じじぃの「科学・地球_198_新型コロナ本当の真実・mRNAワクチン開発」

ついに実現!世界が注目するmRNAの研究者、カタリン・カリコ氏にインタビュー “コロナワクチンの安全性” や “研究での苦労” などについて聞きました。

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-p-NHD8s18I

ワクチン開発の立役者 カタリン・カリコ氏氏に聞く


ノーベル生理学医学賞にカリコ氏ら2氏、mRNAワクチン開発に寄与 (追加)

2023年10月2日 ロイター
スウェーデンカロリンスカ研究所は2日、2023年のノーベル生理学・医学賞を、メッセンジャーRNAの技術による新型コロナウイルスワクチン開発を可能にした発見により、米ペンシルベニア大のカタリン・カリコ特任教授とドリュー・ワイスマン教授の2人に授与すると発表した。

mRNAを治療に利用するうえで免疫システムが炎症反応を起こすことが大きな障害だったが、カリコ氏はこれを防ぐ方法を発見。ワイスマン氏との協働によりワクチン開発の道を開いた。
https://jp.reuters.com/world/us/C4UUHLQCLJPFNGPVP34CG52HNY-2023-10-02/

新型コロナワクチン 本当の「真実」

宮坂昌之【著】
免疫学の第一人者として絶大な信頼を得ている著者が、最新の科学的エビデンスをもとに新型コロナワクチンの有効性と安全性を徹底分析。
これ1冊読めば、ワクチンに対する疑問と不安がすべて解消する新型コロナワクチン本の決定版!
序文
プロローグ 新型コロナウイルスはただの風邪ではない
第1章 ワクチンは本当に効くのか?
第2章 ワクチンは本当に安全か?
第3章 ワクチンはなぜ効くのか?
第4章 ワクチン接種で将来不利益を被ることはないのか?
第5章 ワクチン接種で平穏な日常はいつ戻ってくるのか?
第6章 新型コロナウイルス情報リテラシー
第7章 「嫌ワクチン本」を検証する
第8章 新型コロナウイルス感染症の新たな治療法、そして未来

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『新型コロナワクチン 本当の「真実」』

宮坂昌之/著 講談社現代新書 2021年8月発行

第4章 ワクチン接種で将来不利益を被ることはないのか? より

2021年2月から接種が始まったmRNAワクチンも、5月に製造承認が出たアデノベクターワクチンも、これまでこれほど短時間に、しかもこれほど大人数の人に投与されたことは、歴史上ありません。初めてのことです。そのため、今見えていない副反応がいずれ見えてくるという意見が一部にあります。新型コロナウイルスにはまだわからないことも多く、もちろん、それを完全に否定することはできませんが、私はそのような可能性は非常に低いであろうと考えています。本章では、新型ワクチンのしくみを説明したうえで、その理由を詳しく説明していきます。

mRNAワクチン開発にたちはだかった2つの壁

mRNAワクチンを実用化するためには、大きな壁がありました。化学的に不安定ですぐに分解されてしまうmRNAを確実に細胞内に送り込む方法が確立されていなかったのです。加えて、送り込むmRNAは外来のウイルス由来のものであり、細胞内に首尾よく送り込むことができたとしても、非自己を排除する自然免疫反応が始動して、外来性RNAが排除されてしまいます。また、前述したように私たちのからだの中には何種類ものRNA分解酵素が存在し、新しくできるRNAや外来性のRNAを分解しようとします。実際、実験的に大量のRNAを一度に細胞内に入れると、ウイルスなどの異物の侵入を察知する種々の異物センサー(Toll. 様受容体=TLR、RIG-IやMDA5など)の活性化を引き起こし、自然免疫反応が動きだし、RNAを排除しようとします。ワクチン抗原であるウイルスタンパク質(この場合はスパイクタンパク質)が作られる前に、RNAが排除されてしまったら、抗原刺激がうまくいかず、獲得免疫はいつまで経っても成立しません。
そこでRNA研究者たちは、人工合成したRNAの一部の構成成分を変えることで、この自然免疫系の攻撃を回避させるとともに、さらに遺伝子の一部を改変して少量のRNAから大量の抗原タンパク質を産生できるようにするなど、さまざまな工夫をしました。それについて簡単に説明しましょう。
先にも少し触れましたが、まず1番目に、前述したようにRNAの構成成分であるウリジンをN1-メチルシュードウリジンに変換しました(RNAは、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルという4種類の塩基リボースという糖からなり、ウラシルとリボースが結合したのがウリジンです)。このためにRNAの翻訳効率が元のものより約10倍上昇し、ヒト細胞内でウイルスタンパク質が効率的に作られるようになりました。またこの修飾RNAは、TLR7、TLR8などの自然免疫受容体への結合性が弱くなるために、外来性RNAを排除しようとする自然免疫反応が起こりにくくなりました。
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さらに、5番目の工夫は、RNAを脂質膜の中に封じ込めて組織中にたくさん存在するRNA分解酵素からの作用を受けないようにしたことです。具体的には、RNAを脂質でできた膜で包み、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid Nano-particle)とよばれる形にしました。
この脂質ナノ粒子は、リンパ管に入りやすい性質を持っていることから、筋肉内に注射されたmRNAワクチンは血管に入らずにリンパ管に選択的に入り込みます。リンパ管は最寄りのリンパ節(=医学的には所属リンパ節という)につながっているので、注射されたワクチンが所属リンパ節に直接的に運び込まれることになります。リンパ節には樹状細胞やマクロファージなどの異物を取り込む面絵k細胞が集中しています。ワクチンはこうした細胞に取り込まれて、抗原提示というプロセスを経て、T細胞やB細胞が活性化されるようになります。
ヒトの細胞に取り付くスパイクタンパク質をもっていないmRNAワクチンが、細胞内に人工RNAを挿入できるのも、こうした脂質ナノ粒子という特殊な形状にしたからに他なりません。すなわち、脂質ナノ粒子がリンパ管を介してリンパ節に到達し、そこで樹状細胞内に取り込まれることにより、あたかも樹状細胞がウイルス感染を起こしたかのような状況ができるのです。その結果、新型コロナ反応性のT細胞、B細胞が活性化されて、強い免疫反応が起きるようになる、というのがこの技術の素晴らしいところです。

スパイクタンパク質が重大な炎症を引き起こすのは本当か?

mRNAによってヒトの体内で作られる産物(=ウイルススパイクタンパク質)が「毒素」として働いて炎症をひどくする可能性があるという意見をときどき聞くことがあります。これはスパイクタンパク質を試験管内で大量に作ってマウスに実験的に投与すると炎症を引き起こす、という知見をもとにした話です。
しかし、議論の大前提としてスパイクタンパク質の血中濃度が適正なものかを考える必要があります。実験では、ng/mlというスパイクタンパク質をマウスに投与すると、肺での炎症が誘導されることが観察されています。一方、ヒトでは、ワクチン投与後には血中に検出されるスパイクタンパク質は非常にわずかであり、pg/mlのオーダーしかありません。つまり、スパイクタンパク質が炎症を起こすために必要な1000分の1程度の濃度しか存在しないのです。薬でも毒でもなんでもそうですが、一定量存在しないとその薬効が発揮されません。炎症を誘導するよりも1000倍も少ない量では炎症は起きませんし、毒素として働くことも働くこともできません。
これまで世界で38億回以上ワクチン接種が行われていますが、ワクチン接種で導入されたスパイクタンパク質が原因で生命に関わる重篤な炎症反応が起きたという確実な報告はありません。したがって、私は、この問題も心配ないであろうと思います。