されます。これは自然感染で得られる免疫の比ではありません。しかも、最近のデータを見ていると、得られた免疫は最低1年ぐらい続きそうです。おそらく1回の追加接種をすることで再び最期に持続する免疫を維持することができると思われます。感染するよりはこちらのほうがはるかに安全です。
ワクチンには副反応が発生するのは不可避ですから、中立公正な記述であれば、そのリスクを指摘することには意義があります。しかし、氏の著作を読む限り、個別のケーススタディはあるものの、新型コロナワクチンを接種することによるリスクと、ワクチンを打たずに感染した場合のリスクを比較するデータがないのです。私は、これこそが、近藤氏が、どこにも欠陥がないと自負する作品の最大の「欠陥」だと考えます。